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「ブランディングの誤解」から学ぶ、売れない理由とブランドの幻想
・ブランディングすれば売り上げが上がる
・ブランディングは効果測定ができない
・ブランディングは中小企業にはできない
これらが全て「誤解」だとしたら?
今回ご紹介する西口一希氏の著書『ブランディングの誤解 P&Gでの失敗でたどり着いた本質』は、ブランディングに関する一般的な誤解の原因と、その本質について深く掘り下げた一冊です。
ブランドの定義とは?
ブランドの定義にはさまざまな解釈がありますが、本書ではフィリップ・コトラー氏の定義が、シンプルで誤解が生じにくいものとして紹介されています。
ブランドとは、個別の売り手または売り手集団の財やサービスを識別させ、競合する売り手の製品やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせ
しかし、識別しやすくなるからといって、それが必ずしも購入の理由になるわけではありません。購入の理由となるのは、あくまで「便益」や「独自性」であり、これらが顧客に選ばれる決め手になると解説されています。
顧客が買うのは「便益」と「独自性」
・便益
おいしい、汚れがよく落ちる、病気を防止するなど、商品・サービスの持つ、機能的な便益(=買う理由)。
・独自性
他の商品・サービスにはない、独自性(=他を買わない理由)。
ラグジュアリーブランドなどの特別な場合を除けば、ほとんどのカテゴリーにおいて、購入される理由は「機能的」な便益や独自性である。
この主張は、著者がP&G在籍時に手がけたヘアケアブランド「ヴィダルサスーン」での失敗や、アップルの伝説的広告「1984」「Think different.」が業績に大きく貢献しなかった事実、さらにはローソンのパッケージデザイン刷新の失敗事例や、奇抜なネーミングで一時的に拡大した高級食パンブームの終焉など、実際のケースをもとに説得力を持たせた形で説明されています。
ブランディングの目的
直接的に売上に貢献しないのであれば、ブランディングは何のために行うのか?本書では、ブランディングの目的を以下の3つに分類しています。
プロダクトの記憶化と想起率の確立
「想起率」とは、競合商品やブランドと比較して、自社が想起される割合を比率化したものを指します。情緒的・心理的価値の提供
機能的な便益や独自性に情緒的価値を加えることで、ブランドの付加価値を高めます。インナーブランディング
売上や利益の向上を直接的な目的とせず、従業員の働くモチベーションや採用効率の向上を目指します。
重要なのは、これら3つの目的の違いを正しく理解した上で、現在の自社において何をブランディングの主目的とすべきかを明確にすることです。
本書の「便益」と「独自性」
本書では、ブランディングの効果測定方法なども分かりやすく解説されており、多くのマーケターにとって有用な一冊です。私なりに、本書の「便益」と「独自性」を整理してみました。
便益
無駄なブランディング投資を防ぐための考え方が学べる
目的を明確に定めた上で、適切な戦略の策定と実行ができる
実施した結果について、数値を基に科学的な検証ができる
独自性
著者の実務経験に裏付けされた、明確な根拠がある
感覚ではなく、数値に基づいた理論がある
中小企業でも活用できる、汎用性の高い実務ノウハウが提供されている
本書は、すべての経営者やマーケターにとって非常に役立つ一冊だと思います。ブランディングを学ぶための最初の一冊を探している方や、既に多くの本を読んでいるものの道筋が見えずに悩んでいる方など、ぜひご一読をお勧めします。
ブランディングの誤解