【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第二部ー73
「冥界ステージ」
ステージ室に入ると、
新田がビックリするように口をぽかんと開けた。
「凄い……ですね。立派な劇場並みの舞台ですよ」
「実はお遊戯会程度のステージを考えてたんですけど、
冥王が劇場じゃなきゃヤダって駄々をこねたんですよ」
「あの方らしいですね」
新田が腕組みして笑った。
「新田君も一人舞台するなら俺が道具を作るから、
やりたくなったら言ってよ」
「新田君の舞台か~見てみたいな」
「そうだな……やりたい演目が見つかったらお願いしようかな」
三人がそんな話をしていると優香がやってきた。
「屋台って六点あればいいよね。作るのも大変だし」
「えっ? ああ、そうですね」
向井が返事を返し、室内を見回し言った。
「屋台? 」
新田が聞き返すと、
「実は客席があったんだけど向井さんに屋台の話をされて、
急遽変更したんだよ」
妖鬼が入り口横に置いてあったレイアウト表を見せて説明した。
「悪かったね。急に思いついたから」
「とりあえず、客席は収納できるようにしてある。
今回は左右に三点ずつ屋台を置いて合計六点。
中央に食べながら発表会が見られるように、
テーブルと椅子を設置することにしたよ。
そんなに数は多くないけど、いいでしょ」
「いや、十分ですよ」
「あのさ~屋台にフォンダンショコラってありえないんだけど」
優香が文句を言った。
「悪いですね。牧野君がうるさくて。
チョコの屋台を入れてくれって」
「かまわないけど、当日私のブースはチョコ三昧だよ」
「みんな喜びますよ。
冥王も串焼きするそうです」
「冥王も屋台に出るんですか? 」
新田が驚いていると優香が面倒くさそうな顔をした。
「ここ何日も厨房に来ては材料使って揚げたり焼いたり。
ドセもセーズも付き合わされて、
手伝ってるんだか邪魔してるんだか」
「すいませんね」
向井が頭を下げると、
「なるほど。納得がいった」
新田が頷きながら笑った。
「このところ食堂のメニューに、
串物が多い理由はそれだったんだ」
「そうなの? 」
妖鬼が聞く。
「田所さんが仕事に追われて食堂での食事が多いみたいで、
他のメニューが食べたいって言ってたんだ」
「屋台やる前に飽きられて、
冥王の屋台に誰も来ないんじゃないの」
優香があきれ顔で言った。
「サロンの方からも見に来るの? 」
新田が聞くと、
「楽しみにしてる人多いよ。
食べたとしても私達は霊魂だから味覚も微妙だし、
屋台は雰囲気を楽しむ感じかな」
「サロンの方達には人気のお香も焚きますから
お祭り気分を味わえると思いますよ」
「他にはどんな屋台が出るの? 」
新田もお祭り気分になってきたようだ。
「たこ焼き、お好み焼き、焼きそば?
冥王の串焼きには、
アメリカンドッグやフランクフルトも出すらしいよ。
あと、女性陣からのリクエストでクレープ」
「こうやって聞いていると、
牧野君じゃないけど楽しくなってくるね」
新田が言った。
「本当はハロウィン祭りにしようと思ったんだけど、
牧野が猛反対して中止になったの。
その日はいつも霊が増えるだろ?
だから発表会はハロウィンの前にした」
妖鬼が大笑いした。
そこへ安達が入り口から顔をのぞかせた。
「優香ちゃん、ケーキ作る約束だよ」
「あっそうだった。先に行ってて。今行くから」
「分かった」
優香の返事を聞くと安達は食堂へ走っていった。
「安達君、本格的にパティシエ目指してるのかな?」
新田が驚く顔で優香を見た。
「冗談抜きで上達してるよ。
好きこそものの上手なれ?
楽しそうに作ってるもの。
本当はそろそろ私も成仏しようと思ってたんだけど…
安達君に引き止められちゃって。
まだ、覚えたいスイーツがあるんだって」
「えっ? 逝っちゃうの? もう少しいなよ」
妖鬼が言う。
「安達君のあの調子じゃ、
まだ当分はここにいるから安心して」
優香が笑う。
「妖鬼や向井さん達は霊魂じゃなくて実態があるから、
飲んだり食べたり遊んだり、
楽しいことできるじゃない。
だけど、私は所詮幽霊だから」
そういって両手を広げるジェスチャーをした。
「ここにいれば楽しいこともできるけど、
逆を言えばここから出られないわけ。
やっぱ私は生きて空気を吸って走りたい。
まあ、次の人生どうなるかわからないし、
またすぐにここに戻ってきちゃうかもしれないけどね」
優香はあっけらかんと言うとケラケラ笑った。
「優香ちゃんはいつも思うけど信念があるよね」
「新田君みたいなイケメン俳優に、
そんなこと言われると恥ずかしいなぁ~」
優香のような霊を見ていると、
今だ過去の栄光にしがみ付いている特別室は悪の巣窟だ。
向井はそんなことを思いながら、
にこやかに談話する優香を見ていた。