小説を書くことは、「京都市東山区っぽい体感」を伴う。もちろん、あくまでも私の場合。全体的に群青色に鄙びていて、かつて路面電車が通っていた名残りで街路は広く、ギャラリーや工芸の店が点在していて、それらのショーウィンドウに美術展のポスターが貼ってあり、なぜか夕暮れを早く感じる界隈。
ソルのつぶやき。ベルクソンの『物質と記憶』に出てくる「逆円錐」。逆円錐の上部は、無限の多義性=接続過剰な領域。無数のイマージュがランダムに離散集合する記憶の無辺だという。それはまさに今、僕が、致し方ないこととはいえ、溺れるに至っている状態を表している。逆円錐の先端部は、行為!
「うわ、すっげー月がきれ~!」アルジズがつぶやく。彼女の前を、野球帽をかぶった男の子が、ゆるっとしたジーンズとスニーカーという格好で歩いていく。リラックスした顔つき。アルジズに向かって親指を立てて見せる。彼にとって知り尽くした界隈、テリトリー。今日も機嫌よく流しているのだろう。