痛みの基礎知識①
皆さんは、痛みを感じたことはありますか❓
おそらくは、痛みを感じたことがないという人はいないと思います。
先天性無痛症という生まれつき痛みの感覚を感じないという疾患がある人以外は、痛みを経験していることだと思います。
私が経営と施術をしている鍼灸整骨院でも、ほとんどの患者様は何らかの痛みを訴えてご来院されます。
では、痛みとは一体何でしょうか❓
改めて問われると、考えたことないとは思いますが、難しいと思いませんか❓
腰痛、寝違え、膝の痛み、肩の痛みなど様々な場所(以下、部位といいます)に痛みを起こしますが、今回は根本的な「痛みの基礎知識」について解説していきます。
痛みについては、非常に細かいことも多々ありますが、施術の現場で必要な知識、あるいは一般の方に極力わかりやすいような内容にしていきたいと思いますので、是非ご覧頂ければと思います。
1.痛みとは
痛みを知るには、痛みの定義を知る必要があります。
といわれていますが、皆さんお分かりですか❓
この痛みの定義を見ても、何を言っているのかわからないという人が多いと思います。
すなわち、「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する。あるいはそれに似た」とありますが、これは、皮膚を切った、ぶつけた、捻ったなどの組織の損傷で生じる痛みと、明らかな損傷がなくても生じる痛みがあるということを示しています。
次に「感覚かつ情動の不快な体験」とありますが、痛みというのは「痛い」と感じる感覚的なものに加え、不安や恐怖などの感情の動きである情動的な反応を起こし、脳で不快な体験という情報を認知(認識して感知し行動する)していることを示しています。
わかりやすくいうと、このようになります。
また、痛みの定義には、付け加えられた記載というものがあります。
専門の方はわかるかもしれませんが、一般の人はこれを読んでも理解は難しいのではないでしょうか。
付記は参考にして頂けばと思います。
2.痛みの3つの側面
痛みには、「感覚」「情動」「認知」の3つの側面があります。
具体例として、感覚として痛みを感じると、痛みの強さなどにもよりますが、情動として不安や恐怖などが現れ、認知としてその痛みをどのように評価して痛み行動をとるか・・・
これを、痛みの多面性といいます。
3.急性痛と慢性痛
痛みには、急性の痛みと慢性の痛みがありますが、特徴は以下の通りになります。
まず、痛みという感覚は、神経の電気信号によって送られていることを理解してください。
急性痛は、痛みのある部位をしっかり施術や処置をすることで改善することが多く、さほど問題視されている痛みではありません。
慢性痛は、「急性痛を繰り返す慢性痛」と「急性痛が長引いている慢性痛」に関しては、一般的に痛みの改善は長期(3ヵ月以上)になることがあり、「難治性の慢性痛」に関しては、一般的にいつ痛みが改善されるのかは不明です。
また慢性痛は、睡眠障害、食欲不振、便秘、生活動作の抑制、不安、うつ状態、※破局的思考などの症状を起こすことがあります。
とくに難治性の慢性痛は、心理・社会的問題になることがあり、1つの疾患(病気)として捉えておく必要があります。
すなわち、慢性痛は痛みを起こしている部位だけに問題が起きているものではなく、体内の脳・脊髄(中枢神経系)または末梢神経系の感覚の何らかの電気信号の異常があるということです。
4.痛みの分類
痛みは、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛の3つに分類されます。
① 侵害受容性疼痛
組織の損傷や損傷が起こりうる強い刺激を生体に対する侵害刺激といい、侵害刺激によって痛みを感知する神経末端のセンサーのことを侵害受容器(自由神経終末での高閾値機械受容器、ポリモーダル受容器の2種類)といいます。
この侵害受容器(以下、痛みセンサーといいます)が刺激されて起こる痛みを侵害受容性疼痛といいます。
私たちが主に感じるいわゆる痛みは、この侵害受容性疼痛になります。
痛みセンサーが刺激される理由は以下になります。
機械的刺激(切る、火傷する、外傷など)
化学的刺激(ブラジキニン、プロスタグランジンなどの痛み(発痛)物質が放出される)
熱刺激(15℃以下の冷却と43℃以上温度で発生)
化学的刺激は、機械的刺激と熱刺激によっても起こりますが、機械的刺激と熱刺激がなくても起こることがあり、それは組織の酸素欠乏(酸欠)です。
酸素は血液で運ばれているため酸欠になるのは、痛みセンサーが存在する組織への血流低下(虚血状態)になります。
すなわち、何らかの要因によって痛みセンサーが存在する組織に酸素供給量が低下した際に痛みが起こるということです。
痛みセンサーが存在する組織が痛みを起こしますが、その痛みセンサーが多く存在するのは結合組織(fascia)といわれる膜で、つまりコラーゲン線維がある部位で真皮(皮膚の2層目)、骨膜、筋膜、関節包、靭帯、腱鞘などが痛みを起こす部位ということになります。
整(接)骨院、鍼灸院などの代替医療にご来院される患者様の多くは、このような痛みだと思われます。
② 神経障害性疼痛
「末梢および中枢の体内の感覚神経系に変性や損傷、虚血、感染、代謝障害などが生じたことで起こる痛み」と定義されています。
痛みセンサーが刺激されて起こる侵害受容性疼痛に対し、神経組織そのものの傷害や病変によって起こるのが神経障害性疼痛(以下、神経痛といいます)で、いわゆる神経痛になります。
神経痛が要因である外傷や圧迫・絞扼によって末梢神経が刺激された場合だけでなく、脳卒中や脊髄損傷のような中枢神経(脳・脊髄)の病気によっても起こってきます。
神経痛のメカニズムはまだ不明な点がありますが、現在以下が末梢性の神経痛のメカニズムとして考えられています(中枢神経性の神経痛のメカニズムは鍼灸整(接)骨院では施術適応外となるため除外させて頂きます)。
神経痛は、様々なメカニズムが複雑に絡み合って起きていることが痛みの専門家の中で考えられています。
神経痛のメカニズムをわかりやすくいうと、神経の損傷・圧迫・絞扼などの原因により、神経線維の髄鞘というものが傷ついて剝がれてしまうことがあり(脱髄)、その結果、隣を走る神経線維との間で混線を起こし(エファプス)、神経痛を発生させる可能性があると考えられています。
また、脱髄したところは修復されますが、修復中にも脱髄した部分に電気信号が流れます。すると、電気信号の流れに異常が起き、自然に発火するように神経痛が生じてしまう可能性もあると考えられています。
さらに、交感神経(ノルアドレナリン)が絡んで複雑にしています。
もう1つの神経痛のメカニズムで考えられていることは、末梢神経の周りを走っている細い動脈(伴行動脈)の圧迫です。
組織の何らかの末梢神経の圧迫や絞扼によって、血管が圧迫されると神経が酸欠となり、痛みやしびれを発生させるというものです。
つまり、神経痛は様々な要因が絡み合って生じていることが考えられています。
整(接)骨院、鍼灸院でみられる神経痛を起こす疾患は、椎間板ヘルニア、頚椎症性神経根症、帯状疱疹後神経痛、手根管症候群・胸郭出口症候群などの末梢絞扼性神経障害です。
3.痛覚変調性疼痛
「侵害受容の変化によって生じる痛みであり、末梢の痛みセンサーの刺激を起こす組織の損傷、または、そのおそれがある明白な証拠、あるいは、痛みを起こす神経の疾患やっ傷害の証拠がないにもかかわらず生じる痛み」と定義されています。
つまり、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に当てはまらないものをいいますが、侵害受容性疼痛と痛覚変調性疼痛を同時に起こす人もいます。
痛覚変調性疼痛のメカニズムも不明な点もあり、神経障害性疼痛同様に複雑なメカニズムと考えられています。
まとめとポイント
痛みは感覚だけでなく、情動(感情の動き)と認知(認識して感知する)といった側面がある
痛みは他人(客観的)にはわからず、本人(主観的)しかわからない感覚である。
痛みは心身一体といわれることがあるが、「心」は医学的に「脳」のことである
急性痛は施術をすれば改善することが多いが、慢性痛は長引いたり改善しにくいこともある。
一般的な痛みは、侵害受容性疼痛のことをいう
神経障害性疼痛は、いわゆる神経痛のことで複雑なメカニズムである
痛覚変調性疼痛は不明な点もあり、さらに施術現場で判断することは困難である
今回は以上となります。
最後までお読み頂きありがとうございます。