蜩ひかり
~2000字前後の短編・掌編です。
まとめるほどでもないもの
MS業務やキャラクターについてのあれこれです。
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どの道終点がないとわかっている迷路なら標識をみて立ち止まらなくてもよい。壁が綿菓子のような雲でできているなら、分解された雲を引きずりながら突き抜けていってもよい。 青空の道はいくら迷っても終わりが見えない、すれ違う迷子たちと挨拶をかわすだけの場所。 地上からみた空はあんなに自由に見えたのに、いざ来てみると何もない。ただ青いだけだ。点在する展望台からみえる地上の景色だけがきれいだ、望遠鏡にうつらない範囲はきっと今日も燃えているのだろうと頭のどこかでわかっていながら、わたし
みんながあの子は優しいという。わたしもあの子を優しいと思う。実際それらはほとんど真実だったのだとあの子以外の誰もが言う、けれども嘘の欠片は瞳の奥で燃えさかる炎だ、灯火とよぶには熱すぎるあの日の炎は優しさなんかじゃなかった。 あの子にはいつも雨が降る。 土砂降りのなかで捨てられた子犬のような顔をしている、それでも負けないのは燻る炎がいつまで経っても消せないからだろう。 あの子の瞳が優しさしかうつさないようになってしまったら、その時ひとつの世界の終わりが来るのだとうっす
いつがそれになるかわからないけれど、きっとその日が遠くないことはわかるし、ひょっとしたらもう最後に会った日は過ぎ去ってしまったかもしれない。 二千年ばかり季節が巡れば世界のどこかで空から槍が降った日もあっただろうし、今日のことも明日のことも誰にもわからない。 あなたはきっと誰かの期待に応えるのが苦手なひとだろう。 世界のほとんどすべてがあなたの敵だった日、舞台の中央で静かに俯いて四面楚歌の合唱を聴いていた、その姿が最後になるならあなたらしいが哀しい。私は歌なんてどう
あれはすばらしい花だと言われ、咲きそうな蕾を誰かがたいせつに育てている時、その花を見る人がいちばん心ないのはとても悲しいことだ。 焼け野原に咲いている花はひとつではないし、あなたたちが勝手気ままに踏みにじっていいものでもない。 わたしの大好きな向日葵が昨日枯れてしまった。あなたたちにへし折られ、わたしたちはきっと水をあげすぎた。 どうしたら良かったのかはわからない。ただ、まだ根は腐っていないことだけは信じている。 花は世界にひとつだけとむかし誰かが歌っていた。
運命の輪の軸に選ばれる人間というのはたぶんあらかじめ神様が決めたもので、あなたは最初から断崖絶壁の淵に立たされてわたしを見下ろしていた。 あなたはこれを選んできた道だと言った、ほんとうにそうならせめて視線ぐらいは合ってもよかった。偶然でも一瞬でも救わせてほしかった。 あなたの眼はもう手が届きようのない暗闇を見据えていて、そのときわたしは生まれて初めて誰かのおそろしさに、強烈なうつくしさに心ふるえたのだ。 怖いものほど見つめたくなる、うつくしいから覗きたくなる、けれど
朝起きて、わたしの頭上に覆い被さるどんよりとした曇り空からふと光がさすのを見あげて、今日もあなたが太陽であることをなにより尊いと思う。 あなたが太陽であること、太陽であらなければいけないこと、それを他でもないあなた自身が一番に咀嚼しながら燃えている、だからあなたの振りまく輝きはこんなにも暖かく世界を包みこむ。 太陽が出ていても雨は降る。あなたがほんとうは泣いていることを知っている。けれども雲は晴れるから、わたしたちはあなたの天気雨で恵まれている。あなたが通るだけですべて
紫陽花が似合うあなたはいつでも冷たい雨に打たれている。濡れそぼった髪が額にはりつくのをどこか気だるげにかき上げる、その仕草がうつくしいと思う。 頬を伝う雨にどれだけの涙が隠れているのか、わたしたちが知ることはけして許されない。あなたはいつも曇り硝子の向こうにいる、雨はあなたの本当を洗い流す。足元には群青色の海がたまる、波は穏やかできれいだ、けれどいつもすこしだけ濁っている。 降りつづける雨がせめて暖かければいいのにと願う、けれど横殴りの雨が降る嵐の中で磨かれ続けた正し
小麦色の肌がよく似合うね、なんて言われてるあの子の肌が本当はひどく白いことを、いったい何人が知っているのだろう。 季節外れの真夏日がささやかれるたびにあの子を思いだす。あの子はいつもきれいだ、けれど半袖と素肌の境目にくっきりと引かれた線、あれだけはどうにも残酷で好きになれないよ。 太陽はいつもあの子にだけ厳しすぎる、あなたがそんなに頑張る必要はないんだよと、誰が言ってもあの子は困ったように微笑むだけだ。あなたには届かないから美しいんだ、そんなフレーズが頭を過る。 今
死後の世界には三途の川があると聞いていたけれど、あの話は嘘だったのだと今しがた思い知った。 視界いっぱいに霧のかかった原野が広がっていて、青々とした叢からはなぜか線香のにおいがする。その中央に、土をかるく慣らしただけの凸凹の一本道が通り、一面の緑を左右に分断していた。 行けども行けども道におれ以外の人影は見あたらず、いよいよ不安になってきたところ、道がYの字の形に分岐するのが見えた。 分岐点にはまるで山道のように、行き先を示す立て札が立っている。 片方には「天国」、
流れ星が願いを叶えてくれそうな気がするのは、きっとあのちいさな炎が燃え尽きて、もう消えてしまう寸前だからだろう。何億光年か先でわたしたちのために光るいのち。その上にほんとうは誰が立っているのかを知れるとき、わたしも跡形もなく消えている。 月はきれいだけれどなにも叶えてくれない気がするな。あそこは竹から生まれたわがままなお姫様が治めていて、兎が住んでいる不思議の国、昔からそういうことになっている。 勝手に満ちたり欠けたりするし、太陽を食べたりするし、月はいつだってわがま
わたしは雨である。 雨というものは表現手法においてまったく便利な代物で、いついかなる時も適当に降らせておけばよいのである、と思われている。 悲しみや希望やエモみを付与するために塩胡椒感覚で振られるこちらの身にもなってほしいものだ、と食品界隈にぼやいたら「それはどっちかというと僕みたいな感じだよ。なにと合わせてもなんとなく合ってしまうんだ」と卵に言われたし(卵のやつは食べられる側のくせに妙なドヤ顔を浮かべていた)、デジタル画材界隈からは「わかる、戦場塵ブラシみたいなもの
別れの挨拶は祈りなのだ、と唱えたひとがいる。 もう二度と会わないことを願ってさようならと、また会えることを願ってまた明日と、口が滑るその一瞬だけ誰もが無邪気な魔法使いになる。 さようならの呪文は滅多に効かないし、また明日に裏切られた日は世界が凍る。それでも勝手にやってくる明日へほんのすこしだけ反抗するために、はじまりの魔法を使ったひとがいる。 すべてのさようならが優しくならない今日だから。 わたしは顔も知らないあなたたちに、また明日、と唱えることにする。
都会を歩くひとたちはみんな透明だ。情報の洪水でわたしたちの色温度は希釈され、水びたしの街には水面に反射された空と高層ビルだけが取り残された絵画のように映っている。 コンクリートで舗装された歩道の合間で、さみしさを埋めるために咲かされた紫陽花は、すこし汗ばむような初夏の空気に囚われている。あのちいさな花々を囲む川辺の散歩道の上で、子どもたちが川に向かって石を投げているのを見た。 通りすがりの透明人間は、石がぽちゃんと川に落ちる音が聞こえないことに気づいてふり返る。そのと
あなたがあなたの思いどおりのあなたじゃなくても私はあなたが好きなことに変わりはないし、あなたがあなたを否定しても私はあなたのことが好きだよ。たったそれだけを許せないひと、あなたが求める私はきっと初めから宇宙のどこにも居ません。 煩い流星群が流れている、自己肯定自己肯定自己肯定自己肯定自己肯定自己肯定、自己肯定の行列はやがてゲシュタルト崩壊する、だから列に並ぶのをそっと抜け出すひとがいる。 足下ばかり見ていないと石が転がっていることにも気づけない、一寸先の闇へ飛び込むつも
遡ることができるなら変えたいのは私の未来なんかじゃなくて、ただ貴方に会いに行きたいな。これからを見つめつづけることならできるけれど、これまでは知ることしかできないし、貴方のすべてが記された図書館には幾重にも鉄条網が張られていて、永遠に通行許可が下りない。 貴方の心を覆っている棘は硝子のように透き通って綺麗だけれど、其処にはあまりに明確な拒絶と断絶が立ちふさがって、私達の目を遠ざけようとする。頑強な城壁にはなにものも近寄れず、触れることができない花が咲く、いつまでも散らない