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二択
列に並んで、待たされる店は好きではない。列ができるくらいだ、美味いのだろう。ただ、待ち時間の体力消耗(マイナス)を、その先の食事で補塡(プラス)する流れは、好きではない。これでは、プラマイゼロではないか。
……といった内容のことを、先日、食事に誘ってきた友人に対し送った。その返事は、「まあまあ、とりあえず行こう!」である。結局、行列のできる店に行くことになった。
*
列に並んでいる時、試されるのは、いかにこの時間を快適に潰すか、という一点である。友人と私は、ひたすら喋り続けた。
具体的な話題が尽きてくると、内容がどんどん抽象的になっていく。あと二、三組で自分たちの番がやってくるというフェーズになって、友人が振ってきた話題は「正直ものはバカを見るか」であった。
時と場合による、と答えると、つまらな、と言われてしまう。
強いて選ぶなら? と訊かれたので、正直に生きる方がいいでしょ、と答えると、俺もそう思う、との相槌。話を盛り上げるなら、噓でもいいから「正直ものがバカを見るのは、当然でしょ」ぐらい言って欲しかった。
自分たちの番が来て、飯を食い始めてからも、この「正直ものはバカを見るか」話はしばらく続いた。
「一週間ぐらい前かな、『ロシア民話集』って本を読んだんだけど」と友人が本の話を始める。曰く、この本には「正直と噓」という話が収録されており、その中で「正直に暮らすのがいいか、噓をつきながら暮らすのがいいか」をめぐって、二人の男が言い争いをするのだという。
決着はどうつけるか。ひたすら、周辺の村人に訊ねてまわるらしい。男二人は勝敗に金を賭けていることもあり、必死だ。
気になるのは、村人の反応である。
「訊くまでもないことだ。噓がいいにきまっている。噓は革靴をはいているのに、正直はわらじをはいている」
(アファナーシエフ編、中村喜和編訳『ロシア民話集(上)』岩波文庫、P128)
面白いのは、村人の誰に訊ねても、上記のような答えが返ってきたという点だ。皆が皆、噓を持ち上げ、正直ものを否定する。
さすが、民話。設定が極端すぎる。こうなると、大体エンディングも予想できる。
「そういう話って、結局最後は正直ものが報われるんだよなー」とぼやくと、友人も「そうなんだよなー」と共感してくれた。
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