近寄りがたい人に惹かれる
親友、家族水入らず、気の置けない仲、理解ある彼くん、こういう言葉は全部嫌いだ。
陽キャ、アッパー、ハイテンション。ディスコ、クラブ、遊園地。そういった明るいものを連想させる言葉も苦手。
気の置けない友達という言葉に関しては、このワードを聞くだけで腹が立つくらいには毛嫌っている。
理由は簡単で、私自身が人に恵まれてこなかったからだ。要するに、身の回りに誰1人いなかったがゆえの嫉妬。
ああ、情けない。情けないけれど、これが現実。
つまり私はキラキラした人や関係が苦手だ。
世のポジティブワードに嫌悪感がある。
じゃあ、何が好きなのか。
ずばり、何を考えているかわからない人だ。
好きな人が何を考えているかわからない〜!とかいうフワフワした話ではない。知恵袋で同類を探そうとしたが、上記のような例しか出てこなかった。
好きな人のことを知りたい!とかではなく、ただ、何を考えているかわからない人が好きなのだ。
今の言葉を借りると、ダウナー系が近いのかもしれない。闇がある、人間ぽくない人物がたまらなく大好きだ。基本的に表情が変わらず、時々笑顔を見せると「うおお〜っ」と歓声が上がるような。(大体そういうことしてくるやつっていじめっ子なんだけど)
芸能人でも、キャラクターでも、話し出すと陰が見えてきたり、明るく振る舞っていても隠し切れない闇を持っている人を見たりすると、私の中のもっと知りたい!という興味センサーが発動してしまう。
キラキラポジティブ〜!な人は、いいなぁとは思うけど、好意よりは違う人間だな、という感想が先に来てしまってあまり好きになれない。
高校の時もそうだった。
近寄りがたい先生に惹かれ、みんなに人気の先生であるほど苦手だった。
実際、私は運が良いのか悪いのか、気難しそうな先生に好かれることがほとんどで、「なんか好かれてるよね〜、なんで?」と友人には多々言われた。そんなの、私が知りたかったけど。
反対に、誰とでも仲良くしてくれる、タメ語もOK、卒業後にLINEを交換してくれるような距離が近い先生には謎に距離を置かれた。
生徒と先生という元々距離のある関係を、上手く縮めていくのは、私には難しすぎたのだと思う。
きっと私がわからなかっただけで、他の生徒とは違った距離の詰め方をしてしまったのだろう。徐々に詰める、なんてやり方が私にはわからない。
だから、どんな距離感で接してもいつも一定の扱いをしてくれるような、人気が無くて、近寄りがたい人が好きだった。
不思議なことに、私自身も世間からのイメージは「何を考えているかわからない人」だった。寄せ書きで書かれる言葉は大抵ミステリアス。
何を考えているかわからない人が、何を考えているかわからない人を好む。なんとも不思議な現象。
思えば、そういった癖は昔からあったように思う。
表情がわかりにくい人、無機質なもの、化け物、孤独に生きている人、主人公の敵、勝ち気な人。
いわゆる〈敵サイド〉や〈ライバル〉、〈当て馬〉にあたる人物に惹かれることが多くて、主人公には見向きもしなかった。
アンパンマンじゃなくて、ばいきんまん。
サトシじゃなくて、ロケット団。
昔のアニメでいえば、王道ヒロインの邪魔をする勝ち気なお嬢様みたいなキャラクターが大好きだった。
強気な子の素直になれないキャラクターに惹かれていたのか、キュートアグレッションのような感情があったのか、今ならいくつか理由も思いつけるが、昔のことはわからない。
けれど、共通しているのはキラキラしていなくて、いつも上手くいかない側だということ。
アイドルの推しがずっと昔からできなかったのも、きっと眩しすぎる存在だったからだ。
同級生が大所帯で踊る女性グループや、キラキラした5人組、10人組くらいの男性グループに熱狂する中で、私はそれらのアイドルに見向きもせず、どれも流行りに流行った曲だけを口ずさむ程度に終わった。
正直何がカッコいいのかわからない、世間的にはカワイイらしい、でも周りが良いと言うなら、そうなんだろうな。
そんな曖昧な状態でなんとなく興味を持っているフリをしていた。
今では社会の荒波に揉まれて、強制的に現実を見させられて、一種の諦めがついたから〈別世界の人間〉として、アイドルを応援できるようになった。
それでもまだ彼たち、彼女たちを心から好きになりきれないのは、スタート地点から今までずっと、恵まれてきた人間を羨む気持ちがあるからだと思う。
アイドルという職業が将来の選択肢として入るのならば、それは何かしらの自信や希望を持っているからだろう。捻くれた私は、そう思ってしまう。キラキラしたものは、見ているだけで疲れてしまうのだ。
アイドルだけではない。芸能人だってそう。
生まれ持った美貌や境遇で人生に苦労していなかった人は、どうしても好きになれない。
俳優や女優でも、人生に苦労してきた人の演技は何か普通の人とは違う「光るもの」があると感じている。何か、挫折や絶望を味わってきた人を追い求めてしまうのだ。
そして、またそうした人ばかりを好きになっていく。
私は、無意識に同じ苦しみを味わった人を追ってしまっているらしい。
まるで仲間を探すかのように。
好きなものを好きな理由は、意外と近くにあるのかもしれない。