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森の手入れとチェンソーと走り屋

 東京にいた頃、何度か高尾山の森でのワークショップに参加したことがありました。シャツを植物で染めたり、焚き火をしたり。森の中で過ごすと気分が清々しくなり、どこからか力が湧いてくるのを感じ、だんだん、森への興味が高まってきました。

 香川に移住して間もなく、「NPOフォレスターズかがわ」という団体に参加しました。森の手入れをしたり、手入れで伐った木で何かつくったり、森や木に関わることをしてみたいと思っていました。インターネットで検索すると、フォレスターズかがわのウェブサイトが出てきてピンときたので、活動に体験参加したり会のメンバーに会ったりすることもないままウェブサイトからすぐに入会を申し込みました。

 会の総会が間もなく開催され、行ってみると、平均年齢は60歳以上で、30代はいなかったようで、「若者が入会してくれました」と発表されると、大きな拍手で大歓迎されました。総会の自己紹介で、「都会で頭脳労働ばかりして、身体をあまり動かいてこなかったので」などと話すと、先輩会員の一人が「見るからにそんなふうに見える」と言われたのが印象に残っています。今のぼくも森仕事をしているようには見えないと思いますが、それから香川暮らしも10年弱、だいぶバランスがとれてきた感じがします。

 フォレスターズかがわでは、森で間伐や枝打ち、草刈りをしたり、保育園や幼稚園、こども園に出向いて森や木のお話をしたり、森の手入れ体験やキャンプなどのイベントを行ったりしています。

 森の手入れで最初に体験したのは、人工林のヒノキの枝打ちでした。材木用にヒノキを育てる際、枝を落として節が表面に出ないようにするのが枝打ちです。長く伸びる専用のノコギリで枝を落としていくのですが、長時間、上を向いての作業で、慣れていないと首が痛くなり、なかなか大変な作業でした。
「慣れてきたら、余計な力を抜いてできるようになるけん」
と、再長齢、80歳を超える大先輩が声を掛けてくれました。

 チェンソーも人生で初めて使いました。まずは、エンジンをかける手順を教わるところから。チェンソーは下手したら大怪我しそうな恐ろしいイメージがありましたが、いざ使ってみると、それほど恐怖は感じず、エンジン音と切れ味が爽快でした。

 チェンソーの扱いにちょっと慣れてきた頃、山の上のほうまで一人で登っていって作業していたら、その後の休憩時間に、先輩メンバーから、
「あんなにフルスロットル(エンジン全開)で切り続けてたらエンジン焼き切れるぞ」
と注意されました。別の方が、
「ブン、ブン、ブーンって走ってるバイクの走り屋みたいな感じでやったらええね」
とアドバイスしてくれました。夜になると、家の近所や遠くから、走り屋のバイク音が時々聞こえてきます。その日から、走り屋のバイク音が先生となり、「なるほど、この感じやね」と、バイクのエンジン音に耳を傾けていました。

 庭付きの古民家で暮らしていると、庭木の手入れをする必要があります。何年も人が住んでいなかったこともあり、けっこう大きく成長した木もいます。大きな木は枝一本でも重たくて、のこぎりの使い方に慣れていない最初の頃はこわごわでしたが、森で大きなヒノキを相手に間伐したりしているうちに、庭木の見え方も違ってきました。

 間伐が遅れて込み入った人工のヒノキ林で背の高いヒノキを伐り倒すには経験に基づく技術が要ります。最初の頃は要領を得ず、伐ったヒノキをつま先の上に落として怪我をしたこともありました。落としどころがよかったのか、不幸中の幸いで、骨が折れたり大怪我にはならずに済みました。今思えば、よく足に落として大怪我しなかったなぁと不思議なのですが、あの時は森が守ってくれたような気がします。森仕事には危険もつきものですが、森や自然への感謝を忘れず、気持ちを整えて作業していれば、森はいつでもやさしく見守ってくれているような安心感があります。

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