あのときの私は何を守ろうとしたのだろう。
自分のプライドを守りたいとき、
それ以外に利はあるのだろうか。
そもそも自分のプライドを守って、
何か利益なんてあるのだろうか。
あまりに家族の喧嘩が激しく、
むしゃくしゃして玄関口に置いてあったお盆を投げた。
お盆の角で、玄関の壁はえぐられた。
えぐられた壁を睨みつけながら、私は家を飛び出す。
壁に空いた穴は、私の心にも似ている。
互いに言い合った祖母の心も同様だろう。
私は祖母の心にも穴を開けた。
とある日も、喧嘩があった。
この家族は懲りない。
気が済むまで、自分の意見を押し付けあう。
異なる価値観を持った人間達が自分に合わせてもらうことしか眼中にない。
誰だって人に合わせてもらいたい生き物だ。
自分を曲げることは難しい。
自分の間違いを認めることも難しい。
自分の限界を受け入れることも難しいだろう。
自分を優先させることしか頭にない生き物達は、
相手の言い分なんて想像もしないだろう。
自己利益を優先する結果の行き着く先は、
どこだろう。
今日の私は、思い切りメモ帳を投げた。
白い紙を挟んだ厚めのバインダーをぶん投げる。
あっという間にバインダーは宙を舞い、
白い紙の束がふわぁっと優雅に舞い散る。
私の情動の激しさとは裏腹に、
紙片の動きは一瞬時が止まったかのように穏やかに舞った。
わざわざこの言動をした私は
何を示したかったのだろう。
何が不満で何を分からせたかったのだろう。
あのときの祖母はまた私に何を伝えようとしたのだろうか。
未だに返答を待っている。
私はいつもあとから気づく。
自分の言動がいけなかったと。
情動に任せて動いた私には、守りたいものなんて何一つとしてなかったのではないか。
おばあちゃんはいつも何を思ってるの?
私の本当はいつもそう思うんだよ。
あなたの耳がついているうちに、
私の声がまだ届くうちに、
本当はもっと伝えておきたいことがあったのだ。
私はいつもあとから気づく。