漱石代わりの夏目なつ子 第一話
第一話 吾輩と夏目なつ子
「こんにちわ」
目の前に現れた猫が喋った。
家の庭で洗濯物を取り込んでいる時に、植木の裏からテコテコと歩いてきて姿を現した、見知らぬ黒猫だった。六月の梅雨の晴れ間の夕方のこと。
「猫が喋った」
私はあるがままのことを、ぽつりと呟いた。両親は外出中で、今、家には私の他に誰もいない。
「そうですね。私は猫です」
やけに落ち着いた声。つやのある短毛。誰かにブラッシングされているというよりかは、入念な毛づくろいによるものだろう。顔に、野良が持ち合わせる険が