少年たちは試される大地に試されていた。 冬の風物詩✖︎音楽 「氷点」 玉置浩二
北海道の冬の風物詩。
それは水道管の凍結である。
ある朝、悲劇が起きる。蛇口を捻っても水が出ない。20世紀も終わりに近い、文明社会に何が起きたのか。
試される大地の少年たちは、そんなふうに、世の中は魔法でできていないことを知るのだった。蛇口を捻って水が出るには理由がある。誰かが、そうなるようにしてくれたからだ。また、蛇口から出る水が、川の水と違い、人に優しい理由も理解して行った。
いわば水道管凍結という悲劇は、見事な社会科学習の場となっていた。
やがてお湯を流し込むなどして、水道が復活して水が勢いよく出たときの瞬間は、自宅の庭に重油が沸いたくらいの感動に包まれるのだ。
ちなみに、地中を這う水道管は、ある地点から救いを求めるカンダタの手のように天上に向かいやがて水道に繋がる。この地中から水道までがボトルネックポイント。
氷点下になる夜は、必ず水道の元栓を閉めなければならないのだ。
それを怠ると悲劇に見舞われる。カンダタは地中に真っ逆さまである。社会科学習も一度で充分である。
冬の風物詩は他にもある。
試される大地には一軒家が多い。部屋数も多いが、無論全ての部屋に暖房がある訳では無い。
必然的に氷点下の寒さに晒される部屋が存在した。ボイラーなどまだ夢だった時代だ。
ある日、友人宅でそれは起きた。
友人が団欒を経て、休もうと氷点下に晒されている自室に向かった時。何かにつまづいた。
硬く小さな物質。とっさに手をつき、頭を床に打ちつけることは回避した。狐につままれたように明かりを灯すと、それは、氷点下の部屋で寒波に晒され、カチカチになったミカン🍊だった。
氷点下の部屋では、ミカン🍊すら凶器になり得る。下手をすれば完全犯罪成立である。ミカン🍊殺人事件である。郷ひろみ&樹木希林も想像できなかったに違いない。
どこかから、「世の中に不思議なことなど何もないのです」という京極堂の言葉が聞こえてきた。
ちなみに、バナナで釘を打ち、濡れタオルが一瞬で固まる世界は人が住む世界では実現できない。人が生存できないくらいの氷点下の産物である。
完全犯罪は未完に終わったのだが、少年は、ミカン🍊は、割と簡単に固くなることと、将来ミステリー作家になった時のミカン🍊のネタを手にしたのだった。
氷点下になる試される大地の冬は、少年たちにとって大きな社会科学習の場でもあったのだ。
少年たちは、きっと氷点下の大地に試されていたのだろう。
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