著…スティーブン・キング 訳…芝山幹郎『不眠症 (下)』
葛藤の中でも自分なりの答えを出すことの大切さを教えてくれる小説。
※注意
以下の文は、結末に関するネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
70歳の男性・ラルフは、オーラを見ることが出来るだけでなく、オーラを操ることが出来るという特別な力を得させられてしまいました。
望んでいたわけではないのです。
人間とは違うレベルの世界に棲む「ロングタイマー」という存在が、勝手にその力を与えたのですから(ちなみに人間は「ショートタイマー」と呼ばれています)。
ラルフに拒否権はありませんでした。
ラルフは自分がわずかな睡眠時間しか必要としないことに気づき、オーラが見えることに気づき、オーラを操れることに気づき、そして自分の姿が若返っていくことにも気づきました。
実年齢は70歳のはずなのに、まるで50台の男性のよう。
一見、素晴らしい力を手に入れたかのように思えますが、ラルフは悩みました。
だって、この力のせいで、人に黒い死のオーラがまとわりついているところまで見えてしまうのですから…。
ラルフは友人・ロイスも同じ力を得させられていることを知り、「自分しか分からない孤独に悩むこと」からは救われました。
しかし。
力は強くなる一方なのに、誰かの死を予測することは出来ても、その死を回避することは出来ません。
何もしてあげられないのって辛いですよね…。
それでも、「ロングタイマー」はラルフの気持ちなどお構いなしに、「ショートタイマーの世界を救え」と言い出しました。
ラルフは叫びます。
「なぜおれのことをほっといてくれなかったんだ!」
と。
普通に生活して、普通に老いて、普通に人の死を悲しんで、世の中の真理など何も知らずに普通に死んでいく人生を奪われたのです。
ラルフは叫びます。
ロングタイマーにとっては、ショートタイマーである自分の都合など、取るに足らないのかもしれない。
自分の都合よりも世界の安全を優先しろと平気で言うのだろう。
でも、俺は普通でいたかった。
…と。
それでも、ラルフは人柄が良いため、悩みながらも人助けのために尽力します。
この力を持ったおかげでロイスと言葉なしで分かり合えるようになった、ということに幸せも感じました。
特別なことが出来るようになったということに、少なからず優越感も感じました。
けれど、ラルフは悩み続けます。
ロングタイマーにとって大切な何人かのショートタイマーのために、他のショートタイマーたちが犠牲になるという惨状も目の当たりにしましたから…。
ラルフは結局、ロングタイマーにとってではなく、ショートタイマーである自分にとって一番身近な幼い命・ナタリーを守るために死んでいきます。
ラルフは望まない運命を背負わされながらも、この力の一番の使いみちを見つけ、自分なりの答えを出したのですね…。
〈こういう方におすすめ〉
理不尽な世の中でも、自分なりにどう生きてどう死にたいか模索している方。
〈読書所要時間の目安〉
3時間くらい。