165. 「8年間で全員来なかった日が1日だけ」を考察する(創作大賞2022入賞作品/無料投稿)
好きな日に連絡無しで働くエビ工場、パプアニューギニア海産の武藤北斗です。
先週放送のテレビ朝日『ザワつく!金曜日』を見てくださった皆さんありがとうございました。さすが人気番組の反応は大きく、共感の声がとても励みになっております。
今回の投稿は、放送の中でも話題になったと言いますか、番組エンディングでまさしくパーソナリティがザワついた『全員がこなかった一日』について詳しく説明し、さらにそこから私が伝えたいことを深堀りしていきたいと思います。
まず、現在のフリースケジュールの状況を箇条書きで端的にご紹介します。(2021年12月17日現在)
『フリースケジュール』や『嫌いな仕事はしてはいけない』などの詳細を知りたい方はこちらを参考にして下さい。
さて、それでは『8年で一度だけあった、誰も来なかった日』を考察していきたいと思います。今回あらためてフリースケジュールの歴史をさかのぼってみたのですが、本当に少しづつ変化してきたことに私自身が驚きました。この細かな変化の連続こそがパプアニューギニア海産のスタイルです。
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■2013年6月 働き方を変えるため面談スタート
働き方を変える前は、雇用しては誰かが辞めるを繰り返すような状態でした。どうすれば従業員が働きやすい職場にできるかを探るため、1か月かけて従業員全員と個人面談を繰り返しました。当時は子育て中のママさんが多かったので、いつでも気兼ねなく休める職場にしようとフリースケジュールを思いつきました。
■2013年7月 フリースケジュールスタート
パート従業員16名、社員は私1人。最初はかなりゆるいスタートで、曜日が自由なだけで出勤日数に定めがありました。例えば月・水・金と出勤していた人は、今後は曜日は自由に選べるけど週に3日は出勤してくださいということです。勤務時間は固定されており、9時〜4時、10時〜5時など面接時に決めたものをそれぞれに適用していました。
しかし数か月後には出勤日数の定めをなくし、いつでも好きな日に出勤欠勤となりました(勤務時間は固定のまま)。
■2016年1月 初の出勤人数0人
いろいろな理由で退職する人がいたため、フリースケジュールが始まってから2年半後にはパート従業員9名となり、逆に社員は1人増えて2名となりました。しかし売上金額はほぼ横ばいで、人数が減った分の人件費が大幅に下がりました。
昔は人が入社したり退社したりを繰り返していたのですが、この期間は入社はなく単に減るだけだったのがポイントです。残る人たちの技術が上がり、何よりチームとしての力が格段に上がり効率が上がることで、少ない人数で同じ出来高を作ることができたのです。
と、そんな順調な時に初の出勤0人となりました。この時点ではまだ勤務時間は固定されていたので10時の時点で0人が確定し、ちょっとテンション高めでSNSで報告したように記憶しています。ちなみに2015年3月にはパートさんの人数が10名まで減っていましたので、こんな少ない人数でも10か月ほどは誰かが必ず出勤していたということになります。
その一日をどう対応したか等はのちほど。
■2016年8月 帰る時間を一部選べるように
初の0人から半年、やっと勤務時間に対しての改革が始まります。0人が問題という事ではなく、本当に勤務時間を縛る必要があるのだろうかという素朴な疑問が浮かびはじめたのです。まずは退勤時間を16時、16時30分、17時の中から毎日好きに選べることからスタートしました。
■2016年9月 時間も自由に
恐る恐るスタートしたわりに次のステップは1か月後、とても早くかつ大胆でした。退勤時間だけでなく出勤時間も30分刻みで自由にしたようです。お得意の『2週間だけやって、ダメなら戻しましょう』とスタートしました。
■2017年1月 休憩をほんの一部自由に
こうなると次は休憩時間を固定していることに違和感を持ち始めます。これまでは12時から45分間、15時から15分間と固定していたのですが、勤務時間が自由になったので、例えば11時にきて14時に帰る人にお昼の休憩はいらないよねということになり、4時間以内の勤務ならば休憩を取らなくてもよいというルールを作りました。
この時は勤務時間が短い時に休憩を『取るか・取らないか』の選択なので、あまり自由度はありません。
■2017年7月 休憩15分刻みで自由に
半年たってやっと休憩時間が自由になりました。でもこの時もまだ15分刻みというルールがあり、どうも以前の45分休憩する、15分休憩するという15分単位に頭が縛られているようです。
■2018年7月 2度目の出勤0人だが
時間も自由になってからもう少しで2年というところで、幻の出勤人数0人がありましたが、現在は0人だった日のカウントに入れておりません。なぜかと言いますと、この日は豪雨のため市町村によっては避難勧告が出され、小中学校は休校となっていました。あと直接関係はないのですが、2週間前には震度6弱の地震など自然災害が続いておりみんなが不安な気持ちの時期でした。
自然災害の際に出勤せよというのはおかしいのでカウントしないことにしました。
■2019年3月 出勤1分刻みで自由
これは細かいことなんですが、私はとても重要だなと思っている変更です。出勤時間が30分刻みでなく、1分刻みでOKになりました。給料計算はエクセルでやるので事務的な問題はなく、単に出社はキリがいい時間にするものと思考停止していたのだと思います。
この変更は何が良いかと言うと、30分刻みの時は例えば9時から働こうと思って家を出たけれどちょっと混んでていて9時から1分遅れただけでも9時30分まで待ってから働くことになります。本当はパートさんはすぐにでも働きたいし、会社も来てるなら働いてもらいたい。なんとこの時間がもったいないことか。それが1分刻みになることで有効利用されるようになったのです。
さらには時間がギリギリだと、自転車やバイクの運転が乱暴になるかもしれない。でも1分刻みなら常に気持ちを楽に出勤できる。精神的にも、事故を防ぐと言う意味でも大切だなと思います。
■2020年6月 休憩時間5分刻みで自由
出勤時間に触発されてか、休憩時間もさらに自由度を高め15分刻みを5分刻みにしました。1分刻みも考えたのですが、休憩する本人も管理が大変だし、やることに意味があるとは思えず5分刻みにとどめました。より自由が必ず良いという訳でもありませんね。
■2021年1月 月の出勤時間数の定めを作成
フリースケジュールを始めて7年半にして、少し厳しくなります。それまでは出勤時間や日にちに一切の定めがありませんでした。連絡なしで数か月休んでもOKだったのです。一人くらいならよかったのですが、それが数人でてきたところで問題として捉え始めました。
さすがに数か月休むと仕事の細部を忘れますし、ルールの変更などについていけなくなります。本人自身も辛いのですが、それ以上に教える従業員への負担が大きくなりました。このままでは争いが起こると判断し、月に20時間以上出勤と定めとしました。
■2021年10月 連続勤務時間を6時間まで可能に
トイレに行くことや、寒い冬などに集中して仕事をするには4時間が限度だろう、という考えで連続勤務時間を4時間までとしていました。しかし、それは個人によって違うよねという話になり変更。国が定める6時間にあわせることにしました。
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ここまでがフリースケジュールのざっとした歴史になります。本当に少しづつ変化してきたことが分かり、自分でも驚きでした。私たちの改革は大胆に思われがちですが全くそんなことはなく、繊細な調整こそが大事なんだと思います。
そして私1人が考え実行しているのではなく、現場で働く従業員の考えや思いを軸に作っています。メンバーやそれぞれの生活スタイルが変われば、働きやすい職場のあり方が変わるのは当然で、それにあわせて細かい変更が繰り返されるのはごく自然なことかもしれません。
それでは2016年1月の『全員が休んだ日』に注目してみたいと思います。
フリースケジュールの歴史をみた上で、この1日のことを皆さんはどう感じるでしょうか。
私はですね、従業員が10名位しかいない状態で2年半たっても『一人も来なかったのが1回なんてすごいな!!』と思うんです。自分のことながら、よくこの少人数でフリースケジュールをやったなと。笑
しかも、くどいですがもう一度言いますと、今とは違って全員が勤務時間が固定され、出勤したら朝から夕方まで働かないといけない状態なのにです。
そう考えると、出勤時間も退勤時間も自由になり、パートさんが9名から24名になった今、誰も来ない日がくるとは思えません。
そしてそもそもの話になるんですが、2年半で1回だけおこったことを基準に物事を考えるのはおかしいのではないかと思うのです。2年半だと出勤日は600日ほどと思いますが、私は残りの599日を基準にしようと思っているわけです。
さらに深堀していきますと、このたった1日の誰も来ない日はそんなに問題なのかなあと思うのです。
私たちの工場は土日祝日はお休みで、お盆休みや正月休みは曜日の調整で長くなったり短くなったりします。ようするに工場の休みが1日増えることをそんなに大きな問題として捉えていません。だから誰も来なかった日は祝日が1日増えた程度のことと考えました。その日に絶対にやらなければいけない出荷作業などは社員二人で行い、工場はお休みにしました。
それでも工場が一日休みになると出来高が減ると言われそうですが、フリースケジュールの場合は他の日の出勤人数が増えて平均化していくんです。ですから見方によっては年間の出来高は変わらず、掃除する日が一日減って経費が減っています。
最後に経営者目線で一言言いますと、フリースケジュールにすると効率が上がり、品質が上がり、離職率は減り、求人広告費は0円になり、会社としての利益がグンと伸びます。たった1日の全員来なかった日を理由に、それを捨てシフト制にすることは、損失が大きいなと思っているのです。
従業員が働きやすい職場というのは、会社が存続するために必要なものであると今回はそれを声を大にして言いたいなと思っています。
以上が『8年で誰も来なかった日』の詳細です。
フリースケジュールなど選択肢が増えることが組織にどんな意味をもたらすのか、そして1日あったからこそ考えることができた『全員来なかった日は悪いことなのか』という問い、そういった僕らの気づきや葛藤を日本全体で共有できれば、きっと社会への大きな問題提起になるのではと思っています。
その先にはきっと、生きずらずや働きずらさを抱える人たちと社会との接点があることを私は疑っていません。働くことが全てではないですが、働くという選択肢が増えるとことはとてもいいことだと思うのです。
パプアニューギニア海産
代表取締役工場長 武藤北斗
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争わない組織が答えだった
『フリースケジュール』『嫌いな仕事作業禁止』など新しい働き方を10年以上続けているパプアニューギニア海産。代表取締役であり工場長でもある武…
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