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ねえ、うさぎの目はなぜ赤いの。 赤いキュロットスカートを履いた少女は、うさぎに問うた。 問われたうさぎははてと首をかしげ、少女のちいさな手がさしだしたレタスをさくさくと齧りながら、鼻をひくひくさせて考える。 さてねえ。自分で見に行ったほうが早いんじゃないだろうか、と、うさぎはとぼけて答えた。少女はいじわると頬を膨らませ、うさぎの赤い瞳をじっと見つめた。 地に足がついている感覚が、ぼんやり、ぼんやりと消えてゆく。少女はあっと高い声をあげた。身体が宙に浮いている
北の海を越えた先に誰も知らない街があるらしいと、旅の吟遊詩人が街角で歌っているのを聞いた。旅人に憧れていた娘はすぐさま荷物をリュックに詰め、誰も知らない街へと向かうことにした。まずは海を渡らなければいけない。娘は海岸を通りすがったかもめに、海の渡り方を尋ねた。 「そんなの簡単さ。きみの腕から生えている翼をばたばたはばたかせればいいのさ。はじめは疲れると思うけど、慣れればなんとかなる。風を切るのは気持ち良いよ」 娘は自分の腕を見てみたが、どこにも翼なんて生えていない。は
困った。あまりにも困ったので『私……漢検に挑戦したい。だからあなたとはもう付きあえないの』なんて適当な台詞で終わるんじゃなかった。 先月も同じことを言っていた気がするのだが、連載の締切が目前に迫っているのにもかかわらず、びっくりするほど続きが浮かばない。執筆用のテキストエディタは何度見ても驚きの白さだった。 出だし二行、相手の男が「な……なんだって!?」と目を見開いているところだけ書いてあるのがやけにリアルだ。 「黒田の小説の登場人物すぐ『なんだって』って言う」と酷評
大事なものだけバッグに詰めこんで、月がいちばん綺麗に見えたときドアを蹴破ろうと思っていた。真夜中の街は私の部屋よりもずっと静かで、月さえも透明な渦の中に飲みこんでしまいそうだった。どこに行くのかなんて考えもしていなくて、けれどどうしても、ここに居たくなかった。母とあんなに喧嘩したのは初めてだった。 中学生だから、今年は受験生だから、彼氏と遊んでいる場合じゃない、動画もSNSもゲームも禁止、ちょっと考えが古いと思う。私はちゃんと勉強しているし、なにごとも継続するにはきちん
いくら言ってもわからないようなので俺はきみを食べることにした。 そう言うときみは目を丸くして、冗談でしょう、だって牙も生えそろっていないのよと、女特有の小馬鹿にした態度でそっけなく見つめ返してくるのだからたまらない。 いいか、男の大多数は女がやせほそることなんてちっとも求めていないんだ。何度言ってもどうしたって骸骨と肩を並べて寝そべろうと必死になって生命を燃やしている。勘違いもいいかげんにしろ、きみは俺の食料だ。何度も何度もその言葉が舌の端から飛び出しそうになったが
もう駄目です。栗鼠に頭を齧られ螺子が何本か足りないのです。いつからか私のこの家にも訪れる人間はとんと居なくなり、蟋蟀ばかりが何が楽しいのか歌をうたっています。 私のからだは鉄でできています、もともと人とはちがう生き物です、ですから、寂しいという感情をおぼえることは不可能だと、かつてあなたたちは言いました。私はいまもその『寂しい』でよばれる感覚をおそらく理解していないままですが、わが家が壊れてしまったという事実ならば理解しています、私はあなたたちの為に作られた最新鋭の鉄の