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パレスチナ/イスラエル問題

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記事一覧

祈りとしての文学

祈りとしての文学

 この10月7日でイスラエルによるガザ・ジェノサイドから1年が経った。死者の数は4万人をはるかに超え、そのうち約2万人が子どもである。9割の人が家を失って避難民となり、水も電気もガスも食料も医薬品も足りず、飢餓と感染症が蔓延し、毎日無辜の民が虐殺され続けているのに、何もできない無力感の中、岡真理さんの『アラブ、祈りとしての文学』を読む。2008年に書かれた本だ。
 
 この本を通底するテーマは、「

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土井敏邦『ガザからの報告』

土井敏邦『ガザからの報告』

 先日、土井敏邦氏の映画(30分の短縮版)を観て、土井監督の話を聞く機会があった。その後、土井氏の『ガザからの報告』を読んだので、簡単に感想を記しておきたい。
 
 昨年10月7日以降、岡真理さんや土井さんの講演を聞いたり本を読んだりして、ハマスとハマスによる10.7攻撃の捉え方がかなり異なっていることは少し気になっていた。
 まず昨年のハマス等による10・7攻撃について、土井さんは、あれは明白な

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他者を非人間化する者はまず自らを非人間化する

他者を非人間化する者はまず自らを非人間化する

 病院や学校、モスクや難民キャンプ、救急車といった民間施設・設備のみならず、電力や水道など人間の生活を維持する上で不可欠の基本インフラに対する攻撃を延々と繰り返すイスラエル軍の残虐さは、国際法云々以前に人間性の喪失を深く疑わざるを得ないが、その動機や背景を知るうえで有益な示唆を与えてくれるのが、宮田律氏の『ガザ紛争――暴走するイスラエル極右思想と修正シオニズム』であり、とりわけその第6章である。

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「歴史家論争」再考(2)

「歴史家論争」再考(2)

 この論争は「歴史家論争」と呼ばれており、確かにハーバーマスによって「歴史修正主義」と批判された4人は――それぞれ傾向の違う――歴史家であったが、ハーバーマスをはじめ、論争に参加した者の多くは、歴史の専門家ではなかった。また、この論争を日本に紹介した『過ぎ去ろうとしない過去』の訳者たちは全員が歴史家ではなく、ドイツ哲学やドイツ思想の専門家であった。訳者の代表であり解説を書いた三島憲一によれば、論文

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「歴史家論争」再考(1)

「歴史家論争」再考(1)

 先日、「ガザをめぐり対照的な南アとドイツ」の中で、「ドイツは、ナチス・ドイツによるホロコーストを反省したのは良かったのだが、それが盲目的なイスラエル擁護につながってしまい、結果的にイスラエルによる「ホロコースト」を支持するという自己矛盾にまで陥っている」と書いた。しかし、このようなドイツのイスラエル支持の姿勢は、果たしてホロコーストに対する反省自体が本物だったのか、という、より根源的な疑問を、栗

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自決権とは何か(1)

自決権とは何か(1)

 パレスチナや沖縄について語る時、「自決権」という言葉が使われることがしばしばあるが、その割にこの言葉の正確な意味は、それを使っている当人によってさえ、驚くほど理解されていないことが多いので、ここで、できるだけ簡単かつ正確にこの言葉の意味を説明したい。
 
 歴史的沿革を辿れば、レーニンやウィルソンの「民族自決」思想が重要であり、さらに遡ればフランス革命にまでその思想的淵源を辿ることもできるだろう

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「ホロコーストの犠牲者がなぜ?」

 岡真理さんがパレスチナ問題で講演をするたび、必ずと言ってよいほど、「ホロコーストを経験したユダヤ人がなぜ、同じようなことを?」という質問を受けるそうだ。それに対する岡さんの答えは、思い切って簡略化して言えば、人間という集団は、「非人間化」の暴力の犠牲者であろうとなかろうと、「他者を非人間化する」よう教え込むことは可能である、ということだ(『ガザに地下鉄が走る日』)。
 
 同じ問いに、「世襲的犠

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加害者を免責する「中立」主義

加害者を免責する「中立」主義

 東京新聞の火曜日の夕刊は読みごたえのある長文記事が多く、いつも楽しみにしている。昨日もそう思って読み始めた「テロが閉ざした共存の道」と題するこの記事は、しかし、読み終わって啞然とした。タイトルは2つあり、もう一つは「民族間 増幅する疑心と恐怖 @パレスチナ」である。イスラエルのガザに対する民族浄化開始から半年以上が経ち、衆人環視の下で民間人に対する残虐な虐殺行為が続き、イスラエルの政治宗教である

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国連の原罪

国連の原罪

 東京新聞が4月21日(日)「国際社会の重い責任」と題する社説を掲載したが、パレスチナ問題の根源を抉る、優れた論説だった。
 
 第2次大戦後、英国からパレスチナ問題を丸投げされた国連が1947年11月、人口で33%、土地の6%しか持たないユダヤ人にパレスチナ全土の56%を与える分割決議(国選総会決議181)を行ったことが現在に続くパレスチナ問題の根源にあるが、社説は、国連総会での投票に先立って行

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ガザ攻撃の目的は何か

ガザ攻撃の目的は何か

 私事ながら、3月末から異常な忙しさが続いたせいで、丸一ヶ月、記事を書くことが全くできなかったが、ようやく一昨日で一段落がついた。
 
 早尾貴紀氏が『世界』5月号に「ガザ攻撃はシオニズムに一貫した民族浄化政策である――欧米の植民地主義・人種主義の帰結」と題した論文を寄稿している。いつものことながら、この人の論文は本当に鋭く問題の本質を剔抉していて勉強になる。
 以下に、この論文の要点をまとめてお

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ガザ情勢2024年3月

 イスラエルによるガザ虐殺が始まってすでに5カ月半。ニュース報道も減り、国際社会はどうか知らないが、日本社会の関心も低下しつつあるが、ガザの人道危機は一層深刻の度合いを増している。

 人間は数字ではなく、真の悲劇は数では伝えられないという当たり前の事実を踏まえたうえで、備忘録として現状の一端を書き止める。

 国連機関などのデータを使った報告書「総合的食糧安全保障レベル分類」によれば、ガザで飢餓

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オスロ合意とは何だったのか

オスロ合意とは何だったのか

 ガザ保健省が昨日(2月29日)発表したところによると、ガザの死者は3万人を超え、負傷者は7万人を超えた。瓦礫の下に埋まったままのご遺体の数は誰にもわからない。
 また、イスラエル軍は同日朝、ガザ市で人道支援の食糧を求める人々を攻撃し、104人が死亡、760人が負傷したという。
 さらに、国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、ガザの人口約230万人の4分の1に当たる57万6千人が「飢餓寸前の

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「小説 その十月の朝に」について

「小説 その十月の朝に」について

 『現代思想』2月号は「パレスチナから問う」という特集号で、収録された論文の大半はいずれも力作ぞろいですので、いずれ機会をみてご紹介できればと思います。
 
 今日はその中でも異色の作品、岡真理さんの「小説 その十月の朝に」というちょっと奇妙な小説を紹介したいと思います。岡さんが現代アラブ文学の研究者で、パレスチナ問題の専門家として縦横無尽の活躍をされていることは周知の通りです。その岡さんが小説?

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UNRWA職員のイスラエル奇襲攻撃関与疑惑について(ガザ危機メモ)

 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員が、ハマスによる10月7日のイスラエル奇襲攻撃に関与していたとの疑惑が浮上したのを受け、アメリカ、ドイツ、日本など10カ国以上が資金拠出の停止を決めた(1月29日時点)。
 
 一方、資金拠出の継続を表明したノルウェーのアイデ外相は28日、「この深刻な人道状況でUNRWAへの資金を削減することの影響の大きさを考えるべきだ。我々は何百万人もの人々を

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