「M」 プリンセスプリンセス
真夏の夜の夢。
中学の夏休み。わたしは暗くなると家を駆け出して近くの原っぱへ行き、飽きることなく満天の星を眺めていた。時には子供会のキャンプで、東の空が白むまで。あのとき星に、宇宙にわたしは何をみていたのだろう。
それはきっと、儚い子供時代の名残を見ていたのかもしれない。星が森に帰るように、やがて子供時代も思い出に帰る。その寂しさを感じていたのだろうか。
真夏の夜の夢。
あれから少し成長した自分に向けて。1995年。夏の夜はあの頃とは違い、星もあまり見えず、見えるのはネオンサインやコンビニの明かり。
そんな風景から少し暗がりに歩み寄ると、一等星のわずかな輝きが見える。部屋のベランダからも。流れ星がながれたら何を願おうかなどと考えても、そんな時に星は流れない。星はゆっくり西に向かうだけ。
あの日、自分の右側には、あの人がいた。微かな都会の星の瞬きを共に眺めていた。
あの風景は今は幻想の彼方。ゆっくり傾く星を眺めながら反芻するのはあの人の名残。
やがて星は消えてゆく。なぜだろう、その先に森が見えるような気がする。星が森へ、見えない森へ還っていく。
そう、自分もまた、新たな人生に還っていく。立ち止まった心も動きだす。
真新しいアドレス帳を握りしめながら。
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