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「自由の女神像」の厚さは本当に2.4mm? | 自由の女神像の誕生秘話 #1

今回は、モネとアリス+オシュデ氏シリーズを少しお休みして、五郎さんの「オトナの教養講座」で扱われていた自由の女神像の裏話をシェアしたいと思います。ちょっとした箸休めとして、気軽に読んでいただけると嬉しいです。



厚さは本当に2.4mm? ー 特殊工法で作られたブロンズ像


ブロンズ像の一般的な製法は、金属を高温で溶かして鋳型に流し込み、冷却して固める鋳造法ですが、五郎さんも指摘されていたように、自由の女神像はこの方法では作られていません。

「鉄骨の骨組みに、表面を青銅板で覆う」という構造になっています。つまり、表面は彫金技法の一種である「ルプセ(打ち出し)技法」で成形された銅版がリベットで固定され、その銅板を内部の金属製の支柱構造が支えているという仕組みです。

イメージとしては、自由の女神の鉄骨フレームを銅板が「皮膚」のように覆っていると考えると分かりやすいかもしれません。

「自由の女神像」制作現場の様子(1884年)


そんな自由の女神の銅板の厚さについて、「Wikipediaによると平均2.4ミリ」という点に、五郎さんは「いくらなんでも薄すぎるのでは?」 と疑問を持たれたようです。何しろ、女神像自体が46メートルもあるので、「24ミリの間違いじゃないか?」と感じるのも無理はありません。

これに対し、コメント欄には「2.4mmで合っているのでは?」というご意見もいくつかありました。調べてみたところ、2.5mmとする説や、「打ち出し加工のため場所によって厚みが異なり、0.8mmから3.0mmまで幅がある」という記述も見つかりました。

最も詳しい資料では、銅板の厚さを2.3mmとし、銅板同士の接合部分――つまり銅板の端同士を重ね、リベットで固定する部分――は30cmとたっぷり確保されており、そのためこの部分の厚さは1.2mmと説明されていました。

いずれの資料も、ルプセ技法による加工の結果、極めて薄い銅板が使用されていることを示しています。

しかし、自由の女神関連の資料だけを見ても、どこかモヤモヤが残ります。そこで、少し違う角度から調べてみました。

11.5メートルの台座の上に聳える高さ23.5メートルの巨大な銅像「サンカルローネ、またはサン・カルロ・ボッロメーオの巨像」は、絵画、彫刻、建築を手がけた芸術家ジョヴァンニ・バッティスタ・クレスピ(1573-1632)のデザインに基づき、ザネラやファルコーニといった彫刻家たちによって、クレスピの没後、1698年に完成しました。この銅像は、銅版を打ち出して加工するルプセ技法による最初の例と言われています。


バルトルディが参考にした「聖カルローネ像」との比較


実は、自由の女神像を設計する前、彫刻家フレデリック・オーギュスト・バルトルディは、ルプセ技法で作られた既存の彫刻を視察していました。この技法で作られた彫像は極めて珍しく、その最初の例とされるのが、イタリア・アローナにある「聖カルローネ像」です。

この像は17世紀に建造され、マッジョーレ湖を見下ろす丘の上にそびえ立っています。その高さは23.5メートル。バルトルディは1869年、エジプトからの帰路にこの像を訪れ、その構造を研究しました。

そして驚くべきことに、この聖カルローネ像の銅板の厚さは、わずか1mm(資料によっては1.5mm)だったのです!

バルトルディが訪れた当時、すでに建造から約200年が経過していましたが、像はしっかりと現存していました。

「聖カルローネ像」も内部に入ることができます。螺旋階段を上り、梯子を登ると聖カルローネの頭部内部に到達します。頭部からは目や耳の穴を通して外の景観を楽しむことができます。


2.4mmは本当に薄すぎるのか?


こう考えると、23.5メートルの「聖カルローネ像」の銅板が1mmであるならば、46メートルの自由の女神像の銅板が2.4mmというのは、むしろ妥当な厚さではないでしょうか?

こうした歴史的な背景を踏まえると、 「自由の女神像の銅板の厚さ2.4mm説は十分に妥当である」 という結論に至りました。

さて、皆さんはいかがお考えになりますか?

次回は、自由の女神像の技法と象徴性の系譜を、他の作例も交えながら辿っていきます。ぜひお楽しみに。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


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