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樹
2022年3月25日 20:22
なんか言った? えっ?今さ、なんか言ったよね?あぁ!こんな時、地元では、厄除けの呪いを呟くんですよ。呪い?はい。因みに今なんて言ったの?古い方言なんで正確な言葉の意味とかは解らないんですよ。解らなくても効くんだ?ええ…とてもよく効くんですよ。後輩は、そう言って俺に向かって微笑んだ。
2022年2月15日 20:12
最後の審判に2人で望んだこの星が完全に滅んでしまう前に選ばれるアダムとイブ候補の中で最後まで生き残ったのは意外にも僕たち2人だったいまだ荒野に光は全く見えないこれからどうする?不安そうに尋ねる僕を見て繋いでくれた手から温もりが伝わってきた
2022年2月6日 21:14
宇宙旅行が大流行していた何万光年も離れた星から高性能天体望遠鏡で見るとはるか昔の地球の映像を覗けるという触れ込みに何万光年という距離と時間永遠の命を手に入れて光の反射を覗くことでしか見ることの叶わなくなった母星の記憶を手繰り寄せそこでしか会えない人に会いに行くのだ
2022年1月30日 18:53
その像は、父が、若かった時の母をモデルにして作った作品だった。まだ幼かった頃、僕が母を恋しがるたびに、父は、この彫刻を見せて、「これが母さんだよ」と慰めてくれた。「心を持たないものに、そんな風に話しかけちゃいけないよ」今更、そんな風に言われても、僕には違いがよくわからなかった。
2022年1月30日 18:52
オレンジの匂いが辺りに漂った。裏山に実る果実は、冬籠りの野鳥の為に残しておくようにとあれ程言っていたのに…。街へと続く道は寸断され物資ももう届かない。起き上がることさえ叶わなくなった僕の命を、この世に繋ぎ止めようとする妻は、固く結ばれていた口に傷だらけの指先で一房の果実を含ませた。
2022年1月30日 18:50
あの頃キツイなと思うことが重なるたびに物語に浸るクセがあった映画でもドラマでも小説でも演劇でもそうして自分ではない登場人物たちの気持ちに浸ることで自分のリアルで味わうキツイ気持ちを一時だけ休憩できた物語は私にとって人生の一休みだったのだ
2022年1月13日 22:35
「今日はずっと手を繋ごうと思ってたんだ」って言って、私の指にそっと触れてくるから、思わず手を引っ込めた。「ねぇそういう風に言っちゃうのずるくない?」「ずるいの?じゃあなんて言えばいい?」そんな初デートから数十年。今では2人、どちらからともなく手を結び、並んで散歩するのが日課である。
2021年12月23日 23:27
実家の机の奥からキーホルダーが出てきた卒業式の思い出にこのランドセルをキーホルダーにして残しておこうこれは君が6年間頑張った証だからね母がそう言い出して作ったのだった優しい思い出は1人になってしまったこんな時にこそ生きてくる……
2021年12月8日 08:11
「祭りが終わって、もし誰かに呼び止められても、決して振り返ってはいけないよ」祖母に、そう言って送り出された。やがて花火も終わり、友人とも別れ、もう帰ろうとした時に名前を呼ばれた。懐かしい父と母の声だった。祖母の言葉の意味をこの時ようやく理解した。たぶん振り返ったらもう戻れなくなる
2021年12月8日 08:09
名前を呼ばれて目を覚ますと、頰が濡れているのに気がついた。どうやら泣きながら眠っていたようだった。「今回は、いつもより随分と時間が掛かってしまいましたが、きれいに消えているはずですよ」そう言われて、今いる場所が、不必要な記憶を消してくれると評判のクリーニング屋なのだと気付いた。
2021年12月8日 08:07
「田舎料理なんで、都会の人のお口に合うかどうかはわからんけど!」そう言って勧められたお椀の縁からは、何やら昆虫の足のようなものが飛び出している。料理人は笑顔で「ちょうど今が旬で美味しいんですよ」と勧めてくる。念願だったテレビの食レポレポーター第1回目で、もう退職を考え始めていた
2021年12月8日 08:03
目覚めると妻が台所でプリンを作っているのに気がついた。プリンは子どもたちの大好物で、昔はしょっちゅう作っていた定番のおやつだった。子どもたちもとうに巣立ち、今では、僕と妻の2人きりだというのに妻は言う。「ねぇ、子どもたちを呼んで来てくれる?」
2021年12月8日 08:01
昔から、僕の彼女は意地っ張りで、泣きたいくらい辛いくせに大丈夫だと言うし、食べたいくせに食べたくないという、痛いくせに平気だと言う。今も泣きながら僕のことが大嫌いだと叫んでる。でもわかってるよ。そうは言っても本当は僕のこと大好きなんだろ?
2021年12月8日 07:57
手を繋いで歩いていた幼い娘が、ふいに立ち止まった。彼女は見えないモノが見える体質らしく、じっと、空を仰いで見つめている。「何が見える?」と問うと「大きな竜が空にいる」と言った。つられて見上げた私には、ただ、白いうろこ雲が広がる空にしか見えなかった。