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本棚に人生がある。

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思えば、本ばかり読んでいた。幼い頃からひとりの時間が多かったので、他にすることがなかったからで、こんな人生になってしまった。けれど、もちろん後悔などない。今日も、明日も、明後日も…
短くてサクッと読める本についてのよしなしごとを書いていきます。ぴしっとした書評、のんびりした随想が…
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記事一覧

演劇人の自伝を読んで、思うこと、いくつか。

 このところ少し時間に余裕ができた。  今取りかかっている改稿作業にともなって、初出原稿…

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長谷部浩
1か月前
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次期副大統領J.D. ヴァンスの回想録には、ある種の切迫感があった

 光文社未来ライブラリーで文庫になった『ヒルビリー・エレジー』を読み始めたら、既視感に捉…

長谷部浩
2か月前
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さようなら 谷川俊太郎さん

 自分自身の意志ではじめて求めた詩集とEP盤がわすれられない。 思潮社版の『谷川俊太郎詩集…

長谷部浩
2か月前
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近松は女をどう見ていたのか。松井今朝子の『一場の夢と消え』

 松井今朝子の『一場の夢と消え』を読み終わる。歌舞伎を題材に数多くの小説を発表してきた作…

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長谷部浩
3か月前
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『アメリカの悪夢』は、大統領選を控えて、現実を直視せよと、日本人に語りかける。

 なぜアメリカへの渡航を控えていたか  今、必要な本はなんだろうと考えてみた。 ディヴィ…

長谷部浩
3か月前
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随想のふりをしながら核心に踏み込む

 東京新聞に書評を書きました。現代台湾の作家クオ・チヤンシェンの『ピアノを尋ねて』です。…

長谷部浩
4か月前
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河合祥一郎訳の『新訳 ドリアン・グレイの肖像』は、クリアな世界を構築する。

 すっかり忘れていたのだけれども、オスカー・ワイルドは、中学生時代に愛読した。今、思えば、ワイルドが好きな中学生などというものは、鼻持ちならないどころか、うさんくさく思える。私が読んだのは、新潮文庫版、福田恆存訳だった。  その後、二○一二年には、光文社の古典新訳文庫から、作家の平野啓一郎訳が出ているが、私はこの訳を読んでいない。  今回、角川文庫から出た『新訳 ドリアン・グレイの肖像』は、シェイクスピア学者として知られた河合祥一郎の訳である。一読して、その訳文は実に平易で

【リファレンス1】イキウメ『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』。原典のあれこれ。

  観劇をきっかけに、読書の幅を広げるのは楽しいですね。  イキウメの『奇ッ怪 小泉八雲…

長谷部浩
5か月前
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日本民藝館を暑い午後に訪ねた

 駒場にある日本民藝館に行ってきた。  三十年振りかもしれない。  簡素な佇まいは、以前と…

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長谷部浩
6か月前
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【劇評家の仕事1】 野田秀樹の『正三角関係』を観る前に、『カラマーゾフの兄弟』を…

 劇場に行く前に、戯曲を読むかどうか。  これはなかなかむずかしい選択です。  もっとも…

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長谷部浩
8か月前
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河合祥一郎による『新訳 サロメ』(オスカー・ワイルド)を読み解く楽しみ。

 翻訳家・東京大学教授の河合祥一郎さんから、オスカー・ワイルドの『新訳 サロメ』をご恵贈…

長谷部浩
8か月前
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松岡和子の人生に迫る『逃げても、逃げてもシェイクスピア』

二○二一年五月、松岡和子は、『終わりよければすべてよし』を筑摩書房から刊行し、シェイクス…

長谷部浩
8か月前
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九段理江『東京都同情塔』の挑発。

 友人の編集者に勧められて、九段理江『東京都同情塔』を読んだ。 ザハ・ハディッドの新国立…

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長谷部浩
1年前
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永井紗耶子の『木挽町のあだ討ち』は、芝居町の人々の生をひととき輝かせる。

 すでにお読みになった方も多いと思う。  永井紗耶子の『木挽町のあだ討ち』は、「藪の中」を思い出させる趣向のミステリーで、存分に楽しんだ。  『仮名手本忠臣蔵』をはじめあだ討ちは、歌舞伎の伝統的なテーマなのはいうまでもない。野田秀樹脚本・演出の『野田版 研辰の討たれ』は、二十世紀の新作歌舞伎として、新たな視点を導き出した。  あだ討ちは、観客の集団的な無意識によって大きく動かされる。あだ討ちを志した武士は、町人たちの声援によって、目的を果たす。野田秀樹は、役者のパフォー

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