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編…パウル・クリストフ 訳…藤川芳朗『マリー・アントワネットとマリア・テレジア 秘密の往復書簡』
母娘がやり取りした手紙の内容をまとめた本。
もしも、マリー・アントワネットが別の男性の元へ嫁いでいたなら。
もしも、フランスへ嫁いだのが別の姉妹であったなら。
ページを捲る度、そうした「もしも」を想像せずにはいられなくなる本です。
母であるマリア・テレジアへ宛てた手紙から感じ取れるマリー・アントワネットの気質は、上流階級に生まれたが故に何の悪気もなくスクスク育ったお嬢さん。
こんな運命を背負って気の毒に…と嘆かずにはいられないほど、天真爛漫。
久しぶりに母と会えるかもしれないと知った時は、あくまで会える可能性があるというだけなのに、大輪の花がパッと咲いたかのように喜びを表します。
妊娠しづらくなってしまうから乗馬はやめなさいと諭されても「乗っていません」と嘘をついて狩りにも参加。
本を読みなさいと言われても読みません。
好奇心から陰謀や賭け事に染まり、ローンを組んでまで装飾品を買ってしまいます。
「熟慮や反省をしない」と兄であるヨーゼフ2世が言った通り、あんまり物事を深く考えない性格だったよう。
良くも悪くも気にしない。
きっと何とかなるわ、と楽観的。
ですが、この手紙のやり取りを読んでいると、嫌いになれないなあと思うのです。
本人に悪気はないのですから。
それに、全く何も考えていないわけでもありません。
一番大切なことは、民びとにたいしてお手本を示すことです。パンの値段が上がってたいそう苦しんでいるからです。でも、うれしいことにまた希望が湧いてきました。麦の育ち具合がとても順調だったものですから、収穫のあとはパンの値下がりが見込まれているのです(1775年7月14日の手紙)
とも書いているのです。
上流の生まれ故に、あまりにも世界が違い過ぎて、民の苦しみを実感出来ないとはいえ、完全に無視していたわけではないのです。
自分が誰かに憎まれているなんて思いもよらないほど、無垢だった。
最悪の展開を予想して警告する母と兄。
そして、内心どう思っていたかは分からないけれど、おそらく母と兄を心配させまいとして、「大丈夫よ」と明るく振る舞う娘。
その決定的なズレが悲しい。
〈こういう方におすすめ〉
マリー・アントワネットの人物像に関心があり、参考資料を探している方。
〈読書所要時間の目安〉
3時間くらい。
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