著…工藤極『陛下、お味はいかがでしょう。「天皇の料理番」の絵日記』
かつて宮内庁大膳課で洋食の調理を担当していた方の本。
例えば、昭和天皇陛下のご朝食は一年を通して洋食で、定番の四種類が決まっており、トースト、オートミールもしくはコーンフレーク、サラダと温野菜、飲み物は紅茶・コーヒー・ジュースだった、といったことなどが絵付きで紹介されています。
やんごとなき方々も普通の人間と同じようなメニューをご朝食として召し上がっていたのだなと分かり、わたしはなんだか嬉しくなりました。
今となっては当たり前ですが、神様ではなく「人間」なのだなということがわかります。
勿論、選び抜かれた食材を選び抜かれた料理人が調理しているわけで、一般人の朝食とは全然違うでしょうけれど…。
また、この本には他にも「オモテ(事務方)」と「オク(天皇陛下をはじめ皇族方を直接お世話する侍従職。東宮職)」のエピソードや、天皇陛下が召し上がるようなお料理に似たものを家庭で再現するためのレシピなども紹介されていて興味深いです。
わたしが特に驚いたのは、P143〜146で紹介されているエピソード!
現在の上皇陛下がまだ皇太子殿下だった頃、ご家族と共に葉山御用邸のすぐ前の一色海岸にお出かけになった時のこと。
ご一家は東宮侍従のAさんと共に手漕ぎボートに乗って、海で楽しく遊んでいたそうです。
沖では海上保安庁の船が厳重な警備をしており、皇宮護衛官ら側衛も他の手漕ぎボートに乗り、ご一家を水難事故からお守りしていたのですが…、Aさんが海に落ちました。
Aさんはカナヅチ!
溺れるAさんを見て、なんと皇太子殿下みずからが海にお入りになってAさんをボートに助け上げようとされたそうです!
Aさんは、救助のため近づいてきた皇太子殿下にしがみつきました。
溺れる人に近づくとこうなりがちなので、Aさんは悪くないのですが、衝撃的ですよね。
幸い、護衛官も駆けつけ、Aさんは無事救助され、皇太子殿下はびしょ濡れになりながらもにこやかにされていたとのこと。
…凄い!
世の中、困っている人に気付いても、「周りに人が沢山いるんだから、わざわざ自分が助けなくてもいい。誰かが助けるだろう」と遠巻きに見るだけの人もいるでしょう。
「自分は責任ある立場だから自分に何かあっては大変だ。関わり合いにならないでいよう」とそそくさと逃げていく人も多いでしょう。
お立場から考えると他の誰かに救助を依頼しても良かったでしょう。
なのに、なんと自ら真っ先に救助に向かわれるとは!
溺れている人を救助するのは一緒に溺れる可能性もあるため非常に危険ですが、きっととっさにお体が動かれたのでしょう。
下手をしたら誰かが「死んでお詫びを」なんてことにもなりかねませんが、幸い、そうはならなかった様子。
わたしも人として少しでも善い行いが出来るように、及ばずながら努力したいです…。
〈こういう方におすすめ〉
皇室の方がどんなお料理を召し上がっているのか興味がある方。
〈読書所要時間の目安〉
2時間〜3時間前後くらい。