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コミュニケーションは氷山 成立のカギは「見えない部分」への理解ー日経ビジネス記事より

 日経ビジネス2025/2/3記事「コミュニケーションは氷山 成立のカギは「見えない部分」への理解」を拝読しました。

 この記事では、特にコミュニケーションにおける相互理解を深めるための鍵となる「コンテクスト」の重要性について詳しく解説されていました。コミュニケーションはしばしば氷山に例えられますが、その意味するところは、私たちが日常的に耳にする言葉や意見は、水面上に見えている氷山の一角に過ぎないということです。

 水面下に隠れた巨大な氷塊のように、発言者の背景にある考え方や価値観、つまり「コンテクスト」が、コミュニケーションの成立を大きく左右しているのです。

 企業の中でも、「コンテクスト」が影響する、「見えない部分」が大いに関係する場面はたくさんあろうと思います。考察を進めてみたいと思います。

コミュニケーションにおける「コンテクスト」の重要性

 私たちは、自分と異なる意見や考え方に直面したとき、しばしばそれを「間違い」と捉えてしまいがちです。しかし、その意見の背景にあるコンテクストを理解しようと努めることで、異なる意見への共感や理解が生まれる可能性が開かれます。
 記事では、このコンテクストを「タテ」と「ヨコ」の二つの軸で捉えることを提案しています。「タテ」は、それぞれの人が置かれている立場や役割の違いを指します。例えば、同じ「リモートワーク」というテーマでも、働く個人としての立場、家族や地域社会の一員としての立場、リーダーや組織の一員としての立場では、それぞれ異なる意見や考え方が生まれるのは自然なことです。

 「ヨコ」は、時間軸の違いを指します。経営層のように長期的な視点を持つ人と、現場で短期的な成果を求められる人では、物事の捉え方が異なります。この時間軸の違いを理解することで、それぞれの立場からの意見を尊重し、より建設的な議論を進めることができるのです。

リーダーがコンテクストを理解するために

 リーダーは、単にメンバーの意見を聞くだけでなく、その背景にあるコンテクストを理解しようと努める必要があります。意見の違いは、必ずしも対立を意味するものではなく、むしろ多様な視点を得るための貴重な機会と捉えるべきです。
 そのためには、メンバーの意見に対して「なぜそう思うのか?」と質問し、その背景にある価値観や考え方を深く掘り下げることが不可欠です。特に意見が対立している場面では、表面的な意見の違いに固執するのではなく、その根底にあるコンテクストの違いを理解しようと努めることで、不必要な衝突を避け、より建設的な解決策を見出すことができるでしょう。

 記事では、リモートワークに対する様々な意見を例に挙げています。
 例えば、「効率的に仕事が進む」という意見は、「働く個人として」の立場から生まれたものであり、「メンバーの育成がしにくい」という意見は、「リーダーとして、組織の一員として」の立場から生まれたものです。
 また、「地域の人との出会いが増える」という意見は、将来への期待を含んだ長期的な時間軸から生まれています。このように、同じテーマでも、コンテクストの違いによって、様々な意見が生まれることを理解する必要があります。

リーダーの役割:ズレを調整し、組織を前進させる

 リーダーの重要な役割の一つは、異なるコンテクストを持つメンバー間のズレを調整し、組織全体を円滑に進めていくことです。経営層のような長期的な視点と、現場のような短期的な視点、それぞれの立場を理解した上で、両者の意見を繋ぎ合わせ、組織全体の目標達成に向けて協力していく必要があります。
 そのためには、それぞれのコンテクストに基づいた情報を収集し、必要な相手に伝えることで、相互理解を促進し、組織全体のパフォーマンス向上を目指していくことが重要です。

 この記事は、リーダーシップの核心は、単に指示を出すことではなく、メンバーの意見の背景にあるコンテクストを理解し、組織全体の調和を創り出すことにあると教えてくれます。
 真のリーダーは、言葉の奥に潜む「見えない部分」を読み解き、メンバーそれぞれの違いを尊重し、組織をより良い方向へ導いていくことができるのでしょう。

人事の視点から深掘りする「コンテクスト」重視のリーダーシップ育成:変革期を生き抜く組織の鍵

 この記事で示唆されている「コンテクスト」を重視したリーダーシップ育成は、企業にとっても、組織の持続的な成長と変革を牽引する上で不可欠な視点が提供されています。グローバル化、デジタル化、そして多様性の進展が加速する現代において、組織はますます複雑化しており、画一的なリーダーシップスタイルでは対応しきれない状況が生まれています。
 人事部門としても、この記事の核心である「コンテクスト」の理解を軸に、人材育成戦略を再構築し、組織全体のポテンシャルを最大限に引き出すための積極的な役割を担うべきでしょう。

1. 人材育成戦略の中核に「コンテクスト」を据える:研修体系の抜本的な見直し

 従来の知識・スキル習得型の研修に加えて、「コンテクスト」を理解し、活用する力を養うための研修プログラムを積極的に開発、導入することも重要でしょう。その際、単にリーダーシップ理論を学ぶだけでなく、参加者が多様な「コンテクスト」を認識し、その違いを尊重する態度を醸成することが重要です。例えば、以下のようなイメージです。

  • 「コンテクスト」理解ワークショップ
     
    様々な立場、役割、価値観を持つ参加者が集まり、それぞれの視点から意見を交換するグループワークやディスカッションを通じて、多様な「コンテクスト」を体感的に理解する。

  • ビジネスシミュレーション
     
    現実のビジネスシーンを想定したシミュレーションを行い、参加者が異なる「コンテクスト」を持つ登場人物になりきって意思決定を行うことで、実践的な「コンテクスト」理解力を養う。

  • 異文化理解研修
     
    グローバルに展開する企業では、異文化間の「コンテクスト」の違いを理解することは不可欠。異文化コミュニケーションの専門家を招き、異なる文化圏における「コンテクスト」の違いを学ぶ。

  • ケーススタディ
     
    過去の組織における成功事例や失敗事例を分析し、「コンテクスト」が意思決定やコミュニケーションに与える影響を深く考察する。

  • コーチング・メンタリング
     
    経験豊富なコーチやメンターが、個別のリーダー候補者に対して、それぞれの状況や課題に合わせたコーチングやメンタリングを行い、「コンテクスト」を踏まえたリーダーシップを発揮できるよう支援する。

 これらの研修を通じて、リーダー候補者は、自身の「コンテクスト」を自覚し、他者の「コンテクスト」を理解することで、より柔軟で包容力のあるリーダーシップスタイルを確立できるでしょう。

2. 人事評価制度における「コンテクスト」の導入:多角的評価とプロセスの重視

 人事評価制度においても、単に数値的な成果だけを評価するのではなく、その成果がどのような「コンテクスト」の中で生まれたのかを考慮する必要があります。評価される側が置かれた状況、直面した課題、そしてそれをどのように克服してきたのか、そのプロセス全体を評価に組み込むことで、より公平で納得感のある評価を実現できます。以下の要素はその一つをなすもといえるでしょう。

  • 多面評価の導入
     上司からの評価だけでなく、同僚、部下、顧客など、様々な関係者からの評価を取り入れることで、より多角的な視点から個人のパフォーマンスを評価する。

  • 個別目標設定と進捗管理
     全体目標だけでなく、個々のメンバーの状況や能力に合わせた目標を設定し、進捗状況を定期的に確認することで、個々の貢献をより具体的に評価する。

  • 自己評価の重視
     評価される側が、自身の成果や課題について自己評価を行い、それを評価者と共有することで、より建設的なフィードバックを行う。

  • コンピテンシー評価の導入
     成果だけでなく、行動特性や能力を評価するコンピテンシー評価を導入することで、リーダーシップを発揮するために必要な能力を多角的に評価する。

  • 成長を促すフィードバック: 評価結果を単に伝えるだけでなく、個々の成長を促すための具体的なフィードバックを行い、今後の行動変容を支援する。

 このような評価制度を導入することで、社員は自身の成果をより正当に評価されると感じ、組織への貢献意欲を高める可能性が増すでしょう。

3. 組織文化における「コンテクスト」重視の徹底:心理的安全性の確立と対話の促進

 組織文化においても、「コンテクスト」を重視し、多様な意見や価値観を尊重する風土を醸成することが重要です。そのためには、心理的安全性を確保し、誰もが安心して意見を表明できる環境を整備する必要があります。その方法としては以下が考えられます。

  • オープンなコミュニケーションの促進
    定期的な全体会議やタウンホールミーティング、意見交換会などを開催し、社員が自由に意見を表明できる場を提供する。

  • 匿名での意見収集
     匿名で意見や提案を提出できる仕組みを導入し、立場の弱い社員も安心して意見を表明できるようにする。

  • 積極的な傾聴
     リーダーは、メンバーの意見を遮ることなく、最後までしっかりと傾聴する姿勢を示す。

  • 多様性を尊重する姿勢
     異なる価値観や意見を受け入れ、多様性を尊重する態度を組織全体で共有する。

  • 失敗を許容する文化
     失敗を恐れずに新しいことに挑戦できる文化を醸成し、失敗から学び成長する機会を提供する。

  • 対話の場のデザイン
     チームや部門を越えた対話の場をデザインし、それぞれの「コンテクスト」を理解し合える機会を提供する。

 このような組織文化を醸成することで、メンバーは安心して自分の意見を述べることができ、組織全体の創造性や問題解決能力を向上させることができます。

4. リーダーシップ育成における「コンテクスト」の重要性:変革を牽引するリーダーの育成

 現代の企業環境において、リーダーは単に目標を達成するだけでなく、変化を恐れず、自ら変革を推進する役割が求められています。そのため、リーダー育成においては、単に知識やスキルを教えるだけでなく、多様な「コンテクスト」を理解し、変化に柔軟に対応できる能力を養うことが不可欠です。例えば以下のようなことが考えられます。

  • 変化への適応力
     
    変化の激しいビジネス環境において、現状に固執せず、常に新しい視点や解決策を模索する力を養う。

  • 多様な視点の理解
     
    多様なバックグラウンドを持つメンバーの意見を尊重し、それぞれの「コンテクスト」を理解した上で、チームをまとめる能力を養う。

  • 共感力
     
    他者の感情を理解し、共感する能力を高め、メンバーのモチベーションを高める。

  • 対話力
     
    異なる意見や立場を持つメンバーと、建設的な対話を行い、共通の目標に向かって協力する能力を養う。

  • 倫理観
     
    企業の利益だけでなく、社会全体の利益を考慮した、倫理的な意思決定を行う力を養う。

 これらの能力を身につけたリーダーは、組織全体の持続的な成長を牽引し、変化の激しい時代を生き抜くための原動力となるでしょう。

まとめ

 この記事で提唱されている「コンテクスト」重視のリーダーシップ育成は、人事部門が組織の変革を推進し、持続的な成長を実現するための重要な鍵となります。
 人事部門としても、研修体系の見直し、評価制度の改善、組織文化の醸成、リーダーシップ育成戦略の再構築など、多岐にわたる取り組みを推進することで、多様性を活かし、変化に強い組織を創り上げていくことができるでしょう。


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