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よろしく愛して

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実りがない人生ならば、 長期展望にどんな意味があるのでしょうか。 どんな時でも、しょうがない人でありたい、 そんなしょうがない人を愛していたい。
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#小説

君の髪は、少しにおう。

君の髪は、少しにおう。

君の髪を撫でる。普段なら触らせてくれない、君の髪だ。

張りのない表情、少し口を開けて寝息を立てる君はとても無防備で、ひいき目にみても正直なところ、可愛いとも綺麗とも言えない。いつもの方がよっぽど良い。

ただ、とても愛おしいとは思う。だから、触れたくなる。出来るだけ控えめに、君を起こしてしまわないように。

君の髪は少しにおう。それはシャンプーの良い香りとか、湿った不快な臭いとか、そういうことで

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君は異邦人だった

君は異邦人だった

君は異邦人だった。孤独だった。染まり切れない周りの空気感が歯がゆかった。人と同じが羨ましかった。きっと、自分の居場所がどこにもないような気がしていただろう。

僕は、地方特有の「こうでなくてはいけない」という同調圧力に嫌気が刺して地元を飛び出してきた口だ。つまり、生まれ育った土地に居てもどこか、異邦人である様な疎外感を抱いていた。

東京は良い。まるでみんながみんな異邦人であるようだ。むしろ、この

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蛍が飛び交う頃、きみは

蛍が飛び交う頃、きみは

僕は蛍をみたことがない。理由は二つある。まず、単純に蛍をみる機会に巡り合わなかったこと。そして、大学生のうちに一緒に蛍をわざわざ見たいと思える人に巡り合えなかったことだ。

毎年この季節になると、早稲田大学の近くにある椿山荘というホテルが、庭園に蛍を放つ「蛍の夕べ」という催しを行う。大都会の中心にそんな催しがあるなんてとても素敵だ。曇りがちな都会の夜にこそ、孤独な人々を照らす星が必要であるように、

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温かくて、優しくて、ちゃんと痛くなる

温かくて、優しくて、ちゃんと痛くなる

もしかしたら。

彼女となら、ずっと一緒に居たいと思えるかもしれない。その日を迎えるまで、そんなことをぼーっと考えていた。

友人の紹介で知り合った女性との食事だった。年は同じで、とてもかわいらしく、興味を持った国には一人で飛び立ってしまうような主体性の持ち主であり、一緒にいるのが憚れるくらい、魅力的なひとだった。
 
なぜだか、彼女の優しそうな笑顔にある種の冷たさを感じた。確かに優しいひとだった

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