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著…谷川俊太郎『詩の本』
冒頭の『いまここにいないあなたへ』という詩の一文目から、グッと惹き込まれます。
いまここにいない あなた
でもいまそこにいる あなた
たとえすがたはみえなくても
「あなた」はこの世のどこかにいるのでしょうか?
それとも「あなた」は死の世界にいるのでしょうか?
詩ってなんて美しいのでしょう。
短い言葉なのに、想像を豊かに膨らませてくれて。
大切な「あなた」を自由に想い描くことが出来ます。
この本は、こうした死の気配をも漂わせる作品をまとめた詩集です。
また、『よく似たふたり』という詩の、
いちばんの金持は眠ってばかりいた
いちばんの貧乏人も眠ってばかりいた
ふたりとも夢は見なかった
ふたりとも裸の体に汗ひとつかかなかった
という一節にもハッとさせられます。
対極の存在と思しきふたりに共通点があるなんて…。
この一節も想像力を掻き立てますよね。
一番お金持ちな人も、一番貧乏な人も、眠ってばかりいるのはどうして?
働かなくても衣食住に困らないから?
楽しいことをやり尽くして退屈だから?
働き過ぎて疲れ果てているから?
或いは、少しばかり働いたところで生活苦が変わる期待が持てないから、自暴自棄になって眠っているのでしょうか?
それとも…。
色々考えさせられますが、わたしはもしかしたら二人とも死んでいるのかもしれないと思います。
だって、この世でたった一つ平等なことは、死だけ。
どんな人にも必ず死が訪れます。
お金持ちな人にも、貧乏な人にも。
そういう点では誰もが似ていますから。
しかし、死によって全てが消え失せるから何もかもが虚しいかといえば、決してそうではありません。
『いなくならない』という詩には、
私から触れることはできないとしても
あなたは今も私に触れてくる
という一節があります。
誰も死を免れることは出来ない。
けれど、体が死んだからって、完全にいなくなるわけじゃない。
死してなお、大切な誰かに寄り添うことは出来る。
そう気づかせてくれる詩です。
なんて美しい…。
〈こういう方におすすめ〉
イマジネーション豊かな詩集をお探しの方。
〈読書所要時間の目安〉
2時間半くらい。
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