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書籍レビュー『怪物はささやく』パトリック・ネス(2011)3つの物語と1つの真実

早世の作家が手掛けた原案

本作の原案者、
シヴォーン・ダウドは、
'06年に作家デビューを果たし、
2つの作品を出版しましたが、

'07年に乳がんのため、
47歳の若さで
お亡くなりになりました。

死後、'08年に発表された
『ボグ・チャイルド』で、
イギリスの児童文学賞・
カーネギー賞を受賞しています。

本作は、そんな彼女が
生前に残した5作目の
メモを元に書かれた作品です。

このメモを作品に仕上げたのは、
アメリカ生まれで
イギリス在住の作家、
パトリック・ネスです。

パトリック・ネスも
'11年に『人という怪物』で
カーネギー賞を受賞しており、

'12年には本作により、
2年連続でカーネギー賞を
受賞しています。

ある夜、少年のもとに
怪物がやってきた

本作の主人公、
コナー・オマリーは、
10代の少年です。

母親と二人暮らしで、
母はガンを患っています。

母親の容態は、
あまり思わしくなく、
治療のために
入退院を繰り返していました。

そんな少年のもとに、
ある夜、怪物がやってきます。

コナーの家の庭には、
イチイの大木がありました。

怪物は、その大木が、
巨大な人間のような
形になって、
動くものでした。

本作はこの辺りの描写が、
凄まじいですね。

怪物は低く唸るような声で、
コナーに喋りかけますが、

怪物が息を吐くたびに、
肥料のような匂いが
充満するのです。

なんともおぞましい、
奇怪な怪物でした。

怪物は遠い昔から
この土地にいて、
多くの人間を見てきました。

その人間たちのことを
怪物は3つの物語として、
コナーに語りはじめます。

そして、怪物は言いました。

「3つめの物語が終わったら、
 おまえが4つめの物語を
 話すのだ」

怪物は
「言いたくない真実を語れ」
と言います。

ところが、コナーには、
その「真実」がなんなのか、
わかりません。

果たして、コナーが
人に話したくない真実とは、
なんなのでしょうか。

家族が病気になること

母親が病気を患う
という経験は、
私も経験しています。

私もコナーと同じように、
10代の頃に、
母がガンで他界しました。

その経験から
言わせてもらうと、

本作はその辺りの話、
特に心理描写が
よくできており、

胸が詰まるような
気持ちになりました。

たぶん、私が10代で
母が闘病中だった頃、

もしくは、母が亡くなって、
間もない頃だったら、
この作品は読むことが
できなかったでしょう。

そのくらい、病気のことが、
そして、その周りにいる
家族の心境がリアルに
描かれています。

原案者のシヴォーン・ダウドも
著者のパトリック・ネスも
児童文学を中心とした作家で、

本作も児童文学の賞を
受賞しています。

ですが、本作は
子どもにもわかるような
書き方で、

大人にも
訴えるものがある内容を
描いているんです。

母が病気で亡くなることは、
私もすごく怖かったんです。

怖すぎて、
現実を直視できないくらいでした。

そういう子どもの心境を
本作は見事に描写している
と思います。

そして、怪物がなぜ、
コナーのところにやってきたのか、
その結末は、
決して暗いものではありません。

むしろ、私は
本作のラストを読んで、
とても心が温かくなりました。

亡くなった母と
再会できたような気持ちにすら
なったんですよね。

怪物が訴えるメッセージは、
子どものみならず、
多くの大人に刺さる言葉です。

また、本作は、表紙でも見られる
イラストが秀逸でした。

本文中の2ページの見開きで、
もしくは、文を縫うようにして
魅力的なイラストが
描かれています。

モノクロのイラストですが、
筆のタッチが伝わってくる
独特なイラストで、

本作の世界観を
見事に表現していました。

さらに、本作は、
原作者が脚本を手掛けて、
映画化もされているそうで、
そちらの方も気になります。


【書籍情報】
発行年:2011年(文庫版2017年)
著者:パトリック・ネス
原案:シヴォーン・ダウド
訳者:池田真紀子
出版社:あすなろ書房、東京創元社

【著者について】
パトリック・ネス
’71年、アメリカ生まれ。
イギリス在住の作家、
ジャーナリスト。
’08年、『心のナイフ』で
ガーディアン賞を受賞。
'11年、『人という怪物』、
'12年、『怪物はささやく』で
カーネギー賞を受賞。

【原案者について】
シヴォーン・ダウド
1960~2007。
イギリス生まれ。
'06年、『A Swift Pure Cry』で
作家デビュー。
翌年、乳がんのため逝去。
'09年、死後に発表された
『ボグ・チャイルド』で
カーネギー賞を受賞。

【パトリック・ネスの作品】

【シヴォーン・ダウドの作品】


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