マガジンのカバー画像

書籍レビュー

87
書籍レビューをまとめたマガジンです。
運営しているクリエイター

#海外文学のススメ

書籍レビュー『われはロボット』アイザック・アシモフ(1950)ロボットに心はあるのか

書籍レビュー『われはロボット』アイザック・アシモフ(1950)ロボットに心はあるのか

【約1600字/4分で読めます】

SF のビッグ3の一人、
アイザック・アシモフの初期短編集なんですが、短編集といっても、それぞれのストーリーは、同じ世界の出来事であり、連作短編の趣きもあります。

この作品がのちの長編『鋼鉄都市』('64)に繋がっていたり、続編の短編集『ロボットの時代』('64)もあり、アシモフの入門編としても最適な短編集とも言えるでしょう。

すべての物語はロボ心理学者、ス

もっとみる
書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

【約1300字/3.5分で読めます】

ジョージ・ソーンダーズは今、
アメリカで注目されている作家本書の訳者あとがきによると、アメリカでは短編小説の名手として知られ、「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」なんだそうです。

本作も発行されるとすぐに、『ニューヨーク・タイムズ』で絶賛され、その年のベストセラーリストをトップで独走したとのことです。

そんなことを知らずに読みはじめたがとにか

もっとみる
書籍レビュー『ハイ・ライズ』J・G・バラード(1975)現実の世界にもある階層間の闘争

書籍レビュー『ハイ・ライズ』J・G・バラード(1975)現実の世界にもある階層間の闘争


地を制した人類は
天へとその触手を伸ばした本作を知ったのは、
海外文学を多く紹介した
『やりなおし世界文学』
という本を読んだ時でした。

この本の中で、
「大陸を制した人々が
 今度は上を目指した」

というような紹介が
されていたんですね。

私は建築にも興味があって、
特にそびえたつ高層建築には
憧れすらあります。

本作はそんな高層マンションを
舞台にした物語です。

ロンドンの中心部に

もっとみる
書籍レビュー『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス(1966)時の流れによって変化する自分

書籍レビュー『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス(1966)時の流れによって変化する自分

※2500字以上の記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。

幼児並みの知能だった
チャーリイが生まれ変わる以前から気になっていて、
ずっと読みたいと思っていました。

映像化もされていますが、
そちらの方は
一度も観たことがありません。

そんな状態で
手に取った作品でしたが、

ストーリーもさることながら、
その表現手法にも
感心させられる作品でした。

主人公のチ

もっとみる
書籍レビュー『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ(2009)ドイツの弁護士が書いた実録風味のミステリー

書籍レビュー『犯罪』フェルディナント・フォン・シーラッハ(2009)ドイツの弁護士が書いた実録風味のミステリー

※2500字以上の記事です。
 お時間のある時に
 お付き合いいただけると嬉しいです。

ドイツの弁護士が書いた
実録風味のミステリー本作のことを知ったのは、
以前、レビューで紹介した
海外文学のブックガイドを
読んだ時のことでした。

どんな内容だったかは、
憶えていないのですが、
表紙の抽象画のような図像に
とてもインパクトがあり、

このイメージが頭から
離れませんでした。

そういう表紙の

もっとみる
書籍レビュー『1984』ジョージ・オーウェル(1949)「考えること」を他人に預けてはいけない

書籍レビュー『1984』ジョージ・オーウェル(1949)「考えること」を他人に預けてはいけない


70年以上前に描かれた
超管理社会数々の作品に影響を与えた
有名な作品です。

ずいぶん前から気になっていて、
ようやく読むことができました。

物語の舞台はタイトルのとおり
「1984年」、

世界は「ビッグブラザー」
と呼ばれる総統が統治する
超管理社会となっています。

「テレスクリーン」という
送受信機によって、
市民の生活は常に監視され、

少しでも政府に反するような
言動は許されませ

もっとみる
書籍レビュー『小悪魔アザゼル18の物語』アイザック・アシモフ(1988)「語り」で描かれるブラックジョーク

書籍レビュー『小悪魔アザゼル18の物語』アイザック・アシモフ(1988)「語り」で描かれるブラックジョーク


「小悪魔アザゼル」が生まれた経緯作者のアイザック・
アシモフについては、
以前、この記事に詳しく書きました。

SF 界の「ビッグ3」と称される
作家の一人でした。

そんな大作家ですが、
私自身はアシモフの作品を
はじめて読みました。

しかも、著者自身の
前書きによると、
本作は著者の作品の中では、
異質な作品のようです。

本作の執筆に至った経緯は、
'80年にとある雑誌から
ミステリー小

もっとみる
書籍レビュー『ハツカネズミと人間』ジョン・スタインベック(1937)カリフォルニアの雄大な自然、徐々に高まる不穏な空気

書籍レビュー『ハツカネズミと人間』ジョン・スタインベック(1937)カリフォルニアの雄大な自然、徐々に高まる不穏な空気


アメリカ文学の巨人、スタインベック本作を手掛けたスタインベックは、
「アメリカ文学の巨人」
と言われた作家で、
生涯で27冊の著作を発表しました。

それらの多くは
西洋文学の古典とされており、
とりわけ重要な作品は、

ピューリッツァー賞を受賞した
『怒りの葡萄』('39)です。

当時の経済恐慌を反映し、
カリフォルニアにやってきた
移民の農民たちと資本家の
摩擦が描かれています。

'52

もっとみる
書籍レビュー『スタンド・バイ・ミー』スティーヴン・キング(1982)きっとあなたにもあるはず、輝かしい思い出

書籍レビュー『スタンド・バイ・ミー』スティーヴン・キング(1982)きっとあなたにもあるはず、輝かしい思い出

きっとあなたにもあるはず、
輝かしい思い出オーストリアの詩人・
リルケ(1875~1926)が
こんな言葉を残しています。

この言葉を読んだ時、
私は本作のことを
思い出しました。

以前から映画版は
大好きだったんですが、
原作ははじめて読みました。

スティーヴン・キング原作の
映画は他にもいろいろ観ていて、

デビュー作の『キャリー』、
『シャイニング』、
『ショーシャンクの空に』

いず

もっとみる
書籍レビュー『アルケミスト 夢を旅した少年』パウロ・コエーリョ(1988)ひたむきな主人公の探究心が読者の心を打つ

書籍レビュー『アルケミスト 夢を旅した少年』パウロ・コエーリョ(1988)ひたむきな主人公の探究心が読者の心を打つ

ブラジルから生まれた
世界的な大ヒット作本作は'88年にブラジルで出版され、
'93年にアメリカで出版された後に、
67か国語に翻訳され、
世界で3000万部売れた大ヒット作です。

内容は羊飼いの少年が
宝物を追い求めて旅をする
物語になっています。

ファンタジーの世界を
ベースにしていますが、
自己啓発の要素も強い作品です。

王様と出会い、
少年の壮大な冒険がはじまるスペインの羊飼いだった

もっとみる
書籍レビュー『夏への扉』ロバート・A・ハインライン(1956)日本で特に人気がある SF の名作

書籍レビュー『夏への扉』ロバート・A・ハインライン(1956)日本で特に人気がある SF の名作


日本で特に人気がある SF の名作ロバート・A・ハインライン
といえば、
SF 界のビッグ3に数えられた
作家の一人です。

彼の代表作の一つでもある
『宇宙の戦士』('59)は、
宇宙を舞台にした作品で、

作中に登場するパワードスーツは、

日本のアニメ
『機動戦士ガンダム』にも
多大な影響を与えた
と言われています。

作家デビューした'39年から、
亡くなる'80年代まで、
多くの作品を

もっとみる
書籍レビュー『シッダールタ』ヘルマン・ヘッセ(1922)自身の幸福を追い求めた先に

書籍レビュー『シッダールタ』ヘルマン・ヘッセ(1922)自身の幸福を追い求めた先に

シッダールタ(ブッダ)を
モチーフにした物語ヘッセはドイツ文学を
代表する作家の一人です。

1946年にはノーベル文学賞も
受賞しています。

彼の代表作の一つ、
『車輪の下』を数年前に読み、
これがなかなかおもしろかったので、
他の作品も読んでみました。

昨年、もう一つの代表作
『デミアン』も読んだのですが、
こちらは心象描写が多く、
私には難しく感じました。

それでも、きっと私でも
読め

もっとみる
書籍レビュー『怪物はささやく』パトリック・ネス(2011)3つの物語と1つの真実

書籍レビュー『怪物はささやく』パトリック・ネス(2011)3つの物語と1つの真実

早世の作家が手掛けた原案本作の原案者、
シヴォーン・ダウドは、
'06年に作家デビューを果たし、
2つの作品を出版しましたが、

'07年に乳がんのため、
47歳の若さで
お亡くなりになりました。

死後、'08年に発表された
『ボグ・チャイルド』で、
イギリスの児童文学賞・
カーネギー賞を受賞しています。

本作は、そんな彼女が
生前に残した5作目の
メモを元に書かれた作品です。

このメモを作

もっとみる
書籍レビュー『さよなら、シリアルキラー』バリー・ライガ(2015)連続殺人鬼の息子に生まれて

書籍レビュー『さよなら、シリアルキラー』バリー・ライガ(2015)連続殺人鬼の息子に生まれて

シリアルキラーの息子子どもにとって
「親」という存在は
絶大なものです。

時には、
自分を支えてくれる
バックボーンの一つであり、

時には、
乗り越えなければならない
脅威としても存在します。

本作の主人公の父は、
圧倒的に後者の存在でした。

なぜならば、彼の父は、
21年間で3桁におよぶ
殺人を犯し、

「21世紀最悪の連続殺人鬼」
と呼ばれる男だったからです。

主人公の頭の中には、

もっとみる