小さな手の握る力よ生命よ DNAの繋いだ未来
ふるさとの実家の庭のカンナ咲く 今は無人の空き家の庭に
周辺の携帯電話一斉に 緊急地震速報を告ぐ
あの日から何を学んで忘れたか 再び巡るバブル崩壊
ガラス越し聞ゆ嬰児の泣き声に 目尻を下ぐる新祖父母かも
八月の陽の入り少し早まりて スコットランドの白夜恋しき
巣立ちたる子らの訪れ待ち侘びて 熟し落つるか庭の沼酸槐
凡夫にも救いの道を示したる 南無阿弥陀仏ありがたきかな
夏雲を背負う山脈 母親を施設に入れし我を責めるか
納骨を済ませて父の故郷の 山野を眺め思いを捨つる
大暑なり大粒の汗拭きもせず 早場米は稲刈りの時
見上げれば月ぬ美しゃや十三夜 先島の唄恋しく想ふ
サフランは斜面に咲くと教えたる 君は何処の山に暮らすや
連休に娘手料理置いていった たったそれだけ何故にキュンキュン
歓声は高校野球の県予選 閉ざす店舗に微かに響く
草の根を四年の時が固めたか 権益求め群がる支持者
烏賊不漁の全国ニュースに煽られ 特売品手にする主夫かも
海風は心地よけれど胸塞ぐ 父の病状聞きし帰りに
言霊を呼び起こしたか都知事選 二番じゃダメなんですかとぞ問う
理髪屋の棚に積まれし旧刊誌 一月分を一気に読むか
肘を突き携帯寝かせ話しけり 受話器持つ手は痺れを知らず
朽ちるのを待つかの如き役場跡 驟雨は去りて蜩の雨
下船する無表情たる官僚の 作り笑顔ぞ疑いを抱く
猛禽の食うや食わずで空を駆る 肥満の我は恥じて歩かむ
レタッチは破片合わせの心意気 修めた業を失くさぬように
藺牟田池の畔に住む人ありき 覗きたし否見ぬが花
天麩羅はおくらアスパラ茄子茗荷 この歳なれば野菜ぞ美し
歌詞が出るアンドロイドのスマホにも 今更驚くIT社会
火山灰夜は見えねどパラパラと フロントガラスに音立てて降る
過疎進む鰹の町の道の駅 若き女客はユーチューバーなり
膨らんだコタツ布団をそっと蹴る そこにお前はいないけれども
父の日に娘に呼ばれ水羊羹 都の菓子は雅なりけり
転院する卒寿の父の手続きに 線状降水帯の中へ行く
コロナ明け再開嬉し地元の湯 恋する二人空気を汚す
罪人の首を晒せと蔵漁る 群れて競うはメディアの性ぞ
「告発」とドラマの如き警視正 勾留理由開示請求
梅雨時は生命の季節伝えども 生成AI拒み描かず
玄関の鏡に映る乖離性 お前は誰だ問うも虚しき
驟雨降る鰹の町の昼時は 道の駅のみ賑いてあり
駅が消え面影薄き通学路 傘の内なる君を思えど
午前五時採血のひと声優し 目元涼しげ二の腕逞し
一番心配な次女東京へ 送迎デッキ雨の空港
停電の離島の夜に煌々と 灯台のみぞ世界を照らす
午前二時カーテン越しにテレビ点き 息を潜めて様子うかがう
花嫁の父逃げ水の路を行く 幼き口もと想いおこしつ