ストレスについて一度立ち止まって考えてみる——『はじめてのストレス心理学』「まえがき・第1章冒頭」公開!
まえがき
ストレスから解放されたらどんなに幸せなことか――そう望みながらも「ストレスは私たちと共にあります」。解放されたかと思うと,また次のストレスに悩まされる。こうした経験を繰り返してきた人は多いのではないで
しょうか。
では,どうしたらストレスから解放されるのか。これは,ストレスを「悪いもの」と捉えているからこそ立ち現れてくる問いではないでしょうか。悪いもの,不快なものから私たちは遠ざかりたいですし,関わりたくないと思うのは当然のことです。
しかし,本書ではこの問いを見直すことから始めてみたいと思います。この「ストレスは悪いもの」という捉え方は正しいのか,と。本書の最大の目
的は,この捉え方から解放され,ストレスを再考するきっかけを提供するこ
とです。
ストレスを専門的に学ぶ機会は,心理学や医学,またスポーツ科学の領域
が最も多いでしょう。それは,ストレスが健康やパフォーマンスと深く関連
しているからです。本書では,ストレスの心理学的・生理学的両側面からの
理解を目指します。心や体に関心をおもちの人にとって,ストレスは,心と
体の相互作用に迫れる大変興味深い研究領域であるといえます。また,専門
的ではなくとも,ストレスは誰にとっても身近なテーマですから,心理学の
初学者にとってもストレスの学びを通して自分自身の理解を深めることがで
きます。さらにこうしたストレス心理学の知識がストレスを抱え,悩みをも
つ人を理解する支えになると期待できます。
本書は,私がこれまで担当してきたストレス関連の講義(防衛大学校での
「ストレス管理論」および東京工業大学での「心理学C」)をもとに執筆しています。科目は,主に学部3年生を受講生と想定して開講されていますが,心理学入門レベルの知識をもっている心理学の初学者にとっても読み進めやすい内容となっています。一部,ストレスの生物学的メカニズムを扱った節(第2章の3.「身体の仕組みから理解するストレス」)は,内分泌系や免疫系などを扱っており,専門用語に馴染みがない人にとっては難しく感じられるかもしれません。その場合は,そこは飛ばして読んでいただいても,その後の章の理解に影響しませんので,安心して次の章に進んでください。なお,初めからお読みいただいてもいいですし,特にご自分が興味を惹かれた箇所から読み進めていただいてもよいように,各章である程度完結するように構成しています。また,本書は,読むだけではなく,ワークに取り組みながら「自分ごと」として考えてもらえるように工夫しています。ぜひ,各ワークに取り組みながら,ストレスへの理解を深めていただければ嬉しいです。
本書は2019年の秋に執筆を開始し,3 年弱の年月をかけて書き上げました。その間,世界は大きな変化を余儀なくされました。世界規模でのCOVID-19の感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻など,世界中で多くの人がストレスフルな状況に直面しています。誰しもがストレスとは無縁でいられません。しかし,悲観的になる必要はありません。歴史を振り返ればわかるように,戦争や災害の体験など,人々は過酷な体験を乗り越えて生きてきました。だからこそ,いま私たちはここにいるわけです。長期化したストレスに打ちのめされている人も,私たちには生まれながらにして備わっている回復力があることを知り,ストレスとの付き合い方を考え,日々の生活に,そして人生にその経験を活かして欲しいと強く願っています。
「ストレスは自分を映す鏡」です。
ストレスを深く理解することを通して,自分を知ることにつなげていきま
しょう。
第1章 ストレスを知る
1. ストレスって何?
ストレスとは
「ストレスとは何ですか」と問われたら,あなたはどのように答えるでしょうか。日常的によく使っている言葉ですが,改めて「何か」と問われると戸惑われる人も多いのではないでしょうか。
実際,これまで筆者が大学で担当してきたストレスに関する講義で,この問いを投げかけた回のレスポンスシートには,
「そういわれてみると,なんと答えてよいものか……」
「言葉の意味を考えたことなんてなかった……」
といった受講生からの回答が多くみられました。そこで,まずは一度立ち
止まって,「ストレス」という言葉について考えてみたいと思います。
私たちは,さまざまな経験を通して言葉を獲得し,それをコミュニケーションの中で使っています。「ストレス」という言葉も,さまざまな経験を通して獲得されてきたはずです。その獲得過程は人によって異なるかもしれませんが,これだけ広く日常的に使われる言葉になっていることから,この言葉からイメージされるものは多くの人々の間で共有できるでしょう。耳を澄ませば,通学・通勤の道中に,あちらこちらで「ストレス」という言葉が発せられていることに気づくことでしょう。
では,この言葉は,どのような文脈とセットになって私たちの記憶に保持
されているのでしょうか。まずは,現代社会で多くの人が使っているストレ
スという言葉の正体を探ることから始めてみましょう。そして,その作業を終えたのち,ストレスの語源へと話を進めていきたいと思います。
「ストレスとは____」
この下線には,何が入ると思いますか。まずはあなたなりに考えてみてく
ださい(ワーク①)。メモをしておくと,後で他者との考えと比較していく
ときに参考になります。
授業では,まずは個々人で考え,回答を書いてもらい,その後,それを受
講生同士の少人数グループで共有する,といった一連のワークをしています。
受講生の中には,ストレスについて学びに来ているから,まずは講師側が
定義づけるものではないか,という気持ちを持つ人も少なからずいます。こ
の問いに対して戸惑いを見せたり,この問いについて考える意義は何だろう
か,と疑問を投げかけたりすることもあります。
定義を示すことは重要なことですし,辞書を引けば,意味を知ることはできます。しかし,この問いに自分なりに向き合うことなしに,定義を示して話を進めても,最終的に本書が目的としているストレス再考につながりません。そうしたことを踏まえると,ここでその人なりのストレスの捉え方を各
自に問うておく必要性を強く感じます。
では,どういう必要性でしょうか。
試し読みは、以上です。続きが気になる方は、ぜひお近くの書店・ウェブストアからお買い求めください!
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※本記事の特性にあわせて、一部記述を太字にして強調しております。
※※書籍では、フリガナおよび注釈を適宜補っておりますが、本記事では煩瑣になるのを避けるため省略しています。
もくじ
著者から一言
ここまでお読みくださり、ありがとうございました!
最後に、著者・永岑光恵さんから一言、メッセージを預かっております。
▼「リベラルアーツ研究教育院 News」に取り上げられました!▼
▼働く女のワーク&ライフマガジン「Woman type」さんに
取り上げられました!▼
著者紹介
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