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#小説
蛍が飛び交う頃、きみは
僕は蛍をみたことがない。理由は二つある。まず、単純に蛍をみる機会に巡り合わなかったこと。そして、大学生のうちに一緒に蛍をわざわざ見たいと思える人に巡り合えなかったことだ。
毎年この季節になると、早稲田大学の近くにある椿山荘というホテルが、庭園に蛍を放つ「蛍の夕べ」という催しを行う。大都会の中心にそんな催しがあるなんてとても素敵だ。曇りがちな都会の夜にこそ、孤独な人々を照らす星が必要であるように、
温かくて、優しくて、ちゃんと痛くなる
もしかしたら。
彼女となら、ずっと一緒に居たいと思えるかもしれない。その日を迎えるまで、そんなことをぼーっと考えていた。
友人の紹介で知り合った女性との食事だった。年は同じで、とてもかわいらしく、興味を持った国には一人で飛び立ってしまうような主体性の持ち主であり、一緒にいるのが憚れるくらい、魅力的なひとだった。
なぜだか、彼女の優しそうな笑顔にある種の冷たさを感じた。確かに優しいひとだった