夢も悲しみも欲望も歌い流してくれ ~ 「歌姫」中島みゆき
中島みゆきさんの書く詞の世界は、短編映画のあらすじのような雰囲気があります。詞を読んでいると映像が脳内に投影されて、その舞台となる世界が目の前に広がるような、そんな世界観があります。その世界に第3者として、入り込んだかのような。。。
この曲の登場人物は、まず、おそらく別れを経験したばかりの女性。そして、想像上の存在としての、とある船の専属歌手が登場。
この曲のタイトルの「歌姫」です。
別れを経験した女性は港に1人きりで佇み、遠ざかっていく船のデッキを、ひとりで、静かに、ただ見送っている。
船にいるであろう「歌姫」を想いながら。
淋しいという感情を、思いきり発散していくことが、この感情の状態から抜け出す一つの方法かもしれません。しかし、あまりにも感情が深いがゆえに、それを吐き出せず、内面に抱えざるを得ないことがあります。また、淋しいという感情に背を向けて、強がってみても、淋しさは募るばかり。
南へ向かう船は自分を幸せへと、淋しさとは対極の世界へ誘ってくれる存在。
でも、自分はその船には乗れなかった。乗り遅れてしまった。同じように、乗り遅れた水夫が、自分の傍で錆びたハーモニカを鳴らしている。
大地から離れていく船は、自分と別れた男性の関係を暗示している。別れは男性の方から切り出された。そしてその男性は、自分の手の届かない、遥か向こうに旅立っていってしまった。
残された自分は、ただただ、それを見送ることしかできない。錆びついた心を抱え、淋しさと戦いながら。
離れ行く船のデッキを見送りながら、想像の中で聞こえてくる「歌姫」の歌声。その歌声は、自分への救いのメッセージ、希望の光のようなイメージ。この歌声を安酒とともに浴び、この淋しさを洗い流すことができたなら。
自分はきっと、その船に乗ることができる。幸せをつかみとることができる、、そんな気がする。その時のために、「歌姫」には歌い続けてほしい。華麗にスカートの裾をひるがえしながら、光を与え続けてほしい。
時間がかかるかもしれない。二年、いや十年かかるかもしれないけれど。その歌で、夢も悲しみも欲望も歌い流してほしい。