沁みる
気分転換も兼ねて、家の大掃除をしていたら、昔使っていたショルダーバッグが発掘された。
元は黒一色だったが、所々が擦り切れて灰色になり、濃淡が生まれている。バッグの中身を確認すると、藍色の袋が入っていた。
袋に包まれていたのは、一冊の本。『池井昌樹詩集』(角川春樹事務所)。一度再読したくて、本棚周辺を捜索したが見つからず、泣く泣く「行方不明」認定した本だった。
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発掘されたバッグは、短期労働の現場に向かうときに、よく使用していた。つまり、その中に入れる本というのは、労働の行き帰りに読む用、ということになる。
レシートが挟まっていたページを開いて見ると、ちょうど私の好きな詩が載っていた。一部引用してみる。
当時、沁みたんだよなぁ、と初めて読んだときのことを思い出す。短期労働終わりの疲れた身体を引きずって、近場の麺類の店に入り、よく腹を満たしていたから、この文章を我が事のように受け取ったのを覚えている。
今読み返せば、数年前の私は「先祖のとおいだれか」に思いを馳せてはおらず、泣きながら「さいごのつゆまでのみほして」はいない。それなのに当時は、この詩を強い共感をもって読んだ。
短期労働に対しては、心身共に擦り切れて、ぼろぼろになった思い出しかないが、そういう状況にいるからこそ、より深く味わえる本があったことだけは、忘れずに憶えておきたい。
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