【劇評196】七之助、中車、猿弥が、歌舞伎の境界に遊ぶ。それにしても七之助は、勘三郎に似てきた。
ご趣向の芝居である。
十二月大歌舞伎第二部は、七之助、中車、猿弥による新作歌舞伎『心中月夜星野屋』。落語の「星野屋」を元ネタに小佐田定雄が脚本を拵え、今井豊茂が演出した。
初演は、平成三〇年八月の歌舞伎座で、そのときも、落語の話芸をよく、歌舞伎の身体に置き換え、ヴァラエティに仕立てたものだと感心した。
中車は、中年からの歌舞伎役者だから、身体そのものに、歌舞伎の型がたたき込まれていない。この舞台は、歌舞伎の様々なイディオムをモザイクのように散りばめてある。その点、引き出しのある七之助と猿弥の「心中の作法」をめぐるやりとりは、技藝をどれだけ崩していくか、ひたすら遊ぶだけの余裕がある。歌舞伎の型をふまえつつ、そこからどれだけ逸脱するかが、笑いを誘う。素なのか即興なのか、境界をみせるのは、亡き勘三郎が得意とした手法でもあった。このごろの七之助は、ますます、父勘三郎に似てきた。単に柄や声ではなく、境界を遊ぶ藝質が似ているのだ。大向うはいないが「そっくり」と声をかけたくなる。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。