#14 春になると
わたしには忘れられない人がいる。
彼とは日常のほぼ全てを共有していて、今思えば完全に依存状態。
何時頃家に帰るのか、帰ってから何をするのか、遊びに行っているのは誰なのか、、
ほぼ全て知っていたし、想像がつくようになっていた。
わたしも全てを委ねていた。委ねられる人だと思っていた。
そんな名前のない彼との関係の終わりはじわじわと訪れて、1番嫌な形で終わった。
彼に好きな人ができて、恋人になった。
彼が彼女を好きになっていく過程を目の前で見せられる。
あんなに惨めな気持ちは、過去になかったし、これからは絶対にしたくない。
仕事の帰り道、自転車に乗りながら何度泣いたことか、、
それほど、苦しい思い出なのに、今でも彼のことは嫌いじゃない。
仕事中、街中、彼に似た髪型の人を見かけると、必ず顔を確認してしまう。
向こうはわたしのラインをブロックまでしているのに、情けない。
わたしにも今は恋人がいる。
''あ〜これが愛されるという感覚か''と教えてくれた人。
恋人と付き合ってから、彼がわたしにしていた行動に''愛''はさほどなかったのだな、と気づいた。
恋人と付き合って良かったと思う気持ちと、傷口を抉られるような感覚、、
恋人のことは好き。
疲れたら真っ先に会いたいのは恋人だし、心を委ねられる。
でも、ふとした時に思ってしまうの。
''今付き合っているのが彼だったら''
''今のわたしだったら、彼と付き合えたのかな''
''彼と行く買い物の方が楽しかったな''
ほんとうに失礼、、バチが当たるぞ。
そんな気持ちを抑えながら、幸せになれてしまうのだから大人って怖いね。
恋人と平和な日々を過ごしても、彼へ抱いていた気持ちを超えることはない。
わたしはもう、''好き''がなんだかわからなくなっているし、恋人と一緒にいるのは恋人がわたしを好きでいてくれるから。
そんな理由でいいの…?
恋人には、好きというよりも恩を返すような気持ちで接している。
こんなわたしでごめんね。
大好きだった彼は、今頃どうしているんだろう?
付き合うことができたあの子とは、うまくやれているのだろうか?
またあの街に行けば、どこかを歩いているのだろうか?
まだわたしはあなたの面影を探しています。
でもきっと未練とはまた違う形なのだと思う。
お互い転職もしているし、会っていない間いろいろあったと思うから、少しだけそんな話がしたい。
ああ、そんなことを考えていたら少しだけ涙腺が緩んだ。
彼と出会ったのも、関係が終わって涙を流したのも春だったから。
この季節はふと思い出してしまうね。
今日は恋人が家にいない。
だから少しだけ、この気持ちを抱えさせてね。