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長谷部浩の俳優論。

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歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
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#坂東巳之助

【劇評368】六法の意味を問う「きらら浮世伝」は、革命的でさえある。

【劇評368】六法の意味を問う「きらら浮世伝」は、革命的でさえある。

 鳥屋から本舞台へ。花道のつけ際から鳥屋へ。役者の力感がほとばしる「六法」はいつも観客をしびれさせる。

 二月大歌舞伎昼の部は、巳之助、隼人、小太郎による『鞘当』である。きっちり型の決まった演目は、歌舞伎の役柄の類型をどれほど演ずる役者が理解しているかが問われる。

巳之助の丹前六法

 今月の『鞘当』は、まず、巳之助の丹前六法がいい。十代目三津五郎の後継者として、型をゆすがせずに、精一杯勤める

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【劇評365】新春の歌舞伎座。繭玉と鏡餅に彩られためでたき狂言の数々。六枚。

【劇評365】新春の歌舞伎座。繭玉と鏡餅に彩られためでたき狂言の数々。六枚。

 あけまして、おめでとうございます。新年は、歌舞伎座昼の部から。

「対面」は、曽我物というだけではなく、五郎十郎はじめ多くの役柄を網羅している。それだけに、新しい年の歌舞伎座を背負っていく役者の顔見世の要素を兼ねている。新たな気持ちで見る「対面」は、五郎に巳之助、十郎に米吉とまことに清新な顔ぶれで、祝祭感にあふれていた。

 上演年表を辿ってみると、私の記憶にある「対面」は、現在の松緑が二代目辰

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【劇評343】趣向の夏芝居で観客を沸かせる幸四郎。進境著しい巳之助と右近。

【劇評343】趣向の夏芝居で観客を沸かせる幸四郎。進境著しい巳之助と右近。

 趣向の芝居である。
 七月大歌舞伎夜の部は、『裏表太閤記』(奈河彰輔脚本 藤間勘十郎演出・振付)が出た。昭和五十六年、明治座で初演されてから、久し振りのお目見え。記録によれば、上演時間は、八時間半に及ぶ。私はこの公演を見ていないが、演じる方も、観る方も恐るべき体力が必要だったろう。

 二代目猿翁(当時・三代目猿之助)が芯に立つ。猿翁は、スピード、ストーリー、スペクタクルの「3S」によって、復活

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【劇評234】巳之助代役の『加賀見山再岩藤』。上上吉の出来映え。

【劇評234】巳之助代役の『加賀見山再岩藤』。上上吉の出来映え。

 代役は、役者が大きくなるための好機である。
 猿之助の休演を受けて、巳之助が八月花形歌舞伎第一部で、芯となる役を勤めた。

 『加賀見山再岩藤』では、鳥井又助に配役されていたが、この役は鷹之資に渡した。巳之助は、多賀大領、御台梅の方、奴伊達平、望月弾正、安田隼人、岩藤の霊の六役を早替りで演じ分けた。

 早替りであり、しかも、今回は上演時間を二時間以内に収めての「岩藤怪異編」である。すべての役が

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