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高杉隼人
2017年11月7日 23:32
春休みに入って数日が経ったある日、僕は春樹を連れて美空さんに会いに行った。テスト期間中はずっと試験勉強に明け暮れていたので、久しぶりに彼女と会う機会が楽しみで仕方なかった。春樹を連れて行く理由は、メールで美空さんが僕の友達を見てみたいと送ってきたからだ。「初めまして。栗原春樹です」 春樹が堅苦しく挨拶をすると、美空さんは「進藤美空です。よろしくね」といつもの笑顔を作った。「少し堅苦しい感じ
2017年11月1日 22:51
僕はずっと美空さんのことが気になっている。引っ叩かれた理由も、悲しい目をしている理由も、彼女は何も教えてくれない。聞いても、いつもはぐらかされる。一体、美空さんは僕に何を隠しているのだろうか。 金曜日の夜は、また文也さんに飲みに誘われたので、春樹と一緒にいつもの小ぢんまりとした居酒屋に入った。文也さん曰く、「飲まなきゃ、やってられない」らしい。 僕は図書館でアルバイトをしている文也さんなら、
2017年10月29日 23:14
僕は三日ぶりに大学図書館に足を踏み入れる。図書館で美空さんの顔を見ることが、僕のささやかな楽しみになっていた。彼女の影響からか、僕も今まで敬遠していた欧米文学を書店で手に取るようになった。まずは、彼女が好きなシェイクスピアやトルストイあたりから読み始めようと思う。 僕がいつものように階段を使って地下二階の書庫に下りると、そこには美空さんのほかに、茶色気味でショートカットの女の子がいるのが見え
2017年10月28日 23:40
「また、ここに来ていいかな?」 瓜生さんが階段を上がっていった後、僕は美空さんにこう切り出した。こんなことを聞くなんて、下心でしかないけれど、僕はなぜか、彼女と一緒に時間を過ごしたいと思っていた。「もちろん。待ってるわ」 彼女の答えは即答だった。そして、航君ともっと話してみたいから、と続けた。「ありがとう」 僕がお礼を言うと、美空さんはくすっと笑う。そして、「ありがとう」と彼女もお礼を言
2017年10月27日 22:57
いるはずが無いと思う。でも、確かめずにはいられなかった。初めて彼女と出会った図書館地下二階の書庫。僕は、さっき否定したばかりの希望をどこかで持っていたのかもしれない。 地下二階へと反響する足音とともに降りる。おそらくいないだろうと、心では言い聞かせる。期待をすると、その期待にそぐわない結果が突きつけられた時に、大きなダメージを負うからだ。ダメージを最小限に抑える方法、それは過度に期待しないこと
2017年10月24日 22:41
進藤さんと一緒に本を探した日から、二週間が過ぎようとしている。僕は彼女と探した本を使って、何とかレポートを提出することが出来た。 進藤さんとは、あれから一度も会っていない。文学部で開講される講義を受けているので、教室を見回してみるけどいない。学食や移動中の外を見回してもいない。そのことで春樹に不審がられる時もしばしばある。「どうしたの航。また図書館の彼女を探してるの?」 金曜日最後の講義を
2017年10月24日 22:33
「好き」という言葉は、僕にとってはどこにでもある小さな石ころのように軽く聞こえる。僕が彼女に抱いている感情は、この程度の言葉では言い表せないくらいの底なしに深い感情だからだ。いつから僕が彼女に対して、このような感情を抱き始めたのかは分からない。でも、一つだけ言えることがある。僕は、彼女を愛している。 私立国立(くにたち)大学。国立なのか私立なのか紛らわしい名前の大学に、僕は通っている。僕は