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ブル・マスケライト《仮面の血筋》100ページ小説No.11

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前回までのあらすじ…

主人公たちばなが父の部屋で発見したのは都のぞみの予言だった。
そして切り取られた本から仮面の始まりに気づく4人。
この仮面の世界を終わらせようとする父や先生達の想いを胸にそれぞれの思いが交錯し始める…


【安和ナミの目線】


 「栗ちゃん今日はありがとう…。栗ちゃんが解読して本を説明してくれたお陰でみんな糸口が見えたから。じゃあまた明日ね。10時に家にお邪魔します…」
 「明日は始めて栗原さんの家に行く、忘れないようにしなきゃ」
教室で早めに明日の朝の時刻をセットする。普段休みの日の私は大体昼まで寝るタイプ。すでに目覚ましを頼り、私は教室を出てたちばなの背中を足早に追いかけた。もう先へ行ってしまったのか廊下に出るが誰も見当たらない。階段を駆け降り下駄箱まで行くと彼はいつものようにブッダと話し込んでいた。ニ人に気付かれることもないまま私も急いで反対側の下駄箱へ回り、靴に履き替える。しかし何故か二人は一緒に帰らずブッダはそのまま一人、校門へ歩いて行く。
気づいたらたちばなは別の運動場の方へと一人歩き出す。
「あれ、なんであいつ一緒に帰らないの?」
どこへ行くかと声を掛けてようと思ったが水筒を忘れたのに気がつく。
「金曜日に水筒を忘れたなんて、さすがに母に怒られるわよね…なんで教室で気づかなかったんだろ…」
さっき来たばかりの階段を横目につぶやいている自分がいた。また足早に教室に戻り忘れた水筒をバッグに入れる。さっき別れた栗原さんはもう教室にはいなかった。一人で帰るのもと思い、さっきたちばなの行った方向の運動場を窓を開け上から覗いてみることに。下を覗くと校舎の直ぐ下の旗の前で一人立っていた。
「何してんだろう…あいつ」
わざわざ2階から声を掛けるのもおかしいと、しばらくその様子を見ていると誰かがたちばなの元へ来た。
「エッ?栗ちゃんじゃない?なにしてんの?」
何度見ても栗原さんだ。恥ずかしそうにしながら近寄る彼女を見て何故か心臓の音が聞こえてきた。残念ながら二人の声は聞こえない。そのまま様子を見てると栗原さんがたちばなに何か手紙を渡した様だ。そしてたちばなが何か喋りかけている。いけないものを見た罪悪感から私はこれ以上見続けることは出来なくなり、直ぐに窓を締め教室を出た。さっきの映像が焼きつき、全く心臓が鳴り止まない。そのまま一回へ降りようと思ったが鉢合わせになるといけないので意味なくトイレへ向かう。冷静さを取り戻さなきゃと手を洗い自然と鏡に話しかけている自分がいた…。
「栗原さん…。そりゃそうよね。だってたちばなに仮面外してもらったんだから…。案外積極的なんだねああ見えて… 私は別に… ね」
 瞳孔が開いた鏡の自分を見ていた私は肌の血色を整えようと両手で頬に手を当てた。
「そういえばたちばなはまだ私だけ仮面に見えてるのよね…あんな怖い顔なんだ…今も」
一瞬あの仮面が映り込む気がすると蛇口を捻り、冷たい水で顔を洗出だした。
「ジャーーッッ」
そのまま流れ続ける水の音を聞きながらもう一度鏡で自分を見る。目に付いた雫のせいで自分の顔がもっと仮面のように歪んで見えた。直ぐに目を擦り何ども映り込む自分を見直す。
「何してんだ…わたし…」
制服からハンカチを取り出し歪んだ顔を丁寧に拭き取ると水の冷たさのおかげかもう心臓の鼓動は消えていた。
「もう鉢合わせでもいいや」
勢いよく一階に降りて行く。時間を潰したのが良かったのか、誰もいない。そして一度履いた靴をもう一度履き直し下駄箱の入り口に出ると遠くの門の出口を一人歩く栗原さんを見つけた。しかしさすがに声をかける勇気まで私には無かった…。見えなくなっていく栗原さんの背中を見続けながらゆっくりと私は歩いていた。
「何だ、二人で一緒に帰らないのか…やっぱり気を使えない男だな」
外に出ると空はもう夕暮れで橙色に染まっている。風が吹いていたが少し濡れた襟も空の色のおかげで不思議と寒くは感じなかった。
「明日…行きづらくなっちゃったな…どうしよう」
鈴虫が鳴らすその音色に聴こえない振りをしながらも少し嫉妬をした。
そして不自然な自分の足音だけが細いコンクリートを響かせる。
その道路を歩きながら見てた私は人間が創り出したものの「無価値さ」を一人で嘆いた。
 聞き耳を立てながら歩き、気がつくと一本道の田んぼまで来ていた。ついこの前皆んなで走った光景が目の前にある。どこか懐かしくだいぶ昔に思えた。そして私はこの仮面についての思い出が同時に甦ってきていた。
 そう、あの時私は部屋にこもり急に仮面となった父と母を恐れた。そのせいで学校も行かなかった。怒り、不安、恐れが止めどなく襲い掛かるあの1日は忘れれることなんてない。そんな中、水口先生が家に来てくれた。そしてあの仮面も外してくれた。おかげで父や母に対してあった何かも一緒に外れた気がする。次の日の朝にはどうでもよくなり、当たり前に学校も行けるようになった…。同じ様に栗原さんとたちばなも仮面の生活だった。二人は私なんかよりも長く。そしてたちばなが栗原さんを救った。そんな栗原さんは一生懸命に本を解読したり手伝っている。もし、私も外れてない状況で学校に行ってたらどうだったのかな?栗原さんと同じ様に…。
そして今でもたちばなは外れてない。それなのに…
「わたし…何もしてあげれてない…。何も知らずに外してもらってそれなのに皆んなの役に立つこともないなんて」
今やっと自分の置かれている立場に気が付き涙が自然と溢れ出した。
「それどころか、わたしがいるせいで、たちばなはいつも仮面を見なくてはいけない…それがどんなにあいつにとって辛く苦しい事か、わたし、何も考えてあげられてなかった…」
ただただ何もできない自分が情けなかった。鈍感な自分が嫌いすぎて居た堪れなくなった。歩くことも出来なくなった私は、その場でしゃがみ込み下を向いて泣き続けた。泣きながら感情の拠り所を探した。でも残念なことにそんな場所は何処にも見当たらなかった。
「何にも無いのね…いつも私って…」
「昔から不器用でなんでもかんでも全て否定して生きているし。いまさら直そうなんて無理か…」
そこまで自分が器用では無かったことを思い出し諦めかけたその時、ふと地面を見ると冷たいコンクリートの脇に一本の小さく細い花がか弱く咲いていた。
 それはとても綺麗な『碧色』だった…
私は涙を拭い立ち上がり辺りを見渡すと偶然にもその場所は、黒い車が停まって見ていた「あの場所だった…」
「そういうことね…」
私はひとつだけ決心し服についた砂埃を払い暗くなった夜道を一人歩い続ける。
「ただいま」
「おかえりナミ。遅かったね。すぐお風呂入れるわよ」
何も言わずそのままお風呂へ入り、髪も乾かさずに部屋へ行った。ベッドに横たわると携帯を手に取り送信した。そしてセットしていた目覚ましを消すとその場へ携帯を置きリビングに行った。
「ああおかえり、ナミ」
父が言った。あの日から父と母は嘘の様に仲が良く、前までの家での心配のタネが減ったのが救いだった。リビングも模様替えして暖かい色の家具が揃いダイニングには3色のお花が花瓶に飾ってある。どうやら父が買ってきたようだ。父も仕事で遅いことが減り真っ直ぐに帰ってくることがほとんどだ。もちろん仮面の話しはしていない。
「あなた、ナミのご飯装ってくれる?」
「うん、あれナミ、髪を先に乾かさないと風邪引くぞ」
父もよく手伝ってる光景が目立つ様に。私はドライヤーを取りに行きリビングで乾かした。誰かが言ったわけでもなく、夕食は3人で食べることも増えてきていた。そして会話も…。いや二人は仲良いが私はまだそんなに急にはって言うのが正直なところ。ドライヤーを置きに行きダイニングのイスに座ると直ぐにTVを付け食べ始めた。その後、母達も座り二人は食べながら次の模様替えの話を楽しそうにしていた。最近は大体こんな会話ばかりだ。もちろん昔よりはいいけど。
「ごちそうさま」
「あら、もういいの?」
「うん」
私は食べ終わり直ぐに自分の部屋へ戻った。ベッドに横たわりさっき送ったグループメールを確認した。
[どうしたんだ急に?][大丈夫ですか?][あわナミが来ねーと盛り上がらねーよ、いいからとりあえず来い!]
とりあえず来いって…何よあいつ。そう思いながら着信履歴があったので確認した。そこには驚くことに3人から着信があった。
「3人とも?…わたしだいぶ勘違いしてたのかなぁ…」
嬉しかった。正直そうなんだーくらいで終わると思っていた。皆んなに心配させるのは余計に良くないことなんだと着信履歴を見て気付かされた。
「…いや余計に面倒なことになりそうだ」
そう呟くと[やっぱり行く]と皆んなに送っていた。直ぐに返信が来た。
[そりゃそうだ。最初から素直になれよ][気が変わったか?相変わらず面倒な奴だな][ありがとう、待ってます]
「おい、あの二人、わたしのことを心配してくれてたんじゃ…まあいいわ」
3人の反応だけで自分のキャラが戻ってきたことに素直に嬉しかった。
 「明日は栗原さん家ね。まだ私もあの子のことあまり知らないからなあ。どんな部屋なんだろう?全部キャラクターの柄で統一してあったりして。しかもラブリーピンクで。いや案外逆にダークブラックな感じで骸骨の置き物とか血だらけの壁とか机の部屋かも」
気がつくと想像してたらワクワクしている自分がいる。
「しかもお手伝いさんがいる生活なんてドラマとかしか見たことないしほんとお嬢さんよね、あの子は。普段何食べてるんだろう…冷凍の牛丼とか食べたことないよねきっと。中々出会えない子と仲良くなれて良かった…。将来は医者の人と結婚だね…」
 「明日早いからもう今日は早く寝よ。あ、いかん!そういえばまた目覚ましをセットしなきゃ」そういいながら携帯を手に取り部屋の電気を消した…

 土曜日、約束の10分前に栗原さんの家の前に着いた。今日はいつもより冷える肌寒い日。私は鉄骨の重厚感ある門に気が引けてインターホンを押せず他の2人を待つことにした。
「待って、さすがに初めてここの家を一人で入るには荷が重い。早く来いあの二人…」
それにしても立派過ぎる家だ。門の横にはガレージがあり横に2台は余裕で並べる広さはありそう。きっと高級車が中に閉まってあるんだろうと想像できる。家の周囲はらは白い鉄骨の壁で囲まれ中の様子は外からでは分からない。上を見上げるとまた白い鉄骨に数多くの窓がある。そしてその上がバルコニーテラス。少しだけ緑が見えるのできっと木でも置いてあるのだろう。ただでさえこの広大な敷地にあのバルコニーでより一層お金持ち感が出てる。ここに住んでる人と友だちになれたんだと改めて実感した。一応わたしは普段着ない茶色の靴にワンピースをまとい朝から頑張って前髪を巻いてオシャレにしてきたかいがあったと思った。
そこへ一台の車が来た。たちばなのお母さんの車だ。私に気付くと近くに停めて顔を出した。
「あらナミちゃん、久しぶりねーまた綺麗になったね、背も伸びて。うちの子をよろしくねー」
そういうと直ぐに車は行ってしまった。知らない間に道路側からたちばなは降りていた。
「キーーイィ!おっす、あわナミ!時間ピッタリに着いたぜー」
今度は自転車の擦れたブレーキ音と共に文太がやってきた。音だけで貧乏感が出てる。そんなオンボロのチャリンコを置く場所では無いと思った。
「いやーさすがに凄いなあ栗原の家。東京ドームぐらいあんじゃねーか?」
「お前、東京ドーム見たことねーだろ。でも俺の家の3倍は軽くあるな」
そう言いながら自転車を門の脇に停めている文太の横でたちばなが家を眺めている。
「大きいよねー、て言うか何その格好?」
文太はスーツに何故か蝶ネクタイを付けている。
「気合い入れてきたんだよ!お嬢様の家だかんな」
「その発想が田舎モンなのよ。よくそんな物が家にあったわね」
「これハロウィンの時に買ったんだよ!いいだろー?」
自慢げに話すブッダを呆れてたちばなが言った。
「あの時のかそれ?コイツ100均で買わずにシャレた雑貨屋で買うからやめろっていったのに聞かなかったんだよー」
「で、いくらよそれ?」
「へへへ、2980円。そんでこの靴が8600円」
よく見たらスーツに橙色のスニーカーを履いてることに気が付いた。
「高っ!しかもセンスがピエロ急に無いわね。まぁお笑い担当のブッダとして見ればさすがと言うべきかしら。ところでたちばなは相変わらずいつものカラスね」
たちばなの格好はとくに気にする様子もなく黒のYシャツに黒のジーンズを履いていた。わたしの言葉にも表情ひとつ変えずいつも通りな感じだ。
「とりあえず中に入ろうぜ」
そう言いながらたちばながインターホンを押した。
「ピーンポーン…あっはい」
明らかに栗原さんじゃない人の声だ。多分お手伝いさんだろう。戸惑いながらもたちばなが話す。
「あ、えーとたちばなです」
「静恵のお友達ですね。どうぞお入り下さい」
「ウィィン、ガチャッ」
門にある巨大なオートロックが動きその横のランプが点滅しだした。3人はなぜか急いで扉を開けてランプが消える前に入って扉を閉めた。閉めると直ぐにオートロックされる音で3人は門を振り返りちゃんと閉じられているかを確認していた。
「すげーな。おい見ろよ」
その声に二人とも庭の方を振り返ると外からでは分からなかった庭園の全貌が目の前に現れた。
「きゃー!まるでヨーロッパの楽園じゃない。ステキ!」
そこには洋芝が敷き詰められ球体にカットされた木の曲線がここから100mはあるだろう家の玄関までいくつも両側に並んでいる。さらにその庭園には薔薇の花壇や天使の像、アイアン製のアートチックなベンチなどあり別世界だった。私達は興奮しながらレンガの道を進んでいく。ブッダは両手を広げ一人メリーゴーランドをしてるかのように回りながら足早に先を急いだ。遠くから何やら音が聞こえてきた。
「ザザァー」
「おい、早くこっち来いよー」
文太の方へ急ぐと右手には噴水がありその周りの円形状のレンガで囲まれた池にはあまり見たことのない熱帯魚のような綺麗な魚が泳いでいた。
「釣り竿を家から持って来れば良かったなー。すげーな栗原んちわー」
「もうここまできたら嫉妬よー。私、今日からここに住むわ!」
「もう3人ともここの養子になろうぜ」
「ガチャッ」
「どうもようこそお越しくださいました。どうぞ中に入って下さい」
白と水色の刺繍のエプロンを着た女の人が玄関に現れた。インターホンの人と同じ声だ。3人は、はしゃぐのをやめて玄関に向かった。
「あのー、もしかしてお手伝いさんの方ですか?」
私が声をかけると和やかに返してきた。
「はいそうです。私の他にあと2人いますので今日一日よろしくお願いします。それでは案内致しますね」
私の返事にとても優しく答えてくれた。ここに相応しい礼儀正しいお手伝いさんの印象。こんなお手伝いさんがあと二人もいるんだと感心しながら中へ入った。
 そこはもうホテルのロビー様で玄関の上が吹き抜けになっており天窓から刺す光りが高級なシャンデリアを輝かせている。床は白い大理石で奥にはグリーンの輝いた手すり付きの螺旋階段と左右対象に置かれている花瓶の様なオブジェがある。それは身長くらいの高さでどうやらスワロフスキーが散りばめられているようだ。それなりにイメトレをしてきた私だがどこもかしこもキラキラしていて気がつくと口が開きっぱなしだった。平民の3人はいつもになく丁寧に靴を揃えるとそこに並んでいた白い毛皮のスリッパに履き替えた。
「暖かい!なんで?」
ここ最近の私の家は床が底冷えし冷え性の私は辛い思いをしてるのになんでと驚いてるとお手伝いさんが説明してくれた。
「ここのフロアーはお父様のご要望で特殊な大理石を使用されているようです。熱電線が中に入っており温度が下がると自動的に床暖房の役割をしてくれています。大理石なので見た目は冷たそうなのにとこの季節に来てくださる皆さんが全員驚かれますね。それでは静恵様はお二階でお待ちですのでご案内しますね」
私たちは周りをキョロキョロしながら螺旋階段を登っていった。階段には額に入ったロココ調の油絵が複数壁に貼られ少し上がるたびに絵画の優しい顔と目が合う。まるで天使達に「ようこそ」と出迎えられているかの様な印象だ。男子二人はもう圧倒されている様子で何も喋らない。
 二階へ上がると正面にお花が飾られてありソファが壁づけに置いてある。後ろを振り向くとここから一階のフロアーが透明な手すり越しに覗けた。どうやらここに座って一階を眺める為の様だ。そして左右に渡って廊下が続いている右側を私たちは進む。突き当たりを左に行くとすぐ近くに2つの部屋の扉に挟まれ長い廊下の奥にもいくつか部屋があるのが見えた。
「お手洗いはこちらですのであらかじめ覚えておいてくださいね」
優しく右手で示してくれた扉の上に英語表記で掲げられた大理石のマークがあった。これだけで細部までこだわりを感じられる作りだ。
「オイたちばな、俺がトイレに行くときはついてきてくれよな」
どうやらブッダは場所を覚えられない様だ。そしてそのまま奥へ進むとようやく栗ちゃんの部屋にたどり着いた。扉には一部ガラスの窓枠がありこの枠の色がノブのレーバーと統一され紫色になっている。この扉の前でお手伝いさんが呼んだ。
「静恵さん、お友達をお連れしました」
「あ、はーい!皆んなどうぞー」
中から栗ちゃんの声がする。
「それではごゆっくりとくつろいで下さい」
そういうとお手伝いさんが扉を開けてくれた。ラベンダーの爽やかな香りが部屋から飛んで来る。その香りに入りづらくなった男2人は急に私を押し出し無理やり先に入らせた。
「ちょっちょっとー。あ、栗ちゃんお邪魔しますー。相変わらず部屋も凄いねー。あんたらも突っ立ってないでさっさと入りなさいよ」
「「お邪魔しまーす」」
私に言われてやっと入ってきた二人を微笑みながらお手伝いさんは扉を閉めていった。部屋の中はうちのリビングくらいのスペースがあり大きな本棚とピンクの二人掛けソファーそして勉強机がある。周りは紫色を基調とした壁紙に縦長の棚にはぬいぐるみが飾られている。床はふわふわのじゅうたんにこれも紫色の丸いクッションが4つテーブルを囲って置いてある。栗ちゃんと私はそこに座り男二人はなぜか少し離れたピンクのソファーにかわいくうずくまっていた。
「もうねー凄すぎて何から言っていいか分かんない。お父さん達ただのお医者さんじゃないよね?」
「ううん、普通の外科医だよ。でも何個か病院を持ってるみたいだけど」
「何個か持ってるの?それはもう普通とは言わないよ。きっとバッグ感覚で持ってるのね。どうしたらこんなうちに生まれて来れるのかしら?」
「栗原は相当なジャンケンの数を雲の上で勝ち取って来たんだよ。きっと100万人くらい倒したんだ」
「私そんなにジャンケン強くないですって」
たちばなは全く会話に入ってこない。部屋中をキョロキョロしているだけだ。
「もうそこのモヤシとしめじ、いい加減こっちに来たら?」
そういうとたちばなはやっとこっちを向き渋々クッションへ座った。それを見てブッダも座り出しようやくテーブルを囲って話せるようになった。
「そういえば栗ちゃん、今日はそれ普段着?凄い可愛いけど」
「違います。これがフランスの民俗衣装です。後でナミさんにも来てもらいますね」
恥ずかしそうに言った。白色のふんわりとした衣装だ。
「可愛い!うそ、私も来ていいの?」
「もちろんです。ぜひ!」
「あわナミはやめとけ」
急に喋ったと思ったら私への言葉だった。私は目を細めて言い返す。
「今日はたちばなの免疫力を鍛える日よ!私が仮面に慣れさせてあげるわ」
そう言うと私はバッグからある袋を取り出した。それを広げて机に乗せるとたちばなは声を上げる。
「オイ、何だよコレー?」
「そう、仮面クッキーよ!カワイイでしょ?青色を出すのに凄く大変だったんだからー。さあ皆んなも食べて!」
「すげーなこれ!あん時見たやつとそっくりだ!」
「でしょー」
「凄いですナミさん。朝から準備してくれてたんですね。私こういうの作れなくて」
「簡単よ、こんなん。クッキー買って色を着けただけだから。たちばな!さあ食べて克服しなさい!」
「わざわざこんなんしなくても、もう仮面を恐れて無いからー」
そう言いながら口にした。なんかきみ悪がっている様子が微笑ましかった。ほかの二人も食べている。口がパサパサになった3人を見て飲み物が必要だったと思っているとベストタイミングで扉をノックする音がした。
「コンコン、静恵さんお飲み物を持ってきました」
その声に何故か文太が反応しすぐさま扉を開けた。
「お手伝いさん。ありがとうございます。あとはわたくし袴田文太が運びますのでお部屋でごゆっくりくつろいでいて下さい」
「あらわざわざすみません。お飲み物ですので気を付けて運んでね」
そう言われるとブッダは目を輝かせお手伝いさんによく分からないアピールをしていた。どうやらお手伝いさんを気に入ったようだ。
「ブッダってほんと隙がないわね」
「なんか言ったか?お待たせ致しましたー。こちらはチョコレートパフェでございます。冷たいのでお気をつけてくださいませ〜、って熱!」
そう言いながら皆んなに配った。それは上にホイップクリームが乗ったホットココアだった。
「よく見て言えよ、どこがチョコレートパフェだよ?」
「さすがね、ブッダは」
「あはは」
ボケ一人に対しツッコミ二人にお客さん一人、いつのまにか4人の定番の流れになっていた。このまま4人はこの部屋で仲良くたわいの無い話が続く…


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