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真冬の夜に活動するゴミムシ

甲虫は成虫で越冬する種が多いが、その休眠の深さは様々である。冬場であっても、暖かい日の日中にナナホシテントウが気紛れに活動しているのを見かけることがあるが、夜行性の種が冬季の夜間に活動するのを観察した例は少ないのではないだろうか。私は、2024 年1 ~2月の夜間に神奈川県内で調査を行い、17種のゴミムシ類が地表に出て活動しているのを確認した。このような生態はあまり知られてないと思うので、簡単に紹介する。

調査方法は簡単で、散歩がてら、夜間にライトで地表を照らして歩き回るだけである。ゴミムシ類がいれば、体表のツヤで光って見えるので、体長数ミリの小型種でも容易に見つけることができる。今回は、活動している個体の発見が目的だったので、わざわざ落ち葉をかき分けたりする必要もない。

見つかったゴミムシ類は、以下の17種である。

ウスアカクロゴモクムシHarpalus sinicus
ヒメツヤゴモクムシTrichotichnus congruus
ヒコサンツヤゴモクムシTrichotichnus noctuabundus
コクロヒメゴモクムシBradycellus subditus
キベリチビゴモクムシDicheirotrichus tenuimanus
キクビアオアトキリゴミムシLachnolebia cribricollis
キンモリヒラタゴミムシAgonum sylphis
アオグロヒラタゴミムシAgonum chalcomum
トックリナガゴミムシPterostichus haptoderoides
コガシラナガゴミムシPterostichus microcephalus
ニッコウヒメナガゴミムシPterostichus polygenus
オオクロツヤヒラタゴミムシSynuchus nitidus
マルガタゴミムシAmara chalcites
キアシマルガタゴミムシAmara ampliata
コマルガタゴミムシAmara simplicidens
ナガマルガタゴミムシAmara macronota
コアオマルガタゴミムシAmara chalcophaea

ゴミムシ類以外の甲虫では、
クロサビイロマルズオオハネカクシOcypus lewisius
コスナゴミムシダマシGonocephalum coriaceum
が見つかった。

甲虫が多く発見できたのは、河川敷の砂利道や、丘陵地や農地の車道脇、公園の芝地等、人の手が入りやすく攪乱が多い環境であった。下手に森林に踏み込んでみても、林床ではまったく見つからなかった。

以下、生態写真。

個体数が特に多かったのは、マルガタゴミムシ類である。場所を問わずよく見つかった。

ナガマルガタゴミムシ 河川敷の砂利道にて
マルガタゴミムシ 小川の土手にて

ヒメツヤゴモクムシもよく見つかった。同属のヒコサンツヤゴモクムシもいたが、局所的。

ヒメツヤゴモクムシ 丘陵地の車道脇にて
ヒコサンツヤゴモクムシ
丘陵地の車道脇の法面にたくさんいた。

アオグロヒラタゴミムシは、湿地や川の水際など、湿った場所に多数見られた。

アオグロヒラタゴミムシ 小川沿いの砂利道の水溜まりにて

キンモリヒラタゴミムシは、丘陵地の湧水流脇で局所的に多数見られた。

キンモリヒラタゴミムシ 丘陵地の湧水流脇にて

美麗なキクビアオアトキリゴミムシは、2月に入ってから、河川敷で見つかった。個体数は少ない。

キクビアオアトキリゴミムシ 河川敷の砂利道脇の草地にいた。

他、河川敷や丘陵地道路脇でよく見られたのが、ハネカクシ大型種のクロサビイロマルズオオハネカクシ。

クロサビイロマルズオオハネカクシ 丘陵地の道路脇にて

他、種は不明だが、ジョウカイボン科の幼虫が芝地でよく見られた。

ジョウカイボン科の幼虫 小川沿いの土手の芝地にて

以上、いろいろ見つかったのだが、真冬の夜間に一体何のために出て来ているのか、さっぱり分からないのだ。ほとんどの個体は明らかに寒すぎて動けない感じで、撮影のためにカメラのライトを間近で当てても無反応だった。

また、出て来ている種が、その場所生息しているゴミムシ類のファウナをまんべんなく反映しているわけではなく、種によってこのような生態のあり/なしがはっきりしているようである。例えば、相模川の河原では、ノグチアオゴミムシやカワチマルクビゴミムシ、ヒメキベリアオゴミムシ等が高密度に生息しているが、今回の調査ではまったく見つからなかったし、オサムシ類やアオゴミムシ類等の、土中や朽木の中に越冬室を作って休眠する種もまったく見られなかった。

とにかく分かったのは、冬季に休眠の浅い種がいる、ということである。これ以上掘り下げて調べるネタがなさそうなのが、ちょっと残念。あえて挙げると、今回見つかった種でも、積雪のあるような地域では、真冬の夜間にわざわざ出て来ることは当然ないだろうし、越冬室を作るか否かなど、同種間の越冬行動の地域差を調べると、面白いかもしれない。

本稿の詳細については、以下をご参照。今回見つかったのは普通種ばかりだが、同定は簡単ではなく、一部の種では交尾器の内袋も観察しました。

齋藤孝明, 2024. 真冬の夜間に活動する地表性甲虫 (主にオサムシ科ゴミムシ類). 神奈川虫報, (213): 15-20.

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