文…アストリッド・リンドグレーン 絵…ハンス・アーノルド 訳…石井登志子『ひみつのいもうと』
奇妙で、不思議で、でも切ない絵本。
※注意
以下の文は、結末までは明かしませんが、ネタバレを含みます。
この絵本の主人公は、バーブロという名前の女の子。
バーブロには双子の妹がいます。
名前はイルヴァ・リー。
でも、イルヴァ・リーの存在を、お父さんもお母さんも知りません。
お父さんはお母さんのことが一番好き。
お母さんはこの春生まれたばかりのバーブロの弟のことが一番好き。
イルヴァ・リーはバーブロのことだけが一番好き。
「だいすきなおねえちゃん!」と呼んでくれる、たった一人の存在なのです。
ある日の朝早く、バーブロはイルヴァ・リーと会うため、薔薇の茂みの下の穴の中へ下りていきました。
まるで、『不思議の国のアリス』で、アリスが白ウサギを追いかけて穴を落ちていくみたいに…。
その穴の中にはイルヴァ・リーがいて、バーブロをにっこり笑って迎え入れてくれました。
二人はその世界の不思議な住人たちと共に楽しく過ごします。
ずーっとずーっと続いて欲しいくらい幸せな時間です。
けれど突然、イルヴァ・リーはバーブロに別れを告げます。
イルヴァ・リーはバーブロを地上へ帰るドアまで送ってくれて、二人はお別れにぎゅっと抱き合います。
「またすぐにあいにきてね、だいすきなおねえちゃん」というイルヴァ・リーの声を聞きながら、バーブロは地上へ帰っていきます。
地上へ帰ると、真っ青な顔色をしたお母さんが「だいすきなバーブロ。どこにいってたの? 一日じゅう、いったいどこにいたの?」と泣きながら尋ねました。
続きが気になる方は、是非この絵本を読んで確かめてみてください。
この記事を読んでくださった方の中にも、「子どもの頃、誰も信じてくれなかったけど、自分にしか見えない友達(又はきょうだい)がそばにいてくれた」という方がいるのではないでしょうか?
この絵本のバーブロの弟も、大きくなればそのうちバーブロを「だいすきなおねえちゃん!」と呼ぶようになるかもしれません。
バーブロも、成長するにつれてイルヴァ・リーや不思議な世界の住人たちのことを忘れてしまうかもしれません。
本当は忘れたくないですよね…。
けれどきっと、幼い日の美しい日々は、指の隙間からこぼれ落ちる砂のようにいつかは必ず失われてしまいます。
…イルヴァ・リーの、「またすぐに会いに来てね」という言葉がとても切ないです。
もしかしたら…、イルヴァ・リーはバーブロがバーブロのためだけに作り出した架空の存在というよりも、神様に近い存在なのかもしれない、とわたしは思えてなりません。
まだまだ自分だって幼くて、親からの愛を独占したいのに、弟や妹が生まれたことで「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」として我慢をしなければならない子どものために、他の人には見えない秘密の友達やきょうだいになってくれる…そんな優しい神様。
神様だってその子のことが大好きなのに、その子が成長したら、そっと見送ってあげなければなりません。
その子がいつかは大人になれるように…。
でも、お別れだと分かっていても、イルヴァ・リーは「またすぐに会いに来てね」と言わずにはいられなかったのかもしれません。
…そんな想像をしながらこの絵本を読んだら、とても切なくなりました。
〈こういう方におすすめ〉
子どもの頃、目に見えない友達(またはきょうだい)がいた方。
〈読書所要時間の目安〉
1時間前後。