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有栖川有栖/虹果て村の秘密

純文学以外に好きなジャンルが2つある。

1つは、"青春ミステリ(ジュブナイル・ミステリ)"
もう1つは、"百鬼夜行(日本の昔話のようで少し不思議な小説)"
だ。
特に2つめが曖昧な表現になったので、具体的に好きな作家や作品を例として挙げさせていただくと、
"青春ミステリ(ジュブナイル・ミステリ)"
恩田陸
『六番目の小夜子』
『ネバーランド』
『黄昏の百合の骨』
『麦の海に沈む果実』
辻村深月
『冷たい校舎の時は止まる』
『名前探しの放課後』
など、

"百鬼夜行(日本の昔話のようで少し不思議な小説)"
今市子(漫画家)
『百鬼夜行抄』
梨木香歩
『家守綺譚』
などがある。

今回は、この1つめの、"青春ミステリ(ジュブナイル・ミステリ)"の枠に、新たに好きな作品が加わったので紹介させていただきたい。

タイトルにもある、有栖川有栖『虹果て村の秘密』だ。

私にとって、人との出会いと本との出会いはイコールだ

私の趣味はかなり偏っている。相当狭い範囲で読んでいる。

話題になっても、興味がない類なら見向きもしない。

東野圭吾についても昨年、当時気になっていた男子に借りることで初めて読んだ。

そう、私の読書の幅が広がるとき、それは、人と出会った時である。

興味ある相手の読むものなら、知りたい。

この人が読んでいるなら読んでみたい。

頭の中を覗きたい。心の中を探りたい。

そんな焦燥に駆り立てられ初めて普段読まない類の本に手を伸ばす。

その出会いは、オンラインオフライン問わない。

一方的な認知さえも含まれる。

今回も、きっかけはブログだった。

数年前、友人から教えてもらった

単身オペア(住み込みのベビーシッター)としてフランス、のちにパリに暮らす日本人の女の子のお話。

yuki『落ち込んだりもするけど、私は元気です。』

お気づきの方もいると思うが、タイトルがまず、糸井重里氏のキャッチコピーである。
ジブリ作品である魔女の宅急便の名コピーだ。
彼女はジブリが大好きなのだ。
このセンスが私はとても好きで、他にも、文章、写真、独特のメイクや服装、オタクぶり、すべてに、"らしさ"が感じられる。

夢中になって全記事4周は既に読破している。

そんな彼女も有栖川有栖が好きで、度々ブログにも登場する。

いくつか好きな記事を抜粋して掲載させていただく。

久しぶりに読み返したが、やはり今も色褪せない。
(全画像飛べる)

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今年は特に、ブログ、Twitter、noteを通じて、たくさんの本に出会った。

2020年、誰も予測しなかった、この状況だからである、というのは理由として大きい。

虹果て村の秘密

こうして、出会った有栖川有栖。

どの作品を読もうかな、と探していた時に、Twitterで交流のある方が、やはり有栖川有栖をオススメされていてタイムライン上に流れてきた。

『虹果て村の秘密』

気になった。

いかにもミステリ。
だけど何だか幻想的で夢がある、そんなタイトルだ。

これが、〈かつて子どもだったあなたと少年少女のためのミステリーランド〉という叢書のために書かれた著者初のジュブナイル・ミステリであること、本格ミステリ入門書になっているということについては、後から知る。

"なんとなく気になる"から始まるジャケ買い、タイトル買いも、たまにしてみると楽しい。

本書は、刑事を親に持ち推理作家を目指す十二歳の秀くんと、売れっ子推理作家・二宮ミサトを母に持ち将来は刑事になりたい同級生のユーが事件を解決していく話である。

虹果て村には、虹の言い伝えがある。

虹の向こうに太陽が出たら村に不吉なことがある。
朝に虹を見たらその日はいいことがある。
夜に虹が出たら人が死ぬ。
消えてしまうまで虹を見ていたら大切な願いがかなわない。
明神池に映る虹に二人でかけた願いはかなう。
完全に七色の虹を見たらすべての願いがかなう。
虹のたもとには財宝が埋まっている。

これらはには全て理由があり、それらはどこか教訓めいている。

この小説自体、全体に、少年少女へのメッセージが詰まっているのだ。

それは、かつてこどもだった私の琴線にも触れる。

著者自身が伝えたい想いを登場人物のセリフに乗せているのだろう。

特に、下記の問答が好きだ。

大人にだって、わからないことはいっぱいある。ものすごくたくさんあるの。そういう問題はどうしたらいいと思う?ここまではわかる、というところまで考えて、ここまではできる、ということを実行したら、あとは未来の大人に任せるしか方法はない。つまり今はまだ子供のあなたたちが解決するのよ
もしかしたら、それって、問題の先送りっていうやつ?
ううん、だいぶちがう。できることをぐずぐずしてやらないのは先送りだけど、できないんだもの。子供は「勝手だよ。いい迷惑だ」と思うだろうけど、これは順送りなのね。あなたたちも大人になったら、きっとあとの世代に託す問題を抱えるわ。だから、おあいこ。世界中どこでも、いつの時代でも、大人は子供にこっそりあやまっている。「こんなことが解決できなかった。ごめんよ。あとはたのんだ。」って。でも同時にこうも思っている。「怒らないでほしい。君たちが子供のうちに解決させた問題もあるんだよ」それが永久にくり返されるのよ。人間がこの星に生きているかぎり
私は大人になりたてで、まだ何もできていないけれど、子供たちに『ごめんね』とあやまるだけの大人にはならないようにしたい。「ごめんね。でも、これはやったよ」と言えなくっちゃ、生きてた値打ちがないもの。と言うより、カッコ悪すぎるじゃない。ね?

環境問題だけではない。政治や戦争、経済、人種差別、ウィルスとの戦い。

今を生きる私たち大人は一体どこまでやれるのか、精一杯出来る限りのことは全部やって引き継ぎたい、

いや、次の時代に胸を張って、「ここまではやった、あとは頼む」と繋がなければならない。

やり遂げることは、もしかしたら出来ないのかもしれない。

気が遠くなるくらい長い時間を必要とするのかもしれない。

それでも、戦わなければならないのだ。

命はリレーなのだと最近つくづく思い知らされる。

己一人のものではないのだ。ひとりひとりが大河の一滴なのだ。

終わらない夏休みのような本

青春を切り取って貼り付けたような本だ。

開けばいつでも、あの頃に戻ることが出来る。

あとがきによると、この作品の最初の読者は、有栖川有栖氏の奥様だったそうだ。奥様は、有栖氏の11歳のときのクラスメイトだそうで、当時から本の話をよくされる仲だったそうだ。

すごい、まるで秀くんとユーのようである。いや、逆か。

有栖氏が当時の気持ちを思い出しながら書いたのだろうか。

推理作家になりたくて仕方がなかった、かつて少年だった著者が綴る、やはり推理作家になりいたい男の子の視点で展開する本書。

だから、こんなにもキラキラと輝いているのだろうか。

最後は、ユーの母親であり、最後まで登場こそしないが名言botかの如く名言を吐きまくる、推理作家・二宮ミサトのセリフで〆たいと思う。

自分が好きなように書いたものを、見ず知らずの人が好きになってくれる。それは奇跡みたいなことだけど、でも、不可能じゃない。
有栖川有栖『虹果て村の秘密』

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