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感想;怪異短歌集ー百物語ー 小柳とかげ
小柳さんの怪異短歌集シリーズは、私が文学フリマへ行く目的のひとつだ。
無印の1と弐、今回の百物語を並べてみると62首、78首、101首と少しづつ増えている。遊び紙と綴じ紐の色を揃えているのもいい。
そのなかで気に入った短歌を、感じた情景とともに紹介する。
小三で作った神様見に行けば祭壇ができ新たな供物
2p
一番最初に読むうたで、世界観が浮かび出てくるのがいい。
多分拝む対象はなんでもよくて、誰かが熱心にそれっぽい神様に神頼みをして、それが何かの拍子で叶ってしまったとき、神様の環境はグレードアップしていく。
車すら通らない夜 ポストから「おーいおーい」と呼ぶ声がして
11p
郵便物の減りかたは顕著だけど、ポストは意外と残っていたりする。こんなところにあるポスト、誰が使っているんだろう?と思うような設置場所でも。
ポストはなかが空洞で、多分ポストの口から声がする。近づいてはいけないし、ポストの口に手を入れるなどもってのほか。
最大の書店の奥までたどり着く デタラメな表紙と言語の空間
18p
本屋は本を種類ごとに並べている。文芸書、実用書、ビジネス書、児童書、専門書などだ。本好きは本を眺めるのが好きだ。どんなマイナーな棚にも、それを必要としている人がいると思うと、タイトルを読んでいるだけでも楽しい。そんなふうに迷い込んだ最奥の棚は、異世界だった。この迷い込んだ本好きは元の世界に戻れたのかな?
カタツムリ踏みつけてから紫陽花が目玉の集合体に見える
24p
この紫陽花はハイドランジアと呼ばれる種類だと思った。紫陽花は、花びらのように見える部分はガクが発達したもので「装飾花」と呼ばれている。
このうたの目玉の部分が、装飾花のことなのかその根元のぽちっとしたところなのか、それを問うのはきっと些末なことなのかもしれない。
カタツムリを踏んだそのすぐ傍に紫陽花があった。自分の悪事を紫陽花だけが見ていた。うっかり踏んだにしろ故意に踏んだにしろ、心の底にある罪悪感が手毬サイズの紫陽花を目玉の集合体に見せる。
フォルダーに知らない写真がいくつもある 消しても湧いてくる湖
31p
スマホの写真同期のことだと思う。同期を解除しても写真はいつの間にか現れ、やがて他の写真をも湖に変えていく。削除しても削除しても際限なく増えていく湖が伝えるものは。
本日のスキマバイトは九時二分、ある交差点の写真を撮るだけ
39p
ねえ、これって「喧騒を吸い取るように黒いものスクランブル交差点に立つ」(22p)の交差点じゃない?違う?あ、そう。
嘘つきのあの子の舌が抜かれたよお地蔵さんに鋏をあげる
46p
たぶん悪意のある嘘をつかれて、それを広められたんだ、なんべんも。みんなにその嘘を信じられて辛かった。そのたびにお地蔵様にお願いをしたんだね。お地蔵さまは子どもを守る仏様だから、あなたのやったことをきっと許してくれると思うよ。その血に塗れた鋏を見ても。
この本を閉じたそのとき耳元で「帰りましょう」と声が聞こえる
奥付
この短歌の街は私の住んでいるところではない。でも……本当にそうかな?これらのことがないって本当に言い切れるのかしら?