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【お薦めの一冊】 能力を成長させるために必要なものが「休息」? / 「PEAK PERFORMANCE」 ブラッド・スタルバーグ スティーブ・マグネス

今まで多くの本を読んできました。

その中には、私の人生に良い影響を与えてくれた本が沢山あります。

そんな本の感想を書き留めておくことで、私自身の備忘のためにも、また、これを読んで下さった方の本選びにも、少しでもお役に立てばと思っています。

1.各分野のトップで活躍する人たちに共通する原則とは

本書では、スポーツ選手であれ、学者であれ、芸術家であれ、作家であれ、長い間その分野のトップで活躍し続ける人たちには、共通する原則があることを発見し、それを科学的根拠に基づき紹介したものです。

つまり、各分野で長く活躍する人たちはみな、同じ方法で、自身の能力を成長させ、それを最大限に発揮していたのです。

このようの能力をいかに伸ばすかという点について解説した書籍は多くありますが、そのような中で、本書が特にユニークな点は、「持続可能」な成長に注目しているという点です。

なぜ、このような「持続可能」な成長という点に注目したかというと、その理由は、本書の著者らの実体験に遡ることになります。

2.著者 ブラッド・スタルバーグ氏及びスティーブ・マグネス氏とは

(1)ブラッド・スタルバーグ氏

ブラッド・スタルバーグ氏は、マッキンゼー・アンド・カンパニーの元コンサルタントで、現在は、人間のパフォーマンスに関する研究・執筆活動を行なっている作家です。

彼は、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社してから2年後に、アメリカにおける医療改革による経済的影響を予想するモデルを構築します。

それがホワイトハウスにも評価され、ホワイトハウスで大統領に対して医療に関する助言を行う組織に加わるまでに至ります。

順風満帆の人生であり、その後、ホワイトハウスやマッキンゼー・アンド・カンパニーでの活躍が容易に想像されます。

しかし、なんと彼はその後ホワイトハウスを去り、以後、一度も昇進しなかったのです・・・

(2)スティーブ・マグネス氏

また、スティーブ・マグネス氏は、元マラソン選手で、現在は長距離マラソンのコーチを行なっています。

彼は、高校生である18歳の時に、陸上競技の1マイル競争(約1.6㎞走)で、1マイル4分1秒という記録を打ち立てました。それは、当時の高校生としては米国内で最高タイムであり、ジュニア部門でも世界第5位という記録でした。

その結果、当然、国内外のあらゆる有名大学から陸上選手として勧誘されるまでに至り、将来のオリンピック出場やメダル獲得は目の前のことと思われました。

しかし、彼もその後、1秒も記録を縮めることは出来なかったのです・・・

3.なぜ燃え尽き症候群が起きるのか

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上記の通り、本書は、元コンサルタントと元マラソン選手というユニークな経験を持つ著者らの共著です。

一見何ら関係の無いように見える二人の経歴ですが、そこには一つの共通点があります。

それが、いわゆる「燃え尽き症候群」です。

二人とも、コンサルタントとして、または、陸上競技者として、自身の能力がピークを迎え、まさにこれからというタイミングで燃え尽き症候群となり、突如として仕事や競技に対する熱意や関心を失ってしまったのです。

一般的にも、燃え尽き症候群は、その能力がピークとなる瞬間かその直前に訪れると言われています。

このような燃え尽き症候群の原因は、ストレス反応と密接に関係していると言われています。

人間は長期にわたって過度なストレスに晒されると、本能的に、逃走反応が起きて、ストレス要因から逃げ出してしまうのです。

そのため、どのような分野においても、自身の能力を高めるために、長期に渡って過度な負担を心身に与え続けていると、その結果、高いアウトプットが瞬間的には出せたとしても、そのような負担に耐えきれなくなってしまうのです。

このような筆者自身の経験から、本書では、単なる成長の方法ではなく、「持続可能」な成長という点にも焦点を置いて、成長法を紹介しています。

4.各分野のトップで活躍する人たちに共通する原則

本書で紹介されている、どのような分野においても、自身の能力を成長させ、それを最大限発揮し、継続するためのポイントは以下の3点です。

(1)負荷+休息=成長
(2)自分に合ったルーティンを作り、望ましい環境を作る
(3)目的を見い出す

こらら3つのポイントは、それぞれ以下のような目的があります。

(1)負荷+休息=成長 
   → 自分の能力を成長させる
(2)自分に合ったルーティンを作り、望ましい環境を作る
   → 成長させた能力を最大限発揮させる
(3)目的を見い出す
   → 上記の(1)(2)を継続させる

それぞれについて、以下で簡単に説明します。

5.負荷+休息=成長

(1)負荷と休息はどちらも等しく重要

この方程式は、本格的な筋トレをしたことがある人であれば、すぐに理解できるかもしれません。

なぜなら、筋肉を効果的につけると言われているトレーニング方法と同じだからです。

具体的には、

(1)鍛えたい能力を選ぶ
(2)その能力に負荷をかける
(3)回復するまで休息を取って、体を適応させる
(4)上記の(1)〜(3)のプロセスを繰り返す。ただし、上記(2)でかける負荷は前回より少し強い負荷にする

というものです。

ただし、この数式で重要なことは、負荷と休息が等価値であり、両者のバランスを取ることが重要という点です。

つまり、負荷に偏ってしまうと、

負荷 (100) + 休息 (0) =「怪我をするか、燃え尽きるか」

となります。

また、休息に偏ってしまうと、

負荷 (0) + 休息 (100) =「何ら成長は無い」

となります。

そのため、負荷と休息をバランス良くしっかり行うことが重要です。

つまり、練習と同じだけ、練習時間以外の休息も重要ということです。

身体を使うスポーツ選手でも、頭脳を使う科学者や作家でも、一流と呼ばれる人たちはみな、並々ならない集中力で練習・仕事に取り組み、それ以外の時はひたすら休養と疲労回復に努めています。

(2)正しい負荷とは

では、この方程式「負荷+休息=成長」における「負荷」について簡単に紹介します。

ここでの負荷とは、コンフォート・ゾーンを少し超えた負荷を指します。

このコンフォート・ゾーンという言葉は、能力を伸ばす際や学習に取り組む際に広く用いられている概念であり、以下の書籍でも取り上げられています。

要すれば、コンフォート・ゾーンを少し超えた負荷とは、自分の能力・知識・スキルなどを少し上回る練習・タスクに取り組むことを指します。

自分の限界内の練習・タスクでは、楽勝だと気を緩めてしまう上に、そこから学べることは多くありません。負荷が少な過ぎて成長を後押しする刺激にもなりません。

一方、あまりに自分の能力の限界から離れた練習・タスクである場合も、一方的な失敗に打ちのめされ、そこから学べることは多くありません。

そのため、自分の能力の少し外にある、かろうじて手が届く(=コンフォート・ゾーンを少し超えた)練習・タスクが最も望ましい負荷といえ、そのような負荷を得ることが重要となります。

(3)負荷には集中して取り組む

そして、コンフォート・ゾーンを少し超えた練習やタスクに取り組む際に重要な点がもう一つあります。

それは、集中して行うという点です。

どのような分野においても、トップレベルにいる人たちの練習時間に大きな差がつくことはありません。

誰にとっても1日は24時間である以上、練習時間のみで差別化を図ることには限界があるのは当然のことです。

そのため、トップレベルの人たちの中でも、いわゆる超一流とそれ以外を分けているのは、練習時間ではなく、どれだけ集中して意図的な練習を行なったかという点なのです。

本書では、そのような点を踏まえ、集中して負荷に取り組むための方法をいくつか紹介してくれています。

(1)シングルタスクにこだわる
(2)スマホは目に見えない場所に置く
(3)作業時間(60分〜90分)の間に休憩時間をとる

詳しい内容については、本書をご覧下さい。

(4)負荷に対する正しいマインドセットを持つ

上記の通り、成長のためには負荷は欠かせませんが、コンフォート・ゾーンを超えたチャレンジである以上、そこにプレッシャーやストレスを感じることはやむを得ません。

そのため、プレッシャーやストレスに対する正しい対処法を身につけておく必要があります。

本書では、望ましいマインドセットして、以下の2つを紹介しています

(1)成長型マインドセット
(2)チャレンジ反応

【成長型マインドセット】

何かに失敗した時に、すぐに諦めてしまう人と、かえってやる気が出る人がいるのはなぜでしょうか。

それは、失敗に対する捉え方に違いがあります。

失敗した時に、すぐに諦めてしまう人たちは、「人間は、生まれ持った遺伝子で能力と才能が決められているので、努力ではそのような能力や才能に太刀打ちできない」と考える傾向があります。

これを本書では、固定型マインドセットと呼んでいます。

一方、失敗しても、かえってやる気が出て再度同じことに挑戦する人たちは、「能力とは生まれ持ったものではなく、練習することによって誰でも伸ばすことができる」と考える傾向があります。

これを本書では、成長型マインドセットと呼んでいます。

常にコンフォート・ゾーンから外れた挑戦を行い、自身の能力を成長させるためには、成長型マインドセットを持つ必要があります。

【チャレンジ反応】

スポーツ選手たちは、試合前には、みな同様にプレッシャーやストレスを感じています。

それは一流選手であっても平凡な選手であっても違いはありません。

ただ、そのプレッシャーやストレスに対する反応は大きく異なります。

平凡な選手たちは、ストレスを回避すべきもの、無視すべきもの、抑圧すべきものと考えてしまいますが、一流の選手たちは、ストレスとそれに伴う強い感情は、能力を発揮する上で助けになると考えています。

つまり、一流の選手は、プレッシャーやストレスを回避しようとするのではなく、それは避けられないものとして受け入れ、成長のチャンスと認識しているのです。

私たちも、コンフォート・ゾーンを超えたチャレンジをする以上、プレッシャーやストレスを感じることがあるはずです。

その際、このようなチャレンジ反応で挑むよう意識する必要があります。

(5)なぜ休息が必要なのか

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上記の通り、成長のためには、適度な負荷が必要となります。

そして、そのような負荷を身体に与えた上で、その後に休息を取ることによって、体や能力がそれまで以上により強いレベルまで回復することになります。

しかし、負荷が大き過ぎたり、負荷に長期間さらされると、体は適応できなくなり、その結果、能力や身体が鍛えられるどころか、むしろ衰えてしまいます。

これは、一般的には慢性ストレスと呼ばれる状態です。

例えば、筋トレであれば、腕の筋トレを1日行ったのであれば、その後、腕の筋トレは2〜3日は行わず、回復に努めることによって、腕の筋肉が前より少し太いレベルまで回復すると言われています。

一方で、腕の筋トレを毎日続け、大きな負荷をかけ続けていると、筋肉がどんどん分解されてしまい、怪我にも繋がる可能性があります。

つまり、適度な負荷と十分な休息の両方が揃って、初めて能力は望ましい形で進化するのです。

(6)脳にも休息が必要

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休息において、私たちが忘れてしまいがちなのが、「脳」の疲労です。

筋肉と同じように、私たちの脳も、使えば使うほど疲労します。

そのため、肉体的な疲労だけでなく、脳の疲労についても休息が必要となります。

例えば、疲労の限界までダンベルで筋肉のトレーニングすると、腕が思うように動かなくなるのと同じで、難しい決断を下したり、誘惑に抗ったり、難しい問題に取り組んだりして脳を働かすと、脳も疲労し、機能が低下します。

この点について、本書で興味深い実験が紹介されています。

【クッキー実験】
焼きたての美味しいクッキーの香りが漂う部屋に多くの被験者が集められ、実際に被験者の前に焼きたてのクッキーが運ばれる。

被験者のうち、半数はクッキーを食べることが許されるが、半数はクッキーを食べることは許されない。

その後、被験者全員が同じ問題を解かされた場合、どのような結果となるか。

結果が気になる方は、ぜひ本書で確認下さい。

(7)具体的な休息方法

このように休息の大切さを本書では述べていますが、いきなり休息しろと言われても、寝ることくらいしか思いつかない方も多いかと思います。

確かに寝ることも、休息方法の一つではあるのですが、本書では、具体的な休息方法として以下を紹介・お薦めしています。

(1)瞑想
(2)軽い散歩
(3)人との交流
(4)十分な睡眠
(5)日中の仮眠
(6)定期的な長期の休暇

本書でもお薦めの休息方法として取り上げられている「瞑想」については、その科学的効果がいくつもの書籍で紹介されています。

気になった方はぜひ以下の書籍をご覧下さい。

6.自分に合ったルーティンを作り、望ましい環境を作る

「負荷+休息=成長」で能力を身につけても、それを最大限発揮できなければ意味がありません。

本書では、そうした能力を最大限発揮する方法についても紹介してくれています。

そのポイントが以下の2つです。

(1)ルーティン
(2)環境

(1)ルーティン

皆さんは、スポーツ選手などが、特定のプレーの前に一定の動作を毎回行なっているのを見たことはないでしょうか。

例えば、イチロー選手はバッターボックスに入る前に、毎回同じストレッチを行なっていました。また、ラグビーの五郎丸選手もキックの前には同じポーズを取っていました。

このようなルーティンは、筋肉をほぐすためだけではなく、心を落ち着け集中力を高める効果もあります。

また、このようなルーティンは、決してスポーツ選手だけに効果があるものではありません。

例えば、作家なども、執筆活動を行う前にルーティンを行なって、気持ちを切り替え、集中力を高めています。

ルーティンについては、万人に効く絶対的なルーティンはありませんので(実際に、イチロー選手も五郎丸選手もルーティンの動作は異なっている)、自分にあったルーティンを自分で見つけていくことになります。

(2)環境

自身の能力を最大限発揮するためには、練習や作業を行う際の環境も大きく影響します。

具体的には、

(1)場所
(2)時間
(3)周囲の人

などです。

それぞれどのような点が影響し、どのような環境が望ましいかについては、本書で具体的に解説されています。

7.目的を見い出す

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(1)自分のためではなく、誰かのために

このように、「負荷+休息=成長」で能力を身につけ、「ルーティン+環境」でその能力を最大限発揮することをサポートしますが、この2つのステップが継続出来なければ意味がありません。

そのために必要なことが、目的を見い出すということです。

つまり、自分が取り組んでいる練習・仕事の目的を見い出すことが必要となります。

ここで、本書が指摘している興味深い点は、そのような目的は、自分自身のためでなく、より大きな目的(個人を超える大義)の方が望ましいという点です。

例えば、ある病院の清掃員たちに、「あなた達の仕事は、不要なゴミを処理し、病院を清掃することが目的です」と伝えるより、「あなた達の仕事は、病院を清潔に保つことで雑菌の繁殖を抑え、抵抗力の弱い患者さんを守ることです。この仕事は、患者の治療の一環として必要なものです」と伝えた方が、仕事の質は向上し、満足度もアップすると言われています。

同様に、例えば、今自分がしている仕事について目的を見い出す場合には、この仕事は、「自分のために役立つ」と考えるより、「人々・周りの誰かの役に立つ」と考える方が仕事の質は向上する可能性が高いです。

実際、人間は、自己を超越する目的のために困難に挑む際には、痛みや恐怖や疲労感に打ち勝って不可能を成し遂げることが多々あります。

この究極的な状況が、いわゆる、火事場の馬鹿力です。

このように、自己を超えた大きな目的を見い出すことで、取り組みへの継続力を強めることができます。

(2)燃え尽き症候群の特効薬

そして、このように自分の取り組みについての目的を、自分以外の誰かのために行なっていると見い出すことが出来ると、それは燃え尽き症候群の対処法としても役立つことになります。

この点はかなり興味深い指摘と言えます。

その理由や具体的方法については、是非本書でご確認下さい。

なお、本書では、自己を超越する目的を見い出す方法についても、4つのステップを紹介してくれています。

8.休息の価値を改めて考え直させてくれる一冊

本書で紹介されているコンフォート・ゾーンなどの概念は、多くの書籍でも紹介されている考え方ですが、本書では、それと合わせて休息の重要性にも言及している点で非常に参考になります。

また、実際に燃え尽き症候群となった著者がその経験を踏まえ、科学的根拠に基づいて書いていますので説得力もあります。

スポーツにせよ、学習にせよ、仕事にせよ、これから自分の能力を高めていきたいと思っている方には、一読する価値のある一冊かと思います。

本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。

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