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無限井戸型ポテンシャルに波束を置くとどうなるか?―古典論と量子論のシームレスなつながり―


はじめに

 量子力学の初学者が「何をやってるのか分からん」状態になる最大の原因の1つに、古典力学とのつながりがなかなか見えないことがあると思う。大学の学部の量子力学の授業だと、ポテンシャル束縛系の問題として、調和振動子と水素原子の厳密解を求めるのは定番のネタだが、そこで習うのは通常、時間に依存しないエネルギー固有状態の関数形のみである。ポテンシャルに束縛された粒子が古典論的に動く描像は、一体どこへ行ったのか?

一方で、プランク定数をゼロにする極限をとると、シュレディンガー方程式は、古典力学の集大成たるハミルトン・ヤコビの偏微分方程式に帰着するので、量子論と古典論はシームレスにつながっているとかの説明がなされる。運動方程式のレベルでそうなっているということは、上記のような具体的な問題でもそうなっているはずだが、一体何をどう考えたら、この「シームレスなつながり」が見えてくるのでしょう??

この辺の問題は、初学者なら絶対に疑問に思うポイントだし、ちゃんと学んだ人でも、即答できる人は意外と少ないのではないだろうか。これに正面から答えるには、古典的な「粒子」を、波動関数が空間的に局在した「波束」に置き換えて、ポテンシャルに束縛された波束の運動を実際に導出してみればよいのだが、不思議なことに、この辺の解説は世の中でほとんど見たことがない。

本稿では、物理学徒なら誰もが習う無限井戸型ポテンシャル問題を材料にして、この「シームレスなつながり」の可視化を試みる。最近自分で考えたものだが、たぶん本質は外してないと思う。悩める物理学徒は、一緒にご考察を。

基本の復習

さて、状態の時間発展を扱う問題を考えるにあたり、まず、量子力学の基本を復習。時間的に変化しないポテンシャル$${V(x)}$$に束縛された粒子の状態$${\Psi(t, x)}$$を考えよう。ハミルトニアンは、

$${\displaystyle \hat H \equiv -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2} + V(x)}$$ 式1

である。$${\Psi(t, x)}$$は、シュレーディンガー方程式

$${\displaystyle i\hbar\frac{\partial \Psi}{\partial t} = \hat H\Psi}$$ 式2

を満たす。ここで、以下の定理が成り立つ。

[定理]===================
$${\hat H}$$が時間に依らない場合、時間に依存しないシュレーディンガー方程式

$${\hat H\phi = E\phi}$$ 式3

の解(エネルギー固有値と固有状態)を$${E_n}$$, $${\phi_n(x)}$$($${n = 1, 2, \dots}$$)とすると、式1の時間に依存する一般解$${\Psi(t, x)}$$は、

$${\displaystyle \Psi(t, x) = \sum_n c_n \phi_n(x)\exp\left[-i\frac{E_n}{\hbar}t\right]}$$ 式4

のような展開形で表すことができる($${c_n}$$は任意の複素数の定数)。特に、初期状態$${t = 0}$$の関数形$${\Psi(0, x)}$$が決まっている場合、展開係数$${c_n}$$は、

$${\displaystyle c_n = \langle\phi_n|\Psi\rangle = \int\Psi(0, x)\phi_n^*(x)dx}$$ 式5

で求められる。
=======================

すなわち、時間に依存しない式3の解さえ得られていれば(一般にはこれを解くのが大変なのだが)、初期状態の関数を決めるだけで、その後の時間発展は意外と簡単に求められるのである。以下では、この考え方を応用していく。

自由粒子の場合

ガウス波束の時間発展の厳密解

以下で簡単な問題からステップを踏んで考えていく。まず、自由粒子、すなわち$${V(x) = 0}$$の場合を考える。この場合、古典力学では当然ながら等速運動$${x(t) = v_0t + x_0}$$が解となる。量子力学ではどうなるか、上述の定理式3~5)に沿って考えてみよう。$${V(x) = 0}$$なので、式3は、

$${\displaystyle -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2\phi}{dx^2} = E\phi }$$ 式6

となり、固有値と固有状態は、よく知られた平面波解

$${\displaystyle E_k \equiv \frac{\hbar^2k^2}{2m},\,\phi_k(x) \equiv e^{ikx}\,\,(-\infty < k < \infty)}$$ 式7

である。さて、これを用いて、時間に依存する一般解を、

$${\displaystyle \Psi(t, x) = \int_{-\infty}^\infty\tilde \phi(k)\phi_k(x)e^{-iE_nt/\hbar} dk}$$ 式8

と展開する(式4に相当するが、$${k}$$が連続値のため、和は積分となる)。さて、初期状態で、$${\Psi(t=0, x)}$$は$${x = 0}$$を中心として大きさ$${\sigma_0}$$程度に広がった波束とする。さらに、初速度$${v_0 = \hbar k_0/m}$$で動いているとする。関数形をガウシアンとすると、$${\Psi(t=0, x)}$$は

$${\displaystyle \Psi(0, x) = \frac{e^{ik_0 x}}{\sqrt{2\pi}\sigma_0}\exp\left[-\frac{x^2}{2\sigma_0}\right]}$$ 式9

とすればよい。これを用いて、式8中の展開係数$${\tilde \phi(k)}$$を求めるには、

$${\displaystyle \tilde\phi(k) = \int_{-\infty}^\infty \Psi(0, x) \phi_k^*(x) dx}$$ 式10

を計算すればよい(式5に相当)。式8とか式10は、要するにフーリエ変換の手法そのものであるが、今の場合、その手法自体が上述の定理をそのままなぞっているわけである。

式10を実際に計算すると、

$${\displaystyle \tilde\phi(k) = \exp\left[ -\frac{\sigma_0^2}{2}(k-k_0)^2 \right]}$$ 式11

となる。波数$${k}$$の分布は、初速度$${v_0}$$に対応する$${k_0}$$を中心として、$${1/\sigma_0}$$の広がりを持つガウシアンとなる。そして、式11式8に代入して、

$${\displaystyle \Psi(t, x) = \int_{-\infty}^\infty\exp\left[ -\frac{\sigma_0^2}{2}(k-k_0)^2 \right]e^{ikx}\exp\left[ -i\frac{\hbar k^2}{2m}t \right] dk}$$ 式12

となる。これを計算すれば、時間発展の具体的な表式を得ることができる。少々面倒だが、この積分は厳密に計算できて、

$${\displaystyle \Psi(t, x) = \frac{e^{-\sigma_0^2k_0^2/2 - i \theta/2}}{(\sigma_0^4 + \beta^2)^{1/4}}\exp\left[ \frac{1}{2}\frac{(\sigma_0^2k_0+ix)^2}{\sigma_0^2+i\beta} \right]}$$ 式13

となる。ここで、

$${\displaystyle \beta \equiv \frac{\hbar t}{2m},\,\,\theta \equiv \arctan\frac{\hbar t}{m\sigma_0^2}}$$ 式14

である。式13の表式のままでは分かりにくいので、絶対値の2乗をとると(これも少々メンドクセー計算)、

$${\displaystyle |\Psi(t, x)|^2 = \frac{1}{\sigma_0 \sigma(t)}\exp\left[ -\frac{(x-v_0t)^2}{\sigma(t)^2} \right] }$$ 式15

$${\displaystyle \sigma(t) \equiv \sqrt{\sigma_0^2+\left( \frac{\hbar t}{m\sigma_0} \right)^2} }$$ 式16

という簡潔な表式を得る。$${v_0}$$は、上述のように波束の初速度で、$${v_0 = \hbar k_0 / m}$$である。

波束の広がり方は質量で決まる

式16から、波束が下図のように時間発展するのがすぐに分かる。

図1. x方向に等速で動く自由粒子の波束の時間変化

波束はガウシアンの形状を保ったまま、波束の中心は速度$${v_0}$$で等速で動いていく。同時に、時間の経過に伴って、波束が周辺に広がっていく(ピークの高さも小さくなる)。ここで重要なのは、式16を見ると分かるように、波束の広がる速さが、粒子の質量の逆数にほぼ比例することである。具体的に数値を代入して、広がる速さを実感してみよう。式16をちょっと書き換える。

$${\displaystyle \sigma(t) = \sqrt{\sigma_0^2+\left( \frac{\hbar c\cdot ct}{mc^2\cdot \sigma_0}\right)^2} \\ \, \\ \quad\quad \simeq \sqrt{\sigma_0^2+\left( \frac{200\,\text{MeV}\cdot \text{fm}\cdot ct}{mc^2\cdot \sigma_0}\right)^2} }$$ 式17

初期状態の広がりを$${\sigma_0 = 1\, \text{fm}}$$として、$${t = 1\,\text{ns}}$$の時刻における広がりを計算してみよう。1 nsの時間で光の進む距離は$${ct = 30\,\text{cm}}$$である。さて、電子の場合はどうなるか?$${mc^2 \simeq 0.5\,\text{MeV}}$$として、これらの数値を上式に代入すると、$${ \sigma(t) \simeq 1.2\,\times\,10^{11}\,\text{m}}$$ もの大きさになる。言い換えると、10憶分の1秒の間に、光が1秒間に進む距離の400倍もの大きさに広がってしまうことになる(広がる速さは光速を超える!)。

では、身の回りにある物体を想定して、$${m = 1\,\text{kg}}$$とするとどうか?$${1 \, \text{kg}}$$という質量は、電子の質量のおよそ$${10^{30}}$$倍である。なので、広がる速さは、電子と比べて$${10^{-30}}$$倍の遅さになる。この速さで$${\sigma(t)}$$が1 mm程度に広がるのに要する時間を計算すると(初期値は同じ$${\sigma_0 = 1\, \text{fm}}$$)、$${t\simeq10^{16}\,\text s}$$となり、実に億年単位の時間となる。

つまり、電子のような軽い粒子の場合、その存在確率はすぐに空間的に薄く広がってしまい、観測するたびに位置が容易に変わり得るが、巨視的な重い物体の場合、その大きな質量のせいで、位置の不確定性はほとんど無視できるレベルになる。古典力学は、この不確定性を無視した極限を記述していると言える。量子論は、古典論の範囲までカバーして記述しており、ミクロとマクロのつながりは、質量をパラメータとして連続的につながっているわけである。

無限井戸型ポテンシャルの場合

次に、本題の無限井戸型ポテンシャルの場合を考える。下図のように、原点を中心に$${\pm L}$$の位置に無限障壁がある場合の、波束の時間発展を考えよう。

図2. 無限井戸型ポテンシャルに波束を置くと?

上述の自由粒子の場合と同様に、初速度$${v_0}$$で動き始めるとする。古典力学では、粒子は速度$${v_0}$$を保ったまま、左右に往復運動するだけである。量子力学で、その動きを再現できるだろうか?

エネルギー固有状態

まず、このポテンシャルのエネルギー固有状態を求めよう。この問題は、量子力学の入門的講義の定番である。$${-L \le x \le L}$$ の範囲で $${V(x) = 0}$$ なので、シュレーディンガー方程式は式6と同じ

$${\displaystyle -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2\phi}{dx^2} = E\phi }$$ 式18

だが、自由粒子の場合とは異なり、$${x = \pm L}$$で$${\phi(x) = 0}$$の境界条件が設定される。これにより、波動関数は両端で必ず節になる必要があり、波数$${k}$$は離散的な値しかとれなくなる。解は、よく知られているように、

$${\displaystyle \phi_n(x) = \begin{cases} \cos k_n x &n = 1, 3, \dots \\ \sin k_n x &n = 2, 4, \dots \end{cases}}$$ 式19

$${\displaystyle k_n \equiv \frac{n\pi}{2L},\,\,E_n = \frac{\hbar^2 k^2}{2m}}$$ 式20

である(規格化係数は省略)。図示すると、下図のようになる。

図3. 無限井戸型ポテンシャルのエネルギー固有状態

波動関数の両端は必ず節となり、節の個数が増えるほどエネルギーも高くなる。

波束の時間発展の解法

上記の固有状態の波動関数は、井戸型ポテンシャルの空間における定在波を表すだけで、そこからは粒子が左右に動く描像は得られない。次に、上述の定理式4, 5)の方法に従って、井戸型ポテンシャルに置かれた波束の時間発展を求める。波束の波動関数を$${\Psi(t, x)}$$を、式19の固有状態$${\phi_n(x)}$$を用いて以下のように展開する。

$${\displaystyle \Psi(t, x) = \sum_n c_n \phi_n(x)\exp\left[-i\frac{E_n}{\hbar}t\right]}$$ 式21(式4と同じ)

展開係数$${c_n}$$は、

$${\displaystyle c_n = \langle\phi_n|\Psi\rangle = \int_{-L}^L\Psi(0, x)\phi_n^*(x)dx}$$ 式22(式5とほぼ同じ)

で求められる。

さて、初期状態の波束の関数形を、初速度$${v_0}$$で動く、ガウシアン的な形状に設定したい。が、ガウシアンそのものだと、$${x = \pm L }$$でゼロにならにため、厳密には解にならない。が、、初期状態で原点$${x = 0}$$にあるとして、その広がり$${2\sigma_0}$$が井戸幅$${2L}$$と比べて十分小さい場合、ガウシアンは良好な近似解と見なせるだろう。そこで、

$${\displaystyle \Psi(0, x) = \frac{e^{ik_0 x}}{\sqrt{2\pi}\sigma_0}\exp\left[-\frac{x^2}{2\sigma_0}\right]}$$ 式23(式9とほぼ同じ)

とおいてみる。ここで、波数$${k_0}$$は、初速度に対応するもので、$${v_0 = \hbar k_0 / m}$$の関係にある。この$${\Psi(0, x)}$$を用いて、式22から展開係数$${c_n}$$を数値計算で求める。$${c_n}$$が有限な値をもつのは、ある範囲の$${n}$$に限られると期待されるので、少数の項の和で式21から時間発展が求められそうである。

解の典型例

上記の方針に従って、具体的に数値計算した例を示す。$${\hbar = 1}$$とし、パラメータを$${\sigma_0 = 0.05}$$, $${L = 1}$$, $${k_0 = 50\pi}$$, $${m = 1}$$と設定した。展開係数$${c_n}$$は、下図に示したように、実部・虚部ともに$${n = 50}$$を中心とする離散的なガウシアンとなった。今の場合、$${k_0 = 50\pi}$$であるので、式20より$${n =50}$$が中心になるのは妥当である。

図4. 展開係数Cn
実部(青)はnが偶数でゼロ、虚部(赤)はnが奇数でゼロであることに注意。

波動関数$${\Psi(0, x)}$$の時間発展は、以下の図のようになった。まず、初期状態$${t = 0}$$。実部と虚部はいずれも波数$${k_0 \simeq 50}$$で振動しているが、絶対値をとるとガウシアン型となっている。

図5. 波束の時間発展(t = 0)
黒線の絶対値は、|ψ|の2乗ではなく|ψ|そのものであることに注意。

これが、時間が経過すると、下図のように右へ移動して行く。自由粒子の場合と同様に、波束の形状はガウシアンを保ったまま、広がって潰れていく。

図6. 波束の時間発展(壁に衝突前)

波束が壁に衝突すると(下図)、反射波が重なって干渉縞が発生するが、時間が経過すると、左に進むガウシアンとなる(時間の経過でさらに潰れている)。

図7. 波束の時間発展(壁に衝突中・後)

さらに時間が経過すると、波束は左右の壁で反射を繰り返し、下図のように不規則な波となって変動を続ける。今の問題の場合、粒子がエネルギー準位間を遷移するような相互作用は何も設定していないので、この不規則なさざ波が未来永劫続く。

図8. 波束の時間発展(十分な時間経過後)

ここでちょっとおもしろいのは、初め右方向に初速度を与えた波束が、壁に衝突した後では、動く方向がちゃんと左向きに転向することである。古典力学では、粒子が壁に衝突した瞬間の弾性衝突の機序も設定しないと、連続する時間発展で向きを転じさせることはできないが、量子力学では、端の境界条件$${\phi_n(\pm L) = 0}$$を設定するだけで、弾性衝突が自然に導出されるのである。波動なのだから当たり前と言えばそうかもしれないが。

自由粒子の場合と比較

上記の議論で、無限井戸型ポテンシャルにおける波束の基本的な時間発展は把握できた。次に、自由粒子の波束の場合とどう異なるか比較してみよう。上の例の3つのパラメータを$${\sigma_0}$$, $${k_0}$$, $${m}$$を式15に代入してできる自由粒子の波束と、上の例の波束を重ねてプロットしたのが、下図である。無限井戸中の波束(黒)が壁に衝突する前では、両者はピッタリと重なっている。

図9. 自由粒子の波束(赤)と無限井戸中の波束(黒)の比較(壁への衝突前)
図示しているのは、波動関数の絶対値の2乗である。

無限井戸中の波束(黒)の壁への衝突以後は、下図のようになる。自由粒子の波束は、$${x = L}$$を超えて進んだ部分は折り返して表示している。衝突後、無限井戸中の波束(黒)が壁から離れれば、やはり自由粒子の波束(赤)とピッタリと重なることが分かる。

図10. 自由粒子の波束(赤)と無限井戸中の波束(黒)の比較(壁への衝突以後)

要は、無限井戸型ポテンシャル中にある波束は、波束が壁から十分離れている限り、自由粒子の場合とまったく同じ振る舞いをする。これは直観的にも納得できる性質だろう。

上の例の波束では「波動」としての性質が強く見える。もっと粒子らしく振舞うようにするには、$${\sigma_0}$$を小さくして$${m}$$を大きくすればよい。試しに、$${\sigma_0 = 0.025}$$, $${m = 100}$$, $${k_0 = 5000}$$($${v_0 = \hbar k_0 / m}$$は上の例と同じ)とした場合の、壁衝突前後を図示したのが下図である。壁に接触した瞬間以外では、自由粒子と同じく狭小なガウシアンを保ち、粒子の「硬い」感じが現れてくる。

図11. 自由粒子の波束(赤)と無限井戸中の波束(黒)の比較(壁への衝突前後)
波束の幅を1/2倍、質量を10倍にした場合。

このように、質量$${m}$$を大きくすれば、波束は壁に衝突した瞬間を除いて、形状はほとんど変化しなくなり、空間において粒子が確率的に存在し得る範囲は常に狭いまま保持される。古典力学は、このように波動関数を局在化した極限を記述していると言える。

おわりに

今回の議論をまとめると、以下のようになる。

  • ポテンシャルに束縛された粒子のエネルギー固有状態は、一見、古典力学的な粒子の運動と無関係に見えるが、異なるエネルギーの固有状態の適当な線形和をとれば、波束を作ることができる。その波束の時間発展が、古典的な粒子の運動に対応する。

  • 粒子の質量が軽すぎると、波束はすぐに広がった波に変化してしまうが、質量が大きくなると、波束は長時間維持されやすくなる。この「波束の維持されやすさ」の度合いは、質量をパラメータとして連続的につながっている。古典力学は、波束の大きさを無視できる極限を、粒子の運動として記述する。量子力学は、波動関数の力学を、その極限も含めて包括的に記述できる(原理的には)。

以上、我ながら教育的な内容になったと思う。自分も、学部時代に量子力学を本格的に学び始めたときに、この辺の説明が欲しかった。本当に、古典論とどうつながるのかさっぱりイメージできなかったので。。

今回は、無限井戸型ポテンシャルに置かれた波束の運動で考えたが、まったく同じ論法で、他のポテンシャルの場合にも応用可能である(ただし、必ずガウシアン的な形状の波束を作れるとは限らない)。調和振動子のポテンシャルでも、古典論的に調和振動で往復運動する波束の時間発展を導出することができる(後から知ったが、シッフの量子力学の教科書に、その厳密解?が紹介されているようである)。また、クーロン型の引力ポテンシャルの場合でも、古典論的な楕円軌道で周回する波束を導出できるはずである(3次元なので計算は面倒そうだが)。

このように、量子力学の適用範囲はミクロからマクロまでシームレスにつながるわけだが、身の回りで、量子論的に振舞う物理現象を直接見る機会がないのは、結局のところ、プランク定数$${\hbar}$$があまりにも小さすぎるからに他ならない。また、自然の階層構造として、原子くらいのミクロなスケールと、人間が直接見るマクロなスケールの中間にあるような構造物が存在しないことも、量子論と古典論が分断して見える原因であろう。20世紀初頭、この直接見えないミクロな現象を相手にして、手探りで量子力学を建設した先人たちの凄みを、改めて認識するものである。

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