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【長編連載】アンダーワールド~冥王VS人間~ 第三部ー84

「チップの埋め込み」

それから一ヶ月半。

講義と訓練を終え、
新たに四人の特例が誕生した。

三ヶ月もすると向井達もここでの生活、
リズムに慣れてきた。

向井が休憩室に行くと、
牧野がソファーに寝転がっていた。

「あれ? 仕事は? 」

「ん? 今戻ってきたんだよ。
何かまだ体に違和感があってさ。
霊魂の時と人間の時の使い分けって言うの?
それが上手くできなくて。向井は平気? 」

「俺はそれほど辛くはないけど……」

向井がそういったところで新田が部屋に入ってきた。

「向井さんは三十代だよね。二十代から下は、
肩にチップを埋められてるらしいんですよ。
俺も死んで知ったんですけど。
そのせいで死んだ後の肉体は上手く動かせないそうです」

新田が話し始めた。

「国民証明書が発行されて、
その後国民が階級制になっていたって知ってました? 」

向井達は驚いて首を横に振った。

「国のトップクラスをプラス。
そこから3A、2A、A、マイナス。
プラスと3Aはチップは免除。
これは世襲でつながっている主に政財界やトップ官僚の人間で、
2Aから下は生まれた階級でチップが埋め込まれているとか」

「えっ? そうなの? どこ? どこにあるの? 」

牧野が起き上がって、自分の体を触った。

「肩甲骨のあたりらしい。
チップの埋め込みは元々の血筋による、
身分制度で決められているので、
国民の殆どがチップを埋め込まれて監視されているって」

「冗談だろ? 」

牧野がぞっとしたように言い向井も驚きに目を見開いた。

「冗談じゃないんだって。
俺と牧野君は医務室行って、
肩のあたりに機械をあてられただろう。
仕事の時は人間でいるからチップを破壊したんだってさ。
子は宝政策で子育て家庭無償化が決まって、
出産後に2Aから下の乳児には、
全国にある国立乳児病院で検査を受ける義務化が始まったじゃないか。
そこで知らないうちに、
チップインジェクションがされているらしいよ。
半永久持つチップらしいけど経年劣化もあるらしくて、
今は人体実験の段階なのかな」

「チップの埋め込みなんて……
無償化の代償にしては大きいですね」

向井が吐息を漏らすように話した。

「そういえば戦後百年を過ぎて、
新しい国家の誕生と多くの政策が発表されて、
お祝いムードでしたよね。
家族子宝の会って団体が、
大臣と一緒に被災地まわってましたしね」

向井が当時を思い出すように言った。

「そんなお祝いなんてあったの? 俺知らないよ」

「牧野君が幼い頃だから覚えてなくても当然かな。
俺が中学生の時だから」

「そうだ。あの大災害があった年の後だから……
おれも小学生で怖かったことしか記憶にないな。
ただ……当時、
何かワクチンみたいなもの打たされたんだよ。
今考えたらそれがチップだったんだけど、
あの大災害の後だったからさ。
何かよくわからないうちに色々された記憶しかない…」

新田も考え込むように言った。

「あの時はこの国はもう沈没するって言われて、
富裕層は国外に逃げたし、
外国人も母国に戻った年だったんだよね。
学校で習った」

「あの時法案に反対したものは一部の国民からもバッシング受けて、
淘汰されましたからね。
災害が治まった後は、
子育て国家を売りにした大沢の人気が急上昇……
知らないうちに子育て世代は大沢に加担していたという訳ですか」

「やり方がえげつないですよね」

新田もため息をついた。

「俺がまだ新人だった頃、
大沢幹事長のお孫さんが俺のファンだって言うんで、
事務所に言われて会いましたけど、
尊大でいい印象はなかったな。
彼が病気で亡くなった時は、
この国も少しは変わるかと思ったのに、
マフィア化した官僚も増えて、
前よりひどくなってる気がするんだよね」

「だったら、俺、死んで正解? 」

牧野の言葉に沈黙が続いた。


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八雲翔
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