2022年5月30日~6月3日に朝日新聞夕刊で短期連載された記事『泡盛に乾杯』の中に、「君知るや名酒泡盛」という言葉を見つけた。
記事によると、泡盛とは『タイ米を原料に、黒麹菌を使う独特の製法によって生まれる』酒で、現在『酒造所は本島と八つの離島に46カ所ある』という。
『かつて首里(那覇市)に集中していた酒造所は(第二次世界大戦による)沖縄戦で壊滅』し、泡盛を造る材料も無く、『米軍から配給されたチョコレートから泡盛を造ったこともあった』という。
この記事を読んで思い出した小説が、広小路尚祈著『今日もうまい酒を飲んだ~とあるバーマンの泡盛修行~』(集英社文庫、2020年)である。
東京でバーを営む主人公が常連客のリクエストに応えるべく、おぼろげな情報を頼りに客の求める泡盛を探すため沖縄へ旅に出る、というストーリーだ。
その最初のきっかけとなるのが「御酒」で、それを取り寄せた主人公は同梱されていたパンフレットに坂口博士の名前を見つけ興味を持つ。
主人公は早速、「君知るや名酒泡盛」が掲載された坂口博士の随筆集を入手し、博士が黒麹菌を集めた理由を探る。
ちなみに記事によると、黒麹菌は『雑菌繁殖を抑える作用があるクエン酸を多く発生させる』効果があるらしく、坂口博士はその随筆に『沖縄の人々は、古来より温暖なる風土に適する、黒麹菌という独特のカビの育成に成功し、世界に類をみない独自のカビ酒造文化を確立した』と記しているそうだ。
ところで、泡盛は焼酎と同じ蒸留酒ではあるが、焼酎と違い出来たてを飲むことは少なく、大抵は甕に入れられ、ある程度の年月寝かせてから飲む。
『3年以上寝かせたのを古酒(クース)と呼ぶが、単に寝かせればいいというものではない』(記事)。
古酒は酒蔵で作る特殊な酒ではなく、一般家庭でも普通に作られていた。
エッセイストの古波蔵保好氏(1910-2001)が著書『料理沖縄物語』(講談社文庫、2022年。原書は1983年刊)で、戦前の人々の古酒の愉しみ方を紹介している。
保好氏は子どもだった戦前をこう振り返る。
今、現存している百年古酒はそう多くはないだろう。
先述のとおり、第二次世界大戦で『100年、200年を超えていた古酒が地中に流れて消えてしまった』(記事)からで、個人が保存していたものも『酒の入っているかめをかついで、修羅場を逃れることはできなかったはず』(保好氏)だからである。
保好氏は、戦後の沖縄をこう記す。
戦後77年が経った2022年現在、「泡盛」は沖縄だけでなく、全国に愛好家を持つまでに広まった。
朝日新聞の連載の最終回は、こう締めくくられる。
普段、日本酒ばかり飲んでいる私だが、この連載記事を読んで無性に泡盛が飲みたくなり、近所にある沖縄料理店のドアを初めて開けた。
沖縄出身の主人はとてもいい人で、泡盛初心者の私に色々教えてくれた(表紙の写真を撮る際、「折角だから」と飲んでもいないハブ酒のボトルも横に置いてくれた。とてもいい人)。
沖縄本土復帰50年の節目の今年……
私は泡盛の美味しさに感激しながら、程よく酔った頭の中で記事の一節を思い出し、そして、沖縄の平和に想いを馳せた。