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ナラ枯れで増えた昆虫―厚木市の里山にて―

ここ数年猛威を振るっていたナラ枯れ(カシノナガキクイムシによるコナラ材の食害)だが、最近ようやく終息しつつあるようである。神奈川県厚木市内の里山の公園では、ナラ枯れで枯死したコナラが伐採され、放置された伐採木に硬質のキノコがたくさん産生されるようになった。その影響か、キノコを喰う菌食性の昆虫や、キノコに集まる虫を捕食する昆虫が増加し、夜間に山に入ると、なかなか賑やかな光景が見られるようになった。2024年に観察した昆虫を簡単に紹介する。

筆頭は、キノコヒモミノガPsychidae Gen sp.である。ミノガ科に属する種だが、属も種も確定してない未記載種らしい。1月に、硬質キノコからヒモ状のものがたくさん伸びているのが見つかった。ヒモの内部に幼虫が入っており、キノコに潜りこんで喰うらしい。ミノガ類は個人的に研究対象なので、以前から探していたが、ようやく見つけることができた。個体数は非常に多い。残念ながら今年は成虫を採り逃した。

キノコヒモミノガ 2024年1月
キノコヒモミノガ 2024年1月

次は、オオキノコムシ科の甲虫。硬質キノコを喰う甲虫である。まずはヒメオビオオキノコEpiscapha fortunei. 個体数は多い。

ヒメオビオオキノコ 2024年4月

次はタイショウオオキノコEpiscapha morawitzi. ヒメオビオオキノコとそっくりだが、一回り大きく、体長14 mmくらいある。ヒメオビよりもレアで、今回初見。しかも、場所によっては高密度にいた。

タイショウオオキノコ 2024年7月

次は、フタホシチビオオキノコTriplax devia. 体長3.5 mmほどの小型種。場所によってはたくさん見られた。

フタホシチビオオキノコ 2024年4月

オオキノコムシ科でいちばん個体数が多かったのがルリオオキノコAulacochilus sibiricus bedeli. うじゃうじゃいるレベル。

ルリオオキノコ 2024年4月

次はゴミムシダマシ科。筆頭はサトユミアシゴミムシダマシPromethis valgipes. 体長3 cmほどの大型種。神奈川県西部では元々ほとんど見ない種だったが、最近異様に増えている印象。朽木食かと思っていたが、キノコも普通に喰っていた。

サトユミアシゴミムシダマシ 2024年7月

微小なベニモンキノコゴミムシダマシPlatydema subfasciaも点々といた。

ベニモンキノコゴミムシダマシ 2024年7月

キノコに集まる捕食性昆虫としては、ハギキノコゴミムシCoptodera subapicalisがたくさん見られた。元々珍しい種ではないようだが、今年始めて見た。また、コキノコゴミムシCoptodera japonicaも1頭のみ見つかった。

ハギキノコゴミムシ 2024年7月
コキノコゴミムシ 2024年7月

他、キノコとは関係ないが、同時に見つかった虫たち。ニセクロホシテントウゴミムシダマシDerispia japonicolaの雌雄ペアを発見。

ニセクロホシテントウゴミムシダマシ 2024年5月

マダラマルハヒロズコガIppa conspersaの幼虫は、コナラの樹液が出ているところで複数見つかった。ミノムシのように、平べったい8の字型のケースを背負って暮らす。

マダラマルハヒロズコガの幼虫 2024年5月

トゲアリPolyrhachis lamellidensが、落ち葉に付着したゼリー状の物質に群がっていた。トゲアリは、クロオオアリの巣を乗っ取る一時的社会寄生の生態を持つ。近年減っているようだが、この里山では経年的に同じ場所でコロニーが見られる。

トゲアリ 2024年7月

以上、賑やかになった里山の昆虫。菌食性の昆虫がこれほど増えたのは、ナラ枯れの枯死木が現在大量に発生しているからであり、枯死木の腐朽が進んで硬質キノコが生えなくなると、菌食性昆虫は再度減って、個体数は落ち着いてしまうだろう。これもまた、自然界にある栄枯盛衰のサイクル。

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