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四つの観点さえあれば詩がこんなに豊かに読める 「春のうた」(後編)

次の「詩を読む四つの観点」を用いることで、詩の理解が深まること、そしてそのことが、子供自らが詩を方法的に読もうとする力を育む契機となることを願った実践例を示している。

① 題名
② 連
③ 繰り返し
④ 比喩

教材は、草野心平の「春のうた」を使い、この実践では、四つの観点のうち、「① 題名、② 連、③ 繰り返し」の三つを用いている。

前回、授業の説明は、以下のようにその展開に沿って行い、「5 読解」の「(3)連に目を向けさせる」ところまで、進んでいる。

1 音読(後追い読み)
2 視写 
3 視写し終わった子から微音読
4 全員が視写し終わったら、一斉に音読
5 読解
(1)繰り返しに着目させる
(2)題名に着目させる
(3)連に着目させる

ご興味のある方は、以下から、前々回の「ヒント帳 86」や前回の「ヒント帳 87」に移動していただければと思う。

5 読解

(3)連に目を着目させる(続き)

さて、主発問になる次の発問を子供に投げ掛けた。

「連に分けているとうことは、何か違いがあるはずだ。違いを見つけよう。一連、二連、三連、四連は、それぞれかえるがどこで何をして歌った言葉だろうか」

この発問のポイントは、「どこで」と「何をして」だ。
この二つの視点で各連を比較して読ませることで、詩の読解を深め、連に着目して読むよさを子供に感じ取らせようとしている。

一連は、「まぶしい」という言葉から、暗い土の中から出てきたばかりだと読める。つまり、かえるは出てきた穴の近くにいることが予想できる。そして、「うれしいな」と言っている(歌っている)のだから、きっと地上に出てきて喜んでいるのだろうと想像できる。

それらの発表を視写した詩の根拠となる言葉の横に書き込ませる。
黒板の詩にも書き込んでいく。

仮に、上記とは異なる読みをする子がいても、論理的に矛盾していなければ受け止め合い、聴き合えばよい。二連、三連と読み進めていくに連れ、矛盾が出てくれば修正・変更すれば良いのである。
特に、「ほっ」は多義的な解釈が可能である。「驚き」、「喜び」、「安心」などが考えられるが、論争がねらいではない。そのために、発問で「どんな気持ちか」を、ここでは聞かないのである。

二連は、「みずは つるつる。」であることから、穴の近くにいたかえるが移動して、水(池、または小川など)に入ったことが分かる。そして、「かぜは そよそよ。」と続くので、水の中から出てきたか、あるいは体の一部を出し、濡れた皮膚に風を感じていることが読める。プールから上がった時の経験を想起させると理解しやすいだろう。
教科書の泳いでいるかえるの挿絵を根拠にする子もいるだろう。
以前の授業で、「土の中から出てきたから、体の土を水で洗い落としたかったのではないか」と言う子がいたことを思い出す。

さて、ここまでで、かえるが移動していることが分かってきたので、三連ではそれを踏まえ、「どこに移動して、何のにおいをかいでいるのだろう」と、聞くと良いだろう。
これも挿絵を参考に、「花が咲いている場所に移動したのだろう」と言う子がいるだろう。
「風のにおい」「春のにおい」という子がいるかも知れない。「具体的に何のにおいか」と問い進めたいところである。この詩の春のイメージやかえるのいる場所の情景が頭に描きやすくなる。

四連は、「いぬのふぐりが咲いている場所」に移動し、「空を見上げている」が主発問に対する<望ましい答え>ということになる。「くも」は「雲」であって、「蜘蛛」ではないことは押さえたい。
大きい「蜘蛛」ならば、このかえるは食べられてしまうことになり、ここまでのこの詩の世界が一変してしまうからだ。それにより、五連の「ケルルン クック」の読み取りがひどく劇画的なものに堕してしまうだろう。

もちろん、教師の読みを強制することはできないが、私は、これまでの実践で、ここでも論争をさせたりはしなかった。
むしろ、「蜘蛛」を強く主張する子がいた時には、最後に提示する予定の「えぼ」をここで出してしまう。同一作者である草野心平が「春のうた」と同じくかえるを描いた「えぼ」には、明確に「雲」と、<くも>が漢字表記されている。
私はこれを示し、「『春のうた』も『雲』であろうと先生は思う」と伝える。

実際、これまで「蜘蛛」と読む子はいたが、そこまで頑強にこだわってはいなかったので、「えぼ」は予定通りに最後に提示してきた。
とは言うものの、論の分かれるところである。
決定的な根拠はない。

(4)さらに各連の相違点に着目させる

読解は、「5 読解 (4)さらに各連の相違点に着目させる」に進む。
「深める」段階である。
「ここまでの読みを基に、一連、二連、三連、四連の違うところをさらに見つけてみよう」と、投げ掛ける。
ねらいは、「かえるは五感を使って春を感じている」ことに気付かせることである。
子供から出ない場合は、「それぞれの連で、かえるは体のどこを使って春を感じているか」と補助発問をする。
一連は「目」、二連は「皮膚」(「つるつる」を、水を視覚で捉えた表現とする解釈もある)、三連は「鼻」、四連は「目」に戻っていることを読み取らせたい。
さらに、一連も四連も「目」ではあるが、<見え方>を比較させ、一連は「まぶしいだけ。良く物が見えていない」「四連は、遠くの空まで見えている」という相違に気付かせたい。

さて、これで子供たちは、「詩を『』に分けて、各『』の違いを探そうとすることで詩が分かりやすくなる」と、<発見・納得>できたのではないか。

(5)再度、繰り返しに着目させ、かえるの気持ちを想像させる

四回繰り返されている「ケルルン クック」に戻る。
これが、「かえる語」であって、まだ読めていないことを確認し、
「かえるの気持ちを想像し、人間の言葉に直して、その横に書こう」
と、投げ掛ける。
「春になってよかった」「春は気持ちがいいな」「明るくていいにおい」「やった 春だ」など、ここまでの読みを根拠にしつつ楽しく考えさせたい。

そして、読解の初めでも「繰り返し」に着目して読んだことを振り返らせ、「『繰り返し』に着目するよさ」をまとめる。

以上で、三つの「詩を読む観点」を押さえた。

6 仕上げの音読

まず、先に想像したかえるの気持ちが表現できるように、「ケルルン クック」の箇所だけ音読させる。各自に工夫させて一斉に読んだり、指名して個別に音読させたりする。
次に、「そのかえるの気持ちが表現できるように工夫して」という課題で、詩全体を音読する。

7 発展①

上述した「えぼ」を印刷したものを配付する。
「春のうた」と同じ草野心平が書いた詩であることや、草野心平が「蛙の詩人」と呼ばれていることなどを説明する。
そして、「今日の学習を活かして、家庭でこの『えぼ』を音読することに挑戦してほしい」旨を話す。

8 発展②

「おまけ」である。
その日の放課後、黒板に、草野心平の「冬眠」を書いておく(五秒で済む)。
翌日の朝の会で、「これがどうして『冬眠』だと思うか」を問う。

そして、「読みの観点」の一つ、「題名」に着目することのよさを確かめる。
ちなみに、「冬眠」は、題名が「冬眠」であり、詩の本文は…、ぜひご自身でお調べいただきたい。世界で一番短い詩と言う人もいる。


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