胡桃堂喫茶店のスプーン
3週間前の週末、東京・国分寺の胡桃堂喫茶店を訪ねた。
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数年前に読んだ、店主・影山知明さんの『ゆっくり、いそげ』。
当時、僕は、当たり前のように進んでいく社会の「あり方」や「成り立ち」に疑問を感じていた。
影山さんの著者を読み、長らく抱えていた違和感がゆっくりと氷解するような気がした。影山さんの言葉に、ずいぶんと勇気づけられたのを今でも憶えている。
例えば『続・ゆっくり、いそげ』には、こんなことが書かれている。
誤解を招きそうなので補足するが、影山さんは「事業計画を作るのは悪だ」と言いたいわけではない。
「緻密に未来を計画するのでなく、偶発性を受け入れる余白をつくろう」というメッセージだと僕は解釈している。
働いていれば、数字の呪縛からは逃れられない。
何かを達成できる、達成できないの狭間で、社会や会社の評価はまあまあ変わっていく。そのことで動揺してしまうのは、何とも不思議なのだけど、それが「組織に所属する」宿命なのかもしれない。
しかし影山さんは、そのような評価軸を捨てている
「成果を先に定義せず、その過程に注力する」という言葉通り、せっせと客商売に励んでいるのだ。(実際僕が胡桃堂喫茶店を訪ねたとき、影山さんも接客を行なっていた)
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さて、今日は、お店を訪ねたときのことを。
昼前に胡桃堂喫茶店に入った。先に食事を済ませていたのでコーヒーだけを注文する。(リサーチ不足だったが、胡桃堂喫茶店には季節ごとに食事のメニューを用意している。ちらし寿司、とても美味しそうだった……)
仕事や執筆などに取り組んでいたら、あっという間に16時半になっていた。
コーヒー2杯で、ずいぶんと長居させてもらったなあと後ろめたさも感じつつ、贅沢な時間に満足していた。
*
帰り支度を始めているとき、ふと器が目に入った。
とても良い器だ。口当たりも良く、なめらかにコーヒーが喉を通っていった。重厚すぎない作り。手触りの感覚も僕の好みだった。
ついでに、添えてあった小ぶりのスプーンには触れてみる。驚いた。
はっきりとした重み。人間の指をぴたっと受け止めるようなフィット感に、触り心地。
このスプーンは、客の一挙手一投足が計算されて設計されているのではないか。その上、気品があって、自然な佇まいだ。
僕は、コーヒーに砂糖もミルクも入れない。同じように、多くの客がスプーンの存在を素通りするはずだ。こんなに良いスプーンがあるというのに、客は気付かない。
でも、胡桃堂喫茶店は「それで良い」と思っているに違いない。客が気付かなくても、お金と手間をかけるという判断を下している。
店の真髄は、こんなところに現れるのだ。
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僕自身も、そうでありたい。
良い店を訪ねると、背筋がしゃんと伸びる。
スターバックスもタリーズコーヒーも大好きだけれど、ときどきは、胡桃堂喫茶店のような素晴らしい店に足を運ぶようにしたい。
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