勇気がなかった。あの時私に伸びてきた手を握ってキスしていたら、もう少し別の関係になれたのかな?自分を賭けに出せばよかった。そうしたら、全然違うワタシでいられたのかも。椿の花を見ると、いつもあなたの瞳を思い出す
1本の白百合。花束じゃないけど、恋をした。笑うのがちょっぴり下手で、うれしいときはいつも皺寄せた瞳を足元に落とす。恥ずかしがりやの彼が少しだけ口元を緩ませる瞬間がたまらなく愛おしかった。がっしりした体からあふれ出るほころびは、まるで花のようだった。
ずっと私の人生のピースでいて欲しいし、私もあなたの人生の一隅を照らしたい。 そう言うとあなたは息を詰まらせて、それほとんどプロポーズじゃんと言った。 確かにそうだね。でも、結婚なんて紙切れ一枚のことでしょう? その紙切れ一枚が大変なことなんだよ。あなたは苦笑した。
平気になりたくないな。ずっとずっと悲しんで苦しんでいたい。最後に会った駅のホームを苦々しく思い出し、並んで歩いた街を一人胸を焦がしながら歩きたい。もっと本音を言えば良かったと思った次の瞬間、もっと口を噤んでいられれば良かったと思いたい。君を恨むのと同じ位好きでいたい。
Amazonで本を買うのではなくて本屋で本を買いたいな。ぶらっと店内を巡って、ちょっと気になったタイトル、鮮やかな装丁、心をきゅっと掴む佇まいの本に会いたい。紙袋を胸に抱えて歩き、帰りの電車でパラパラめくりたい。隣には電器店で戦利品を得てほくほくのあなた。二人分のドーナツ。
「生きてまた会おうね」 ヘッドフォンから聴こえる声に鼻を啜る音が混じる。この子はいい子だ。でも大げさだしちょっと重たい。可哀想だ、僕がそう思ってるのも知らずに。 「僕も淋しいよ」 また僕は安心させるためだけの嘘を吐く。この嘘も愛だと自分に言い聞かせながら。
遠くからの方があなたをよく見られることは分かっていた。自分自身が良く分からないように、近くなればあなたのことが見えなくなると。でも、もはや遠くから眺めるだけでは物足りなくなっていた。境界線がないほどに溶けあおうとすれば、いずれ別離が来ると知っていたのに。