【青熊書店】青森と熊本の魅力がぎゅっと詰まった4坪の空間(自由が丘)|本の棲むところ(8)
「青熊書店」は、熊本県出身の岡村フサ子さんが夫で青森県出身の岡村豊彦さんと営む、たった4坪の独立書店。その名が示す通り、「青森」と「熊本」にちなんだ本や雑貨が充実している。
場所は自由が丘駅から歩いて5分、3つの店舗が入居するチャレンジショップ「創の実」内にある。創の実とは若者や女性向けに起業を支援する東京都中小企業振興公社が提供するプログラムで、支援には最長1年間という期限が設けられている。
「熊本がずっと大好きで、じつは上京したのも、熊本の魅力をもっと全国に広めたいと思ったからなんです」
東京の大学を卒業後、地元のタウン誌などで熊本の魅力を発信してきたフサ子さんは2008年に再び上京、編集工学を学ぶ学校で夫の豊彦さんと出会う。編集プロダクションに勤める傍ら、熊本の魅力を発信する活動を地道に続けていたが、書店を開くという発想はまだなかった。
そんなフサ子さんに、本屋への道を進むきっかけを与えてくれたのが、2022年3月、神保町にオープンした共同書店「PASSAGE by ALL REVIEWS」だった。夫婦で話し合い、青森と熊本をテーマにした棚をつくろうと決めた。
「私も夫も地元のことが大好きだし、日本の北と南の端っこから来たふたりが、真ん中の東京でお互いの地元の本を並べたら面白いんじゃないかと思って」
その後、メディアでPASSAGEが紹介されると、個性的な棚主としてたびたび取り上げられた。また、屋号に動物の名前が入った棚主が集まる「どうぶつ会議」のメンバーたちと、共同で催すフェアなどを通じて親交を深めていった。
「PASSAGEの棚主になっていちばん強く感じたのは、“場”の持つ力でした。たった一棚でもリアルな場を持つことで、遠くからわざわざ訪ねてきてくれる人がいる。本を扉にして、人と街がつながっていくのを実感したんです」
太宰治や寺山修司、夏目漱石の本が若い人たちにも買われていく。こうした不朽の名作とともに、「青森や熊本のことを知ってもらうきっかけを作れているのは嬉しい」と語る。
そんな経験を得て、フサ子さんは自分たちの本屋を持ちたいと願うようになった。夫の豊彦さんも冷静に背中を押してくれたと言う。
本屋になる修行を積むため、昨年1月に編集プロダクションを退職。PASSAGEのカフェ部門「PASSAGE bis!」と、2号店のオープニングスタッフを募集していた神保町の古書店「アットワンダーJG」で働き始めた。そこから約1年の修行を経て、今回の開業に至る。
「アットワンダーの鈴木宏社長には書店運営のノウハウを事細かに教えていただき、PASSAGEの由井緑郎社長にも開業のアドバイスをたくさんいただきました」と感謝の想いは尽きない。
また出店する直前には、PASSAGEで交流を重ねてきた棚主たちも続々と応援に駆けつけてくれた。
「本棚を組み立ててくれたり、木製の什器にやすりをかけてくれたり、皆さんの力をお借りしてなんとか開業に漕ぎつけました」
「今後は読書会などのイベントや、本にまつわる革小物をつくるワークショップなども開いていきたい」とフサ子さんは意気込みを語る。
冒頭にも触れた通り、都の支援には期限があるため、1年後にはこの場所を出ていくことになる。しかしどこで再出発するにせよ、故郷の素晴らしさを広めたいと願う岡村夫妻の放つポジティブな熱気は、これからも多くの人の心を惹きつけ、頼もしい仲間を増やしていくに違いない。
取材・執筆=飯尾佳央
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