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外大のシェイクスピアの授業
私が在籍していた十数年前の東京外国語大学には、シェイクスピアを専門とする教授や准教授はいなかった。
それどころか、彼の時代である16〜17世紀の英文学の専門家もいないという状況だった。
当時シェイクスピアを研究したくて外大に入った学生がいたら、さぞや途方に暮れたことだろう。
そのかわり、「副専攻語」(第二外国語に相当)の英語では、非常勤講師がシェイクスピア作品を扱う授業を選択できた。
私は気まぐれ的にそれを受講したが、時間割に余裕がなく極めて無為に授業時間を過ごしてしまった。
その後、なんとか単位は取れた。しかしシェイクスピア文学を何一つ理解できなかったのが心残りで、在学中に『ハムレット』『マクベス』『ヴェニスの商人』『テンペスト』を翻訳で読んでみた。
そして私は、人の心を揺さぶるようなドラマチックな台詞と展開に魅了された。とくに『マクベス』のダークな世界観にハマってしまった。今まで「敷居が高い」と勝手に思い込んでいたが、全くそんなことはなかったのだ。何も知らずに授業を受けていたのが恥ずかしい。
もちろん、授業を受けたことで、魅力を理解する下地が形成されていた面も少しはあったはずである。