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趣味の昆虫と物理学。原子核物理で博士(理学)持ち。自分なりに見つけたおもしろい問題とそ…

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趣味の昆虫と物理学。原子核物理で博士(理学)持ち。自分なりに見つけたおもしろい問題とその解決の記録。検索しても簡単に答えが出てこない問題をネタにします。物理のレベルは容赦なく高め。

マガジン

  • ちょっと上級の物理学(たまに数学)

    基本事項の解説はありません。検索しても簡単に答えが出ない問題を考えた記録。

  • 大人がハマる昆虫研究

    40になって知ったディープな昆虫の世界。身近な環境も、視点次第で宝の山に。

最近の記事

無限井戸型ポテンシャルに波束を置くとどうなるか?―古典論と量子論のシームレスなつながり―

はじめに 量子力学の初学者が「何をやってるのか分からん」状態になる最大の原因の1つに、古典力学とのつながりがなかなか見えないことがあると思う。大学の学部の量子力学の授業だと、ポテンシャル束縛系の問題として、調和振動子と水素原子の厳密解を求めるのは定番のネタだが、そこで習うのは通常、時間に依存しないエネルギー固有状態の関数形のみである。ポテンシャルに束縛された粒子が古典論的に動く描像は、一体どこへ行ったのか? 一方で、プランク定数をゼロにする極限をとると、シュレディンガー方

    • ナラ枯れで増えた昆虫―厚木市の里山にて―

      ここ数年猛威を振るっていたナラ枯れ(カシノナガキクイムシによるコナラ材の食害)だが、最近ようやく終息しつつあるようである。神奈川県厚木市内の里山の公園では、ナラ枯れで枯死したコナラが伐採され、放置された伐採木に硬質のキノコがたくさん産生されるようになった。その影響か、キノコを喰う菌食性の昆虫や、キノコに集まる虫を捕食する昆虫が増加し、夜間に山に入ると、なかなか賑やかな光景が見られるようになった。2024年に観察した昆虫を簡単に紹介する。 筆頭は、キノコヒモミノガPsychi

      • 真冬の夜に活動するゴミムシ

        甲虫は成虫で越冬する種が多いが、その休眠の深さは様々である。冬場であっても、暖かい日の日中にナナホシテントウが気紛れに活動しているのを見かけることがあるが、夜行性の種が冬季の夜間に活動するのを観察した例は少ないのではないだろうか。私は、2024 年1 ~2月の夜間に神奈川県内で調査を行い、17種のゴミムシ類が地表に出て活動しているのを確認した。このような生態はあまり知られてないと思うので、簡単に紹介する。 調査方法は簡単で、散歩がてら、夜間にライトで地表を照らして歩き回るだ

        • スピン測定に関わるパラドックス的問題―シュテルン=ゲルラッハ実験 考—

          はじめに 物理学で博士号を取った私だが、量子力学というのは、つくづく、学ぶための敷居が高いと思う。古典力学と比較して物理的な概念や考え方がガラリと変わるため、慣れるまでに時間を要するのだ。自慢ではないが、私の場合、授業で習ったことがいろいろ腑に落ちたのは、大学院の博士課程に入った頃だった(バリバリの理論系志望でない限り、こんなものじゃないだろうか?)。物理学科の学部時代、3年次から始まった本格的な量子力学の授業(江口徹先生担当)では、初回の講義からいきなり、「任意の物理状態

        無限井戸型ポテンシャルに波束を置くとどうなるか?―古典論と量子論のシームレスなつながり―

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        • ちょっと上級の物理学(たまに数学)
          22本
        • 大人がハマる昆虫研究
          29本

        記事

          ベルの不等式の直観的理解—隠れた変数のモデルを大真面目に考えるー

          はじめに 2022年のノーベル物理学賞は、ベルの不等式の破れを実証し、量子情報科学を開拓した業績で、アスペ、クラウザー、ツァイリンガーの3氏が受賞したのは記憶に新しい。20年前の大学院時代、私の博士論文の研究テーマが「陽子対のスピン相関の測定によるベルの不等式の検証」だったので、この分野の実験家からノーベル賞が出たのは感慨深いものがあった。ベルの不等式は、2つの系が量子論的にもつれた状態にあるときに、それらの観測量の相関が古典論では説明できないほど強くなる現象に絡むものである

          ベルの不等式の直観的理解—隠れた変数のモデルを大真面目に考えるー

          連結器の配送問題—大正時代の国鉄の大事業—

          今回は小ネタ。大学の学部時代、在籍していた物理学科で「アルゴリズムとデータ構造」という選択科目の授業があった。当時、この手のコンピュータ関連の話には全く興味がなく、単位を揃えるために仕方なく受講していただけのため、どんな内容だったのかほとんど記憶に残っていない。その授業で、日立グループの現役の研究者の方が1回だけ講義に来たことがあった。普段接点のない企業研究者の話が聞けたので、少しだけ新鮮味があった記憶がある。その方が、授業の冒頭に、以下のような話をしたのを最近ふと思い出した

          連結器の配送問題—大正時代の国鉄の大事業—

          ターンテーブル上を転がる球の不思議な運動

          はじめに「楽しめる物理問題200選」という、物理の問題集がある。 大学の学部生向けの問題集で、題材は主に古典物理学の範囲だが、なかなか興味深い問題が集められているのだ。一見難解に見えても、ある気付きを得ると簡単に解けるような「補助線一発解法」的な問題も多く、単なる演習書を超えた面白さがある。 この本で目を引いたのが、以下のような問題である。*印2つの難問指定。以下引用。 P99** オーストラリアのキャンベラにある科学博物館に、次のような装置がある。水平なテーブルの中央

          ターンテーブル上を転がる球の不思議な運動

          双眼実体顕微鏡のフレア解消法

          はじめに最近購入した廉価品の双眼実体顕微鏡で白い背景で虫を観察すると、視野全体に白っぽいフレアが広がり、まったく使い物にならないことが判明した。廉価品とは言っても、メーカー希望小売価格10万円、実勢価格4万数千円である。実に落胆させられたが、ローテクの工夫でフレアをほぼ解消し、劇的にコントラストを上げることができた(トップ画像参照)。材料はタダ同然の簡単な工作でできるので、紹介する。 フレアの発生と対策の原理フレアとは、像の形成に寄与しない光(迷光)が過剰に光学系に入射して

          双眼実体顕微鏡のフレア解消法

          小蛾類の展翅法

          はじめに 昨今の昆虫界において蛾類愛好家は意外と多いが、いわゆる小蛾類(ミクロレピ)とよばれる小型種の愛好家は依然として少数派である。小蛾類は、小型ながら、金属光沢や豊かな色彩を持つ美麗種が多い。 小蛾類では、生態も未解明の種が多いため、コレクションの対象としてのみならず研究対象としても魅力的な分類群と思われるが、標本作成と種同定の困難さが敷居を高くしている。小蛾類の展翅法に関しては、過去にいくつか解説が出ているが、小蛾類専用の展翅板を用いるのが前提となっている。開帳がわず

          小蛾類の展翅法

          一様加速する電荷は電磁波を放射するか?―電磁気学の奥深すぎるパラドックス―

          はじめに 等加速度運動を相対論的に記述するリンドラー座標について、これまでに以下の5本の記事を書いた。 ①リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述― ②リンドラー座標つれづれ(1)―双子のパラドックス― ③一般相対論的放物線―リンドラー座標つれづれ(2)― ④事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)― ⑤無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リンドラー座標つれづれ(4)— これで、ようやく本丸の問題に取り掛かる準備が整った

          一様加速する電荷は電磁波を放射するか?―電磁気学の奥深すぎるパラドックス―

          ヨシトミダルマガムシ徒然

          はじめに ヨシトミダルマガムシHydraena yoshitomiiという水生甲虫がいる。ダルマガムシ科に属する、体長1.5 mmほどしかない微小種である。ダルマガムシ科の中でも、赤茶色の体色が特徴のシコクダルマガムシ種群に属する種で、この仲間は、通称、赤いダルマガムシ(赤ダルマ)と呼ばれる。 ダルマガムシ科の虫はいずれも微小で、見つけるには種ごとにコツを要するが、この赤ダルマの仲間は、特に採集が難しいことで知られる。難しい理由は、 とにかく小さい とにかく環境にうるさ

          ヨシトミダルマガムシ徒然

          無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リンドラー座標つれづれ(4)—

          はじめに しつこいが、リンドラー座標ネタは続く。本稿は、以下の記事の続きである。 問題をおさらいする。荷電粒子が$${z}$$軸上を相対論的な等加速度運動をしている状況を考える。$${t = -\infty}$$, $${z = +\infty}$$から原点に向かって移動してきて、$${t = 0}$$に$${z = b\,\,(>0)}$$に到達し、そこで折り返して$${t = +\infty}$$, $${z = +\infty}$$に向かって飛び去って行く。このとき、

          無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リンドラー座標つれづれ(4)—

          事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)―

          はじめに 等加速運動を相対論的に記述するリンドラー座標について、これまでに以下の3篇の記事を書いた。 ①リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述― ②リンドラー座標つれづれ(1)―双子のパラドックス― ③一般相対論的放物線―リンドラー座標つれづれ(2)― 相対論的な等加速度運動で興味深いのは、等加速度運動する主体が荷電粒子の場合である。荷電粒子の等加速度運動を相対論的に取り扱うと、荷電粒子自身が周囲に作る電磁場や、荷電粒子が放射する電磁場について、古

          事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)―

          Interference Pattern Formed in a Finger Gap is NOT Single Slit Diffraction

          Simple way of making an interference pattern with fingersThe phenomenon of forming an interference pattern by using light that passed through a double slit is a basic item learnt in a high school physics course. It is a good example that li

          Interference Pattern Formed in a Finger Gap is NOT Single Slit Diffraction

          菌食性甲虫つれづれ

          菌食性甲虫というのがいる。菌食性とは、キノコを専門的に摂食するという意味だが、それらが食べるキノコは、人間が食べるような柔らかいキノコではなく、朽木や立ち枯れについているカワラタケのような硬いキノコであるのが普通である。山中を歩いていると、このような硬質キノコがたくさん付いている立ち枯れなどがよく見つかるが、それらを見て回ると、たくさんの小甲虫が群がっていることがある。 これらの菌食性甲虫は、どういうわけか、まんべんなく分布している感じではなく、特定のポイントに複数種がまと

          菌食性甲虫つれづれ

          一般相対論的放物線—リンドラー座標つれづれ(2)—

          はじめに 本稿でも、等加速度運動の相対論的な記述について紹介する。以下の記事の続きである。本稿の内容も、調べればどこかに解説されていることなので、自分のオリジナルな部分は特にない。表式を簡単にするため、前記事同様、以下で光速度$${c=1}$$とする単位系を使用する。 場所に寄らず一様な重力場があるとき、ニュートン力学によると、空中に放り投げた物体の軌道が2次曲線の放物線を描くことは、高校の物理で習う基本事項である。式で書くと、鉛直方向の速度と座標は、 $${\displ

          一般相対論的放物線—リンドラー座標つれづれ(2)—